第7話看病しましょう

 私はパワーアーマーを解除して急ぎ母親の元へ向かう、血で汚れているが気にしているどころじゃない。


 血液がにじみ出ている傷をすぐさま銀で塞ぐとその身体を全て包み込む。


 ――全力で解析。生命保護を優先しろ!


[――了解ラジャー]


 今の私の姿は人間の姿へと変化しており、キルテちゃんは母親の姿を呆然と眺めており気づいていない。


「まだ生きている。呆けているぐらいなら母親の名前を呼び掛けてやれ。キルテ、しっかりしろ」


「ッ!! 母様! 私ですッ! キルテです! 私は生きています!」


 血液の生成や細胞の修復などはまだ私にはできない。流れ出し不足している血液はキルテから輸血するしかないか。親子なので血液型が合っていればいいのだが。


「キルテ。血液を分けてくれ、母親の血が足りないようだ」


 まさかキルテちゃんの母親が生きているとは、私にも分からなかった。


 つくづく万能では無いなと私は思う、高い生存能力や広範囲の破壊はできても、生命を救う事には向いていないのだから。


 キルテの血液を確保する為に鋭い銀の針を血管に刺して採血を行う。


 そのまま母親の体内へ流すのは危険なので、意識して私がフィルター代わりになる。


 確保した血液をろ過しながら圧力をかけて、血液を母親の血管に送り込む。


 医療知識など持っておらず、危険な応急処置しかできないのが悔やまれる。回復魔法などのご都合主義にあやかれないものだな。


 腕や足の切り口を全て塞ぎ、壊死し始めている肉片なども吸収し整えていく。


 血液が足りずに衰弱している状態で、いつ死んでもおかしくない状態だった。


「キルテ。調理場で砂糖と塩を水で溶かしたものを作ってこい。少しでも栄養源を吸収させる」


 そう命令すると急いで部屋を飛び出していく。城には生命反応が無いから戦闘に関してはひとまず大丈夫だろう。


 王国の兵士やメイドなどは、連れ去られて城にはいない、この王妃だけ残っていたのは王都を陥落させた証拠扱いにされる予定だったのだろう。


 戦争などどうでも良いと思っていたが、身内判定を下したキルテの家族がこのように扱われているとなると、物凄く腹が立つな。


 心音は微弱だが母親はまだ生きている、どうにか快方へと向かってくれればいいが。







 室内は薄暗く仄かにランタンで照らされており、キルテちゃんが母親に抱き着いて体を温めている。


 簡易的な液体の栄養源を胃に直接流し込み、私にできることは全て済ませた。


 さきほど心音が止まり心臓マッサージを始めた時は冷や汗が流れたな。

 

 母親の顔色も、頬に紅が色付き、穏やかな顔をしている、それを確認すると少し安心したのか、キルテちゃんも母親と一緒に寝始めている。


 寄り添う親子に布団を掛けてあげると、静かに部屋を退出すると、感知機能を最大にし、できる限りの警戒を行う。

 

 ――現在の使用できる兵装。補助機能を表示してくれ。


 視界内に様々なパラメーターが表示される。


 長距離兵装は変わらずに精密性と静穏性の向上を。


 索敵能力は戦艦に備えられていた探知機器の能力を獲得。


 私自身の機動性能は、パーツの機構を効率的に随時更新しているようだな。


 水を出したり火を出したりできるのは、魔導具もコンロや、収集機器の機構をそのまま使用しているようだ。


 まだまだ、新規開発には至るほど解析できる時間は立っていないし、今後の課題だな。火を出せても家庭用コンロ並みじゃ火力に期待できない。


 ――城にある不必要な機器や、金属類は、王室を除き順次吸収。全て君の処理速度上昇に使用してくれ。


 パーソナルな人間の状態の能力も、幾分か向上しているようだ。


 銃弾は弾くし瞬発力も膂力も途轍もない。ユニットさえ展開すれば飛べそうだな。私の力を強くできた切っ掛けの飛行戦艦には感謝しないとな。


 相方の名前も決めないといけないな。どんな名前が似合うだろうか。


 城の図書館にある書籍の情報を、取り込みながらもボンヤリと考えていた。





 凄いな。スマホの機能みたいに読み込んだ書籍の情報が、PDFのように閲覧できるし、瞬時に理解することが出来る。


 物語のような書籍は後でゆっくり読むとしよう、学術書などは素早く必要な情報を項目ごとに分けてさっさと取り込んでしまう。


 魔導基礎学。魔導錬金のススメ。こどもでもわかる剣術指南。生物統計書。大人の女性との秘密レッスン。死者蘇生を目指す禁術士。ホムンクルス研究論文。旧大陸における古代文明の秘密。宝玉に宿る生命理論。重力解析書。


 うーん。禁書庫たまたまを見つけてしまい、ごっそりと吸収してしまった。

 

 相方が嬉しそうに情報を整理し始めてしまった、私の脳内に大図書館が作れるようになるのではないか?


 崩壊しない程度にゴリゴリと壁面を吸収していくと、明らかに誰も気づかないであろう宝物庫なんかもあった。


 これはキルテちゃんや、母親が起きたら確認してもらおうかな?

