第17話 許してくれた!?

 嘘だろ……。いきなり下着姿の美少女がカーテンから出てきた。ふーん、意外と着痩せするタイプなんだな。制服だと確認することができない豊満なボディーをお持ちのようで──じゃなくて、ちょっと待てぇ! えーと、これはどういうことなんだ!? 


「……あわわ」


 ダメだ。脳が追いついてない。驚きの範疇を超えると言葉って咄嗟に出てこないんだな。今すぐに目を閉じるべきなんだろうけど、身体が言うことをきかない。


「あの……夜闇くん?」

「は、はい」

「そんなに見られると、恥ずかしい……よ」


 美少女に頬を赤らめながら言われてハッとした。


「わ、わ、悪い!」


 俺はたまらず回れ右! 心臓がバクバク鳴ってる。ダメだ! グラビアモデル顔負けのボディーをこんな至近距離で見たら脳に悪い。


「ごめんね」


 閉められたカーテンの中から、か弱い声が聞こえてきた。ごめんではなく、むしろありがとうございます! じゃなくて、やっちまった。完全に嫌われたよな俺。ラッキースケベなんてくそくらえ!


「おっまたせー! いやー、1つだけ買うつもりだったんだけどさー、店員さんに勧められちゃったから全部買うことにしたよー」


 落ち込んでいる俺の元に元気な少女がやってきた。手には大きな紙袋2つ。結局全部買ったのか。経済をちゃんと回してる。店を回る際、邪魔になるだろうに。


「あれ? 太一くん。黙って俯いてるけどどうかしたの?」

「ただいま戻った。どうした? 具合でも悪いのか?」


 ルイスの野郎もきた。なんでもありませんよ2人とも。俺の心が真っ白な灰になってるだけです。


 ○


 近くのファストフード店で休憩することになった。食べ物が出てくるまで早いしそれなりに安いから学生の俺たちにとってありがたい。


 ノアさんのように高級レストランを毎日いけるほど財布の中は潤ってない。ゲームやらなんやらで常に金欠なんだから。ちなみに2人とも名前は知っているものの、利用したことはないらしい。そのため、俺と小宮さんが注文の仕方から教えることになった。


 食べるのも初めてな2人には1番人気のてりやきバーガーセット。小宮さんはチーズバーガー。


「おいしい!」

「ええ。野菜の食感がいいですね、お嬢。


 俺はお気に入りのアボカドバーガーセットを注文したはずなのだが、なんか……味がしねえ。ほんとに俺が好きなやつか? しばらく来ない間に変更されてないよな。


「2人とも喜んでくれてよかったね太一くん。おーい、起きてるー?」

「あ、ああ」

「何か考え事?」

「いや……ちょっと、過去に戻りたいなと」

「よくわかんないけど……元気だして! ほら、あたしのポテト食べる?」

「ありがと。もらう」


 女子に慰められるなんて。ああ、情けない。小宮さんから差し出されたLサイズのポテトを数本もらう。掴んだ中で、ひとしきり萎れているやつに目が止まった。なんだか今の俺とそっくりだな。


(お前も可哀想だな。俺に食われるより、可愛い子に食べられたかったろうに)


 ガバッと一気に口の中に放り込んだ。いつもより塩気が強く感じた。店員が入れすぎたな違いない。


 ○


 休憩を挟んで次に寄ったのは雑貨屋。値段が安い割に細部にこだわりがある品が多いらしく、小宮さんが贔屓にしている店だそうだ。


 キャッキャ言いながら楽しそうな3人。一方、俺はというとあれから完全に意気消沈。店の前に置かれている長椅子に腰を下ろして楽しそうな光景を呆然と眺めては俯き、俯いては顔を上げて眺める。まるで人間サイズのあかべこだ。


(あーーー! 忘れたいのに忘れらんねぇ!)


 数十分前の光景が脳裏に焼き付いて離れない。あれからまともにノアさんを見れないし! 話しかけることなんか、尚更できねえよ! せっかく仲良くなるチャンスだってのに。印象最悪だ。


「……」


 こっちを見ていたノアさんと目があった。透き通る瞳が俺の姿を捉えて──たった数秒。即座にプイッと視線を逸らされてしまった。マジで泣きたくなる。


(うう……)


 気のせいか? 彼女の俺を見る目が冷たいような気もする。そりゃそうだよな。乙女の下着姿を見られたんだから、俺が彼女の立場だったらいくら事故とはいえ、全力のビンタくらいする。いや、むしろして欲しかった! 別に殴られるのが好きとかじゃなくてその方が後々気にしなくていいだろ? 逆に優しくされるとそれだけ罪悪感が増すというかさぁ、はぁ……タイムマシンが欲しい。猫型ロボットが家に来てくれないだろうか。


 俯いて永遠に自問自答を繰り返す中、誰かの手が俺の視界の片隅に映る。


「ん?」


 顔を上げるとにこやかな笑みを浮かべたノアさんがいた。


「大丈夫ですか?」

「ああ、平気平気」

「よかったら2人でお話ししませんか?」


 断る権利なんて俺にはない。たとえ無理難題を言われたって実行する覚悟ならある。覚悟だけならな。


 ○


 店から少し離れた場所に座る。


「体調がすぐれませんか? さっきから顔色が良くないので具合でも悪いのかと」

「いや、体調は良いんだけど、別の問題で後悔がというか、なんというか」

「さっきのことを気にしてるんですか?」

「うぐ…………」


 変化球なしの直球。ど真ん中で核心をついてきた。


「ああいや、その、まあ……はい。申し訳ないことをしたと思ってます。事故とはいえ……その……」


 下着姿をバッチリ見ました! なんて勢いよく言えるわけがねぇ。いや〜実によかったですよ〜なんて感想も言えない。変態に思われたくない。


「夜闇くん」

「は、はい!」

「気にしなくていいですよ? 悪いのはわたしのほう。何か話してる声が聞こえたから別の人がいるとは思いました。足音が聞こえたから残っているのはルイスだと思ってしまって」

「それで、カーテンを開けた先にいたのが俺だったってことか」


 可哀想に。同情します。


「謝ってすむとは思ってないけどさ、ごめん! 許してくれないかな」

「許すも何も、怒ってないですよ?」

「え? 怒ってないのか? てっきり激怒してるもんだと思ってた。だってこっちを見たらすぐに目を逸らされるし」


 あははとノアさんは笑いながら、


「だってあんなことがあったあとですから。流石に恥ずかしくて夜闇くんを見れなかったんです。でも今回は完全にあたしの不注意が原因です。だから怒らないし怒れません」

「ほ、ほんとに? ほんとに怒ってないのか?」


 コクリと頷く美少女。


「はい。むしろ夜闇くんのほうがわたしに対して怒っていいんですよ?」


(よかったー!)


 俺の考えすぎだったようだ。すんごい重荷が肩から降りたような気がする。ノアさんが俺に対して怒ってないことがわかり、安堵している最中、


「なあ、あんたら高校生だろ?」


 1人のチャラい男に話しかけられた。

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