31、水瀬愛は遅刻する
約束の時間である朝10時。
指定されていた駅前の広場で水瀬さんを待つ。
誰かが俺の前を横切る度に知り合いなのではないかとビクビクしていた。
クラスメートとかに見付かって『あっれー?平山じゃん!前髪上げてイキってんじゃん!』みたいな弄り方とかすることがあれば最悪だ。
弄りと虐めの境目がない奴ほど、苦手な奴はいない。
スマホを触る気にもならずに、ソワソワビクビクしながらまだ来ない水瀬さんを待ち続けた。
「なんだよもう!親友君越しに勝手に待ち合わせしておいて5分遅刻してんじゃん!まだ来ないし!」
ソワソワビクビクと臆病になるのも疲れたのか、待ち合わせ時間より水瀬さんが遅刻したことを認識するとふつふつと怒りが沸いてくる。
これがもし、俺が遅刻したら水瀬さんはネチネチネチネチと文句を言ってくるだろう。
『ちっ…………。おい、メガネ。遅刻してんぞ。スマホあるよな?なんで時間の計算出来ないの?それともそのメガネは度が入ってねぇのかよ。なら割って良いよなぁ!?』
みたいな遅刻シチュエーションをシミュレーションしてきた。
相変わらず怖すぎるイマジナリー水瀬さんであり、我ながら再現度は抜群である。
1番怖いのは、文句の嵐が飛び交う前の舌打ちである。
嵐の前の静けさ的な恐怖が一気に襲いかかるのだ。
実は俺を呼ぶだけ呼んで来ないドッキリの可能性も視野に入れてしまう。
「早く来てくれないかな水瀬さん……」
それから5分後。
10分遅刻して、ようやく待ち人の姿が見えてきたのだった。
水瀬さん来ないドッキリではなかったことで安堵したのであった。
それから彼女が近付くのを待っていると、「ごめんなさーいコウ君!」と息を切らした水瀬さんが俺の前に立っていた。
彼女はこんなに礼儀が正しい人だったのかと、新しい一面を見られて新鮮であった。
「か、顔を上げてよ、みな…………愛さん。全然待ってないからさ」
「コウ君、優しい」
「っ!?べ、別にそんなことないよ。うん、そんなに尾を引く感じになるのも嫌だし元気出していこっ!」
「ありがとうコウ君……」
困った……、水瀬さんが可愛すぎて遅刻を咎める気にならない……。
まぁ10分くらいだし。
秒にすると600秒だしそんなに怒ることのもんじゃないなと怒りを懐に仕舞う。
つくづく怒れない男だと思い、情けなくなる。
こんなんだから妹に対しても兄の威厳がないのだろう。
「今日も愛さんは前髪上げているね。似合ってるよ」
「ありがとうコウ君!ペアルックとかあるじゃん。そんな感じでコウ君と会う時はペアヘアースタイルにしようと思って」
「へぇ!メチャクチャオシャレだね!」
「でしょでしょー!」
ペアヘアースタイルって何……?
ギャルの考えることは陰キャオタクには一切通じないのが悲しくなるのであった。
「一方的に親友越しに連絡しちゃってごめんねコウ君……。ただ、コウ君の顔見たくなって。そのついでに遊びたくなっちゃって」
「ううん、いいよ。どうせ暇してるからさ」
「えー?本当?嘘だぁー?」
「ほんと、ほんと。今日も部屋の片付けしたら予定終わりだったし」
「何それー、おもしろー。あははははは!」
水瀬さんは口元に手を置いて笑っている。
その柔らかい笑みに、こっちも自然と頬が緩む。
もしかしてだけど……。
彼女が出来たらこんな風なのかな?
なんて水瀬さんと一緒に過ごしながら穏やかな気持ちになっていた。
「今日は何かしたいことあった?」
「そういうのは特にないんだけどー……」
「ないんだけど……?どうしたの?」
「コウ君に会いたかっただけがメインなんだよねー」
「っっっ!?そ、そうなんだ……」
舌打ちクイーンのデレがヤバいです!
今、絶対口元が情けなくて抑えてしまい、水瀬さんがいる方向と逆を向いてしまう。
「コウ君?」
「な、な、な、なんでもないよ!」
毎日学校で会っている水瀬愛は何者なんだ……。
嬉しさ、ニヤニヤ、不気味さ、疑問、デレデレ、恐怖、ホラー、気恥ずかしい。
色々な感情がカオスに混ざり合っていた……。
水瀬愛とのデートはまだ始まったばかりである。
楽しませないと。
楽しまないと。
こっちもまた色々な心境が共存していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます