第3話王都脱出したのはいいが敵が多い

 暗闇の中で周囲の石材の吸収を繰り返していると、だんだんと空間を認識できるようになり、素材の吸収効率も上がったようだ。


 エネルギー総量はまだまだ大したことないのだが、数人程度の兵士の戦闘ならどうにかできそうだ。


 スマホでも見ながら作業できたらいいのだが、使用するにはエネルギーが全く足りない。すごく悲しい思いをしたが楽しみは後に取って置くことにしよう。


 テニスコート程の広さを吸収し終えると少女が目を覚ましたようだ。


 暗闇に驚き可愛い悲鳴を上げるが光球を生み出すと、ようやくこちらに気が付いたようだ。何度目かの悲鳴が聞こえたがそろそろ落ち着いて欲しい。


 やれやれを肩を上げるようなジェスチャーをすると、頭を下げて申し訳なさそうにしている。異世界っぽい場所でもジェスチャーは通じるものだと感心していると、何か言葉を発し続けている。


「スデガ ダガラ アラ キルテ」


 少女は自身を指さしたり私に手を向け何かを話している。


 恐らく「キルテ」が名前と思われるが名詞や動詞が異世界にあるのだろうか?


 こちらも地面に文字を書いたり、少女となんとかコミュニケ―ションを取ろうと努力をしてみる。


 現在の銀の生成量が、会話の為の声帯を作る規定量まで足りないため、どうにかしてコミュニケ―ションを取るしかない。


 しばらくすると、少女が発音する言葉の意味が理解できるようになってくる。何かしらの熟練度が上がってきているのだろう。


 私の環境適応能力は言語の理解と分析にも対応しているようだ。物凄く助かっているので、心の中で環境適応さんに感謝の祈りを捧げておく。


 おっと、会話を続けるとしよう。


「――ガデレ レニ ゴシンタイサマガ カイワできるのかしら……でも反応しているし……」


 ようやく理解できた会話の内容に激しく胴体を縦に頷く。カクカク踊り狂う人形姿はさぞかし恐ろしいものだろう。


「ふえッ!! ご神体様!? 会話を理解されていますか?」


 タイミングよく胴体を縦に動かすと、少女は嬉しそうに微笑んだ。


 どうやら私の銀を彼女に投与した効果が出たのか、ほんの少し体調が良くなったみたいだ。人体に有害な物質じゃなくて良かった。


 ……私にも良く分からない物質なので、水銀みたいな性質だと物凄くヤバイからな。――決して人体実験じゃないよ? ホントホント。


 初期のロボ形態よりも関節部などが柔らかく稼働し、背中に背負子のようなラックを増設すると少女の前に跪く。


 どうやら移動を開始するそうなので、彼女の体力の負担を減らすために背中に乗ってもらう。


「え、よいのですか? ご神体様に失礼だと思うのですが……」


 少女の口調は上流階級の言語のようでお嬢様然としている。


 まだまだ幼いながらも彼女はしっかり物のようだ。話が進まないので問答無用に背中のラックに背負い立ち上がると、塞いでいた壁面を崩し脱出する。


 移動しながら話を聞くと下水道は都市の側を流れる河川の下流域に接続されているらしく、流れに沿って行けば外部に脱出できるようだ。


 どうやらあの兵士共は帝国とやらの侵略軍らしく、飛行戦力を用いて王都を占拠しに来た、との事。その話を語る際に悲しそうな顔をしていた。家族の事を思い出しているのだろう。


 大型の飛行戦艦で王城を急襲されたらしく、王族専用の脱出路で父親に逃がされた事を涙ながら話をしている。――え、王族なんだこの子。


 どうやら捕虜すら取らずに皆殺しにされ、老若男女拘わらず首を落とされたそうだ。


 背中のラックに座る少女の頭を、固い私の手でポンポンと軽く叩いてあげると声を殺しながら号泣し始めてしまった。


 未だ逃走中と分かっているのか、感情を押し殺そうと健気にも唇を噛んでいる。その健気さをとても美しい物と感じてしまっている。


 ちなみに少女の名前は「ダガラ アラ キルテ」ダガラさん家の、王族の、キルテちゃんらしい。


 そういえば私の名前を決めていなかった、“ゴシンタイサマ”と言う大げさな名前はいらないな。私の声帯が作成できるまでに考えておくことにする。







 キルテちゃんに兵士に気付かれないうように光球を消してもらい、しばらく進むと下水道の川への接続地点に到着する。


 外の明かりが見える位置に分厚い鉄格子が並んでおり、王都に張り巡らされた下水道の管理地点なのか、道幅がかなり広くできている。


 念のため私ひとりで確認しに向かった所、通路の先には数名の兵士が歩哨に立っていた。分厚い鉄格子に安心感を抱いているのか、下水道内部への警戒無きに等しい。


 少し通路を後退し壁面を浸食、キルテちゃんにはこの中で待っていて貰うとしよう。


 壁面内部を浸食し兵士のやや後方へ潜って向かうと、目の前には欠伸をしている小汚いおっさんがいた。下水の出口の歩哨任務など下級兵士の仕事なのだろう。


 下水道出口の上部には丘があり、キルテちゃんによれば部隊がいるかもしれないとの事。周辺地図が頭に入っているとは賢いなぁ。


 階段状に内部を浸食し周囲に部隊が展開されていないか確認する。サックリと殺ってしまいたいが、兵士の死者が出てしまえば逃走方向に部隊が展開されてしまう。


 丘の上に堀り進むと小隊規模の兵士たちがキャンプをしているようだ。川での逃走経路を潰すためなのだろう。改めて帝国の戦力の規模がいかに大きいかを再確認できた。


 時間はかかるが川底を掘り進み、向こう岸に渡るの方法は一番安全だろう。キルテちゃんの体力を考えると食料確保や、休める場所には早く辿り着きたい。


 なんだかキルテちゃん中心に物事を考えてしまっているな。これが保護欲というものなのかな?





