Chapter 3-3

「やあ湯本君。学年二位おめでとう。よく頑張ったじゃないか」

「それで嫌味のつもりですか? 有り難く受け取っておきましょう」


 と、彼は眼鏡の蔓を中指の腹で押した。綺麗に切り揃えた七三分けの髪とその仕草が、育ちの良さを感じさせる美形である。まあ、僕ほどではないけれどね!


「それよりも、一之瀬さん」

「は、はいっ!?」


 すっ、と湯本君は一之瀬君に歩み寄って手を取る。

 その、いかにも秀才という感じの顔に笑みを浮かべる。


「おめでとうございます。あなたが三十位に入れた事、自分の事のように嬉しいです」

「あ、ありがとう、湯本君。湯本君もいつも二位なんて凄いね」

「いつも……っ!」


 何かが突き刺さったかのように、湯本君の笑みが固まる。そしてゆっくりと僕を睨み付けてくる。いや、そんな風に見られてもだね。と、僕は湯本君から視線を逸らそうと歩を見る。

 あのね、君も湯本君が憎たらしいのは分かるけど、あんまり睨まない。これじゃあまるで僕が一之瀬君を巡る三角形の一角になってるみたいじゃないか!

 そう。この湯本良邦という優等生もまた、一之瀬君に心惹かれる内の一人なのだ。そして大体いつも一之瀬君と一緒にいる僕と歩を敵視しているという訳だ。


 僕が目を逸らした事で気を取り直したのか、湯本君は一之瀬君に視線を戻す。


「ありがとうございます。もう少しで今回は一位を取れたんですが、いやはやどうも壁は高いようで」

「そうかな? 私は冴木君に教えてもらってやっと三十位に入れたくらいだから、二位なんて想像もできないよ」

「いやいや。あなたならできますよ。……彼ではなく、僕が教えればですけどね」

「へぇ、それは面白いね」


 言いながら、僕は一之瀬君の手から湯本君の手を引き剥がす。そして一之瀬君の肩をぽんと押して、歩の方へ向かわせる。


「じゃあここは何か勝負でもしてみるかい? ま、僕に勝てる訳はないと思うけどね」

「いいでしょう。あなたとはいずれ決着を付けなければと思っていた所です」

「君たち、いい加減にしたまえ」


 ごん、と。業を煮やした三峰チョップが僕たち二人の脳天に炸裂する。明らかに僕の方が力入ってないかい!? 湯本君には「とん」っていう感じだったのに、僕のは「ごん」だったぞ、「ごん」って!!


「勉強ができる馬鹿というのも嫌いではないがな」


 三峰は周りを見回す。それに釣られて見てみれば、なんだなんだと集まった人の波で、廊下がごった返していた。

 TPOを弁えろ時と場所を考えろって事ですよね、済みません。

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