第34話 レンガ王国

「これがレンガ島か」


デイビスは数人の伴と一緒にナタールの使者の船に同船していた。


レンガ王国の首都はルナシティという王妃にちなんだ名前の北にある都市で、船は最寄りのルナポートというところに着船した。


港には大きな船が何隻も停泊しており、驚いたことにエルグランドの船や都市連合の船もあった。


港には倉庫がずらりと並び、多くの人が忙しく行き来していた。


活気のある風景にデイビスはしばし呆然としていた。


「さあ、行きますよ」


ナタールの使者に促されて、デイビスは歩き出したとき、空に何か浮かんでいることに気づいた。


「あれは気球というのだそうです。実験中だそうです」


「人が乗っているのですか?」


「ええ。アレン国王は大変な知恵者で、科学技術研究所という施設で様々な研究を行わせているのです。我が国からも50名ほど受け入れてもらってますよ。今は蒸気機関の研究が盛んですが、電気の研究も進められています」


デイビスの知らない単語が出て来て、何のことかよく理解出来なかった。


「アレン様には我が国にも何度かいらしていただいているのですが、油田というのを探しておられます。燃える油が地下から出てくる場所だそうです」


アレンの頭の中はいったいどうなっているのだろうか。幼少の頃から恐ろしく聡明で、着眼点が自由で、新しいものをどんどん作っていくような雰囲気はあったが、やはりその才能が開花したのか。


王宮までの移動は馬車だった。デイビスの知っている乗り物でホッとしたのだが、乗ってみて驚いた。非常に乗り心地がいいのだ。


「静かでしょう。サスペンションというのだそうです。振動を吸収する装置が付けられているのですよ。我が国でも大人気です。レンガ王国の数あるアイデア製品の一つですよ」


道も非常にきれいに整備されていて、レンガ王国の国力を示していた。


馬車は港地区から住宅地に入ったようで、道路から少し離れたところに民家が立ち並んでいる。全て同じ形の家だ。


「レンガ王国の国民には税金がないのですが、家賃を国に支払う必要があります。国が大家で国民が店子という関係です。注文住宅の地区もありますが、ご覧になっているところは大量生産型の家屋地区です。レンガ王国の大きな特色ですが、土地は国が所有していて、建設業は全て国営です」


なるほど、ポートマレーはレンガ王国のやり方を真似ているのか。


おや? 子供が奇妙な乗り物に乗って遊んでいる。


「あれは自転車というものらしいです。輪が2つついた乗り物で、足で地面を蹴って進むのです。あれも研究中で、いずれは地面を蹴らずに動かせるようにするらしいですよ」


何という国だ。あらゆるところに新しい可能性が満載ではないか。


デイビスは旧態然として停滞している自分の国を思い浮かべた。何だか自分たちが非常に遅れた未開人のような気分になって来た。


馬車は繁華街に入ったようだ。王宮まではあと5分ほどらしい。


馬車が通る道と人が通る道が分けられていた。あの人だかりでは、馬車は通れないので、道が分けられているのだろう。そういえば、先程から馬車の往来も非常に多かった。


商店に陳列されている商品や、屋台で売られている食べ物に見たことのない物が多い。馬車を降りてじっくりと見物したくなる。


「よろしければ、王様と謁見した後に街をご案内しますよ」


「はい、よろしくお願いします」


これから難しい交渉に赴くわりには、自分でも緊張感がないと思ったが、デイビスは単純な好奇心から街を見てみたいと思った。


王宮の敷地に入るかと思いきや、砦のような建物の門の前で馬車が止まった。


「国王夫妻はこちらの建物にいらっしゃいます」


使者に促されて馬車を降りると、門から双子の美女が出てきて、デイビスにエルグランド風の挨拶をした。


「お前たち!?」


死んだはずのブレンダと姉のレベッカだった。


「デイビス王子、ご無沙汰しております。さあ、こちらにどうぞ。王がお待ちかねです」


デイビスは2人の後について、砦の中に入って行った。

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