22、水瀬愛と桃田澪の接点

「チュパチュパ……。私、桃田澪ねー。よろぴくぅ水瀬さん」

「よ、よろぴく……」

「…………」


強引な澪の自己紹介に圧倒されてしまっている水瀬さん。

この数十秒のやり取りで、既にヒエラルキーの上下が決まってしまった感がある。

さすがミオねえだ、強い。

確信した瞬間であった。

澪に捕まっている間もデパートの人の流れは止まらない。

その間に俺のポケットティッシュを減らしていきたいのだが、地味に真ん中だったり、水瀬さん寄りを歩かれてしまい渡すに渡せなかったりする。


「あ……。よろしければどうぞー。見てくださいねー」

「……………………」


俺と似た陰キャ民のあるメガネをかけた人がポケットティッシュを無言でながら受け取ってくれた。

澪含めてようやく9個ぶん減らせた。

水瀬さんは5分かからずに終わらせたナインラインを、俺は30分かけてようやく達成したところである。


「水瀬さん、セクシーですねー。目の下の黒子もまた羨ましいなぁー」

「桃田さんも美人じゃないですか。なんかわたしたちと違って穢れがないオーラありますよ」

「えー、褒めすぎだってー」

「……………………」


親友君とタイマンで話題に付いていける穢れまくっている子ですよその子……。

清楚アピールしながら、下ネタいけちゃうタイプの男騙しの詐欺師女だよ。

澪の笑顔で誤魔化されて嘘つき扱いされると悪いので、口にチャックをして、淡々とボランティアにまわる。

あ、また1つポケットティッシュを取ってくれた。

でも、やっぱり陰鬱そうな同族しか取ってくれない……。

別高のJK2人組コンビがデパートに入店してきたけど、俺を汚物を眺めるような目で不快そうにしていた……。

コソコソ話し込んでいて、心が抉られそうである。

当然、ポケットティッシュを向けてもガン無視であった。


「…………」


しかも、ガッツリ目が合った。

それに向こうも気付いて、クスクス笑っている。


『なに、あのダサメガネー。きっしょー、ロング男ってだけでウチは無理ぃー』

『なぁなぁ、ツイッターでさらさへんwww絶対バズるよーwww』

『今まで出会った男の最底辺じゃーん』


みたいな陰口をしているかと思うと大変に不快である。

水瀬さんと澪は女子トークをしていて、この悲惨な現状に気付いてないのはまだ救いか。

気付いていたら、学校中に拡散されそうだ。


「あ!」


水瀬さんと澪で思い付いた。

ここで、親友君から学んだことをやってみようじゃないか。

メガネを取り、前髪をぶわっと上げて、目を露出する。

そう。

平山剛から平野コウへと変身すればどんな反応をするのか純粋に気になった。

前髪を上げたらへんで、汚物を見る目から肥溜めを見る目へと変化していたが、彼女と目を合わせる。

まだそんなに遠くに離れていないので、ギリなんとか他校のJKコンビの表情が見れた。


『っ!?え、嘘っ!?』

『えー!?なにあの人!めっちゃ好みなんだけど!』

『あのダサ男が塩顔イケメンなんだけど!?』

『ギャップ萌えなんだけど!ちょ、ちょっと声かけよっかな』

『あんたは彼氏いるじゃん。ウチに譲ってよー』

『じゃあ惚れさせたら勝ち』


JKコンビが立ち止まってなにかコソコソし始めた。

会話の内容はまったく聞こえてこないのだが、立ち止まっての陰口は本当に不快である。

なんかニヤニヤしている感じ、『ロン毛が額を曝してハゲアピールかよwww』とか言われている気がする。

なんか不快を通り越したなにかの感情が沸き上がった時だった。

その2人が俺に近付いて来た。


「ね、ねぇ。連絡先交換しない?」

「私とも連絡先交換して欲しいなっ!ね?おねがーい!」

「あ、大丈夫です。今、ボランティア中なんで」


ツイッターとかで写真と共に、連絡先曝されるのも嫌なんで。

とりあえず2個のポケットティッシュを配ると、2人とも受け取ってはくれた。


「むー!いけずぅ!」

「所詮、私たちは心を弄ばれたのねー!」

「やっぱり彼女いるんじゃん……」

「ちっ、彼女死ね……」


2人でなんかボソボソと陰口を叩きながら離れていった。

陰口の内容は先ほどと同様で聞き取れなかったが、憎しみの籠った『死ね』だけは聞こえてきた。

あぶねー、JK美人局に騙されるところだったー……。

メガネをかけて、上げていた前髪を元に戻す。

やはり、前髪上げても気持ち悪いまんまじゃん……。

親友君の嘘つき男ーっ!

コウにデレデレになる水瀬さんの趣味が悪いだけな気がしてきた。

目を被せるように前髪を整えて、水瀬さんたちに目を向けるとまたしゃべりあっている。

仲が良いのかな……?


「桃田さんって……、メガ……平山と付き合ってる?」

「ぜーんぜんっ。単に幼馴染だよ。ペロッ」

「そ、その……好きとか?」

「うーん……。友達としては好きかな?あいつ、弄るのおもろくない?」

「確かにおもろい」


なんか意気投合しているのかはわからないが、友情を深めている気はする。

それからなんかボソボソっと会話をしているみたいだ。


「んじゃあ私は剛を弄るの終わったから帰るねー」

「桃田さん、さよならー」

「あ!澪って呼んでよ」

「ならわたしも愛って呼んでください」

「オッケー」


ようやく会話が終わったのか、澪が水瀬さんから離れていく。

そして、「つよしぃー」と彼女の声が響いた。


「ん?」

「私帰るからぁ!またねー、愛!」

「じゃーねー、澪!」

「……………………」


さっきまで初対面で『水瀬さん』呼びをしていた澪が、今は名前の『愛』呼びに変更されていた。

わずか、こんな5分足らずで、1年以上の付き合いがある俺と水瀬さんよりも仲良くなったとでも言うのだろうか……。

澪に妙な敗北感を覚えてしまうほどの衝撃である。


それから2人でポケットティッシュ配りが再開されたが、結局もらわれた数はトータルで10倍以上突き放されたのであった……。

当然、水瀬さんにも大敗である。

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