 偵察が終わりキルテちゃんを回収すると、川底よりも深い地中を吸収、浸食しながら掘り進んでいく。


 貯蓄しておいた余分なエネルギーも回し、速度重視で行く。早くしないと酸素濃度が低下し呼吸ができるか心配だからな。


 背負っているキルテちゃんも酸素が少なくなりフラフラしてきている、急がなければならないのに粘土質な地中は吸収しづらく、私の気持ちを焦らせる。


 ドリルアームの兵装や、超巨大化などロマン溢れることが出来ればいいのだが、どうやら私の制御能力がまだまだ追いついていないらしい。


 王都に蔓延る帝国兵を巨大ゴーレムで薙ぎ払うッ! と言う展開は出来なさそうだ。


 私自身の生存能力は極めて高いが、守るものができると共に制限項目が生まれてしまう。世の中そう上手くいかないもんだね。


 粘土層を抜け、地上に向け掘り進めていく。目算だが川底は抜けたはずだ。


 気合を入れ速度を上げるとかすかな光が私達を照らし出した。油断をせずに周囲の索敵を行い地上へと脱出する。


 キルテちゃんも意識が朦朧としながらも、微かな笑みを浮かべスヤスヤと眠りに付いたようだ。


 小さな胸を上下させながら穏やかに眠っている、とりあえず休めるところを探して彼女を休ませてあげないといけない。







 警戒しながら荒く踏み固められた街道沿いの森を進んでいくと、チラホラ兵士達を乗せた車両らしきものが行き交っている。


 排気ガスらしきものを出していない為、良く分からない魔法や、魔導機関等の動力なのだろうか? ファンタジーが近代化されていると期待してた分、複雑な気持ちになるな。


 車両の見た目は地球の世界大戦時に活躍した、ケッテンクラークのようなバイクと戦車が混じったような形状をしている。


 王都の下水道設備もしっかりしていたし、飛行戦艦もあるのならば文明が遅れている中世の異世界だろう、などと言う安易な先入観をを抱く危険性の高さは良く認識しておかねばならない。


 魔法の使用をこの目で確認できたが、銃器などの携行武器はまだ確認できていない。なんだろうこの時代のチグハグ感。


 現状、銃器関連が戦争に実戦投入していないだけだと思っていた方が堅実だ。


 私の生成の能力では車両などの細かな部品の生成はできず、コストのかからない素材の簡易的なボディや、原始的な剣や槍などならすぐさま展開することが出来る。


 生成と言ってはいるが、自身の身体を変化させて切り離しているだけだ。


 やはり、分かっていた事なのだが、人間の血肉を吸収はできても命に関する生成はできない。


 環境適応能力で吸収し続ければ、いずれできる可能性が出て来るが。どれだけの人間の生贄が必要になる事やら。


 ひたすら身を隠しながら隠密行動を取っていると、関節部の静穏性が向上していく。私のコアに感知能力が芽生えたのか、気配のようなものが感知できるようになっている。


 あくまで気配だけの察知であり、動体感知や熱源探知などはできないけどね。


 願いを叶える空間で入手したハズの銀のマイボディがあれば、できる事がかなり増えるだろうと。


 今は持っていない無い物を嘆いてもしょうがないか。


 現在こうして生きているだけでも奇跡的な廻り合わせなんだろうけどね。


 遠目に町が見えて来たのだが帝国軍の侵略拠点として利用されている。ひっきりなしに車両と兵士が出入りをしている。


 王都の人間が虐殺されている事から、これからの王国民の生存は絶望的かな? 生きていても奴隷として資源化されてしまい、碌でもない人生を送るだろう。


 ここで正義の心を燃やし尽くし、帝国の圧政から解き放てッ!!


 なんて王道なのだろうけど地球の歴史も侵略と戦争の繰り返しだったしね。


 より力の強い国が広がり淘汰される。現地の住民からしたら溜まったものでは無いけど、私の身内か気に入ったものが幸せになればそれだけで良いと思う。

 

 頭の中で諸行無常を感じながら森の中を進んでいく、エネルギー元として密度の高い鉱石や金属、人間の不思議な心臓辺りが欲しいのだが。


 目に見える山岳方面へと歩みを進めながら、チラホラ存在する民家などの物資を漁っていく。


 慌てて逃げたのか、テーブルには放置されたシチューや干し肉などがある。


 家屋の中にある金属製品を取り込み、肉体の骨格を強化していく。石材で構成されたボディでは強度が全然足りていない。


 コアの強度は分からないが、万が一にも破壊されるわけにはいかないからだ。


 火事場泥棒みたいなことをしているが、キルテちゃんの食料の確保の為になるべく日持ちをする物資を確保していく。


 偶に家族の物であろう死体が有ったりするが、心臓部の有機物のみを回収させてもらい、死体を綺麗に並べ手を合わせて祈る。


 数十件家屋を回る頃にはもう死体に慣れてしまった私がいる。


 先程は戦争に関わりたくないとは思ってはいたが、助けを求められたならある程度の力は貸そうと思う。


 私の力でどこまでできるかは分からないけどね、何かを成す事で心臓を頂いたお返しになるなら多少の苦労も買ってでもしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る