 

 こういうお宝探しは凄くワクワクしてしまう。ゲームでも最終決戦まで最高の回復薬は取って置くタイプだし、ハックアンドスラッシュは大好きなのだよ。


 いつか次元や虚無を解析して次元倉庫なんて欲しいな。吸収すると情報だけになってしまい出力できないからね。


 生成して出せないこともないけど、エネルギーを消費してまでカーペットや雑貨を出したくないよね。


 物質の生成を行うのは簡単だけと、模様だったり色を出力するのに解析するのはね。兵装は最優先で生成して使用する為に、常に相方の機能を全力で動かしている状態だ。


 索敵機能を走らせていると、やはり城壁外部に兵士たちが集結しつつあるな。


 通信設備も取り込んでいるために、解析して内容を読み取っている。


 特殊な金属の固有振動波を使用して、通信の暗号化をしているようだ。音声の出力まで完成していないらしく、電報のような文字だけでやり取りを行っている。


 偵察部隊が王都の状況を把握してから、かなりの数の通信が行われているようだ。

 

 ――王都壊滅。飛行戦艦確認できず。

 

 そりゃあ、一切合切巻き込んで吸収しちゃったからね。明日には侵入してくるかもしれないな。


 私自身の巨大化。――モード/アーマメントを、複座式に改良しておくか?


 激しく揺れ狭くなるが何とかできるだろう、相方に私を改良する指示を出すと宝物庫の壁面を埋め立て分からないように加工する。


 さて、部屋に戻り母親の容体を見守っているかな。






 夜明けとともに調理室へ移動すると、病人用に穀物をペースト状になるまで煮たものと、栄養たっぷりの野菜や肉を満載したキルテちゃん好みのスープを少し薄味に整える。


 昨日の戦闘で衰弱に近いほど疲れているようだから、ギリギリまで休んでいてもらおうと思う。


 料理をカートに乗せて室内へ運び入れると、もぞもぞと布団の中で丸まっているキルテちゃんを揺さぶって起こす。


 食事を運ぶためのカートをベット傍に止めると、母親の容体を確認する為に、前日のように銀で包み込む。

 

 その様子に今更ながら驚くキルテちゃんであるがスルーしておく。


 前日よりは顔色も良くない心音も安定している、快方傾向である事が伺えた。


 私の銀も少々だが血液に溶け込むように母親へと流し込んでいる。


 娘であるキルテちゃんも、わずかながら体力の回復を確認しているために、実験的になるが試している。


 キルテちゃんは戦闘中に私の銀の触手と同化し続けていた為、強化の状態がどうなっているのか分からない。


 体調の状況や感情などがステータスとして、情報が薄っすらと流れ込んでいるような感覚がしている為、影響はゼロとは言えないだろう。


「キルテちゃん母親の体調は快方傾向にあると思う。命の危機を脱してはいるだろう。あとは目を覚ました際に、精神的にどうなっているかは分からない。

 自害を選ぶかもしれない。それでも生きていて欲しいのならば、君が母親を支えてあげなさい。――私は君を支えてあげよう」


 キザったらしくニコリと微笑むと、キルテちゃんの不安そうな顔が一転して噴き出してしまった。失礼な私は真面目なのだよ?


「ありがとう、シンタさん。母様がどのような状態でも、救ってくれたあなたには返しきれない恩があるわ。――いえ。こうなったらとことん恩を受けようかしら? そしたら返せるまであなたは私の元にいるのでしょう? ふふふ」


「これは、参りましたな。この身が擦り減ってしまいそうだ」


「あなたの身体は擦り減っても増えるじゃない? 私を満足させ続けてよね」


 どうやら悪い子になってしまったようだ。女性は子供を産むと変わるとも言うが戦闘で虐殺をしても変わるのだろうか?


 肝が太くなって悪女とも傾国の美女ともいう、貫禄が出て来ているような。


 母親に穀物をペースト状に煮た食事を胃に直接流し込む。胃の機能も低下しているようだから、本当に少量だけだ。点滴など用意することはできないからな。


 大盛だが味を薄めたスープをキルテちゃんがハフハフと美味しそうに流し込んでいく。いつになるか分からないがこれから戦闘を行うことになるだろう。

 

 もちろん場所取りはこちらが優位になる、城の高い所から遠距離攻撃を行う。


 此方が苦労せずに一方的に死んで頂こう。





>>モード/ロングバレルキャノン


 城の最上階のバルコニーで長大な砲身を支えるだけの脚部を突き刺し兵装を展開する。


 四メートルほどの砲身で、王都の城壁周辺に展開されつつある部隊を砲撃する。


 命中補正と射程距離は、未だ不安定な為に射撃を行いつつ補正を相方に行ってもらう。


 私には弾道計算などできぬからな。炸薬も開発はしていない為、圧縮石弾を永遠とバラ撒く予定だ。


 コクピットモニターには、照準がロックオンされた部隊が拡大表示されている。

 

 キルテちゃんには長距離射撃の戦闘経験を積んでもらう。


 ――準備はいいかい?


『もちろんよ? 母様をあんなにしたクズ共をぶっ殺してやるんだからッ!!』


 キルテちゃんこんなに逞しくなって――作戦開始。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る