第一三話「追放されたけど、次の居場所を見つけられたってやつ?」

 一〇一日目。

 この日は一日中料理をして酒を開けて、やんややんやと盛り上がった。せっかくの迷宮一〇〇日記念なのだ。祝わなくては損というものだ。



 魚の腹を裂いて香草を詰めこみ、塩焼きにしたもの。

 生姜とコショウをアクセントに加えたワカメのスープ。

 シカの骨、イノシシの骨を強い火力で煮込んだ出汁を取り、根菜類とつみれ団子を投入した豚汁。

 塩を揉みこんで表面がパリッとなるまで焼いただけの、野趣味溢れる骨付き肉。

 布で裏ごししたイモ類とガーリックを欠片を焼いたものとチェダーチーズを熱しながら混ぜ合わせて作ったチーズフォンデュソース。

 塩気の強くて固いブレッドをゴリゴリと削って、上からドレッシングと一緒にまぶした葉野菜のサラダ。

 これらが実に、ワインと合う。

 葡萄の強い香りと、渋いタンニンの味わいが、味の強い食事になれた舌を刺激する。



 おかげで二人して酔っぱらってしまった。



「ミロク……貴方はどうして、こんな醜い顔の私にいろいろとしてくれるのかしら? 何を考えてるか教えてくださる?」



「ほえ? え、何にも? 醜い顔とかよくわからんし、顔がすべてみたいな価値観が俺にはよくわからんな?」



「……そうね、私もよくわからなくなってきたかもしれませんわ?」



「そりゃなんだ? 元々はきれいな顔で、そのせいで人生が色々と狂っちゃって、今度は顔が出来物だらけにさせられちゃって、あっさり居場所を捨てられちゃって、顔以外の自分の価値って何なんだろうみたいな気持ちになるのもわかるけどさ?」



「もう、そこまで言ってませんわよ!」



「今度は牛?」



「こーら、ふざけないでくださいまし」



「でも俺もまさにそれ、顔じゃないけど付与魔術ね? 俺が付与魔術でみんなをサポートしてきたから、今の瑠璃色の天使があるのにさ、俺の付与魔術があまり機能しなくなってきたころにあっさり捨てられちゃってさ、俺の付与魔術以外の価値って何だろうって感じ?」



「あら、ミロク、もしかして酔ってます?」



「超酔ってる」



「うふふ、私も酔ってますわ」



「でもさ、今は違うじゃん? 付与魔術頼りだけど、ほら、それ以外の価値っていうか、自分で自分を認められるような気がしてきたんだ」



 何言ってるんだろう、俺。

 酔いに任せてだいぶ失礼なことも言ってしまった気がする。掘り返すと余計失敗しそうだから触れないでスルーするが、俺は内心で余計に自分がわからなくなっていた。並列思考も酔っぱらっているらしい。



「追放されたけど、次の居場所を見つけられたってやつ?」



「あら、私かしら? 甘えてもよろしくてよ?」



「うるせ、お前まだ半人前のくせによく言うぜ」



「はあい。でも突拍子もないことで振り回すのはやめてくださいまし?」



「え、俺何もやってなくない? また俺何かやっちゃいました?」



「さあ?」



 ここから先はよく覚えていない。眠くなったので寝室で横になったのは覚えている。皿洗いしなきゃ、明日でいいや、みたいな問答を自分の中で繰り返したあとは、ぐっすりと夢の中に落ちたはずだ。

 隣にクロエが入ってきたときも、その瞬間だけちょっと起きたが、すぐに意識が途切れた気がする。

 ちょっと飲みすぎたらしい。だが、酩酊の中で眠るにしては気持ちの良い眠りであった。











 一〇二日目~一〇九日目。

 海底を探索して分かったことが3つある。

 空を泳ぐ魚を罠にかけるのは難しい、貝類に遠くから石をぶつけたほうが安全に狩れる、そして、投擲スキルはかなり便利である。

 投擲といっても、普通に石をオーバースローで投げるのはあまり殺傷力がない。

 基本的には投石器スリングとボーラの活用である。



 スリングの使い方は簡単である。紐のちょうど真ん中にある編み込み部分に石をセットし、紐の両端を握ってぐるぐるぶん回す。遠心力が付いたところでタイミングよく離せば、相手に向かって石が発射されるという理屈である。原理は簡単だが、射程や威力は弓矢とそれほど変わらない。狙いをつけて飛ばす方向の調整と、石を離すタイミングを修得するのがけっこう難しいのだが、スキルレベルを3まで引き上げている俺にとってはそこまで苦労する話ではなかった。



 ボーラの使い方も同じくシンプルだ。両端に重りのついた紐――ボーラをぶん回すだけ。

 遠心力で勢いのついた鈍器として殴るのも可能。

 だが投擲武器としてボーラを使えば、相手に向かって投げた時に紐がブーメランのように開いて、相手に触れかかった瞬間に紐がぐるりと相手を取り巻く。捕縛武器として使い勝手がとてもいいのだ。



 投擲の何がいいかというと、俺もクロエも筋力がむやみやたらと高いため相性がいいところである。

 スリングの殺傷力は当然高い。ボーラの重りも、空飛ぶ魚たちをひっ捕らえて地面に墜落させるぐらいにかなり重くしても、存外投げられてしまう。



 当分は俺が投擲で狩りをすることになるだろうが、ゆくゆくはクロエにも投擲術を覚えてもらい、狩りの効率を上げるのがよいだろう。

 何はともあれ、この海底世界での狩りの方針もある程度見えてきたところである。これからのんびりと探索を進めればいいだろう、ぐらいのスタンスで行こうと考えた俺は、後半は狩りをやめて、クロエと一緒に綺麗な真珠を探すのに時間を費やすのだった。











 ミロク

 Lv:4.26→9.12

 Sp:0.31→10.19→0.19

≪-≫称号

 ├×(藍色の英雄)

 └森の王の狩人

≪-≫肉体

 ├免疫力+++

 ├治癒力++++

 ├筋力++++++++

 ├視力++++

 ├聴力++++

 ├嗅覚++

 ├×(味覚) 

 ├触覚

 ├熱源感知

 ├造血 

 ├骨強度+++

 ├×(肺活量)

 ├皮膚強化+++ 

 └精力増強

≪-≫武術

 ├短剣術++

 ├棍棒術++++++

 ├盾術++

 ├格闘術+++++ 

 ├投擲+++++ new

 ├威圧+++ 

 ├隠密+ new

 └×(呼吸法)

≪-≫生産

 ├道具作成+

 ├罠作成++

 ├鑑定++

 ├演奏

 ├清掃

 ├測量++

 ├料理

 ├研磨

 └冶金

≪-≫特殊

 ├暗記

 ├暗算

 ├並列思考

 ├魔術言語++

 ├詠唱++

 ├治癒魔術+++++ 

 └付与魔術+++++++++

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