第29話 王都襲撃 午後の部

「では各自報告を」


エイがメイドに報告を促した。


「チームイチ、無事9人捕縛、味方にけが人なし」


「チームニイ、無事9人捕縛、味方にけが人なし」


メイドが1人ずつ報告をする。


警官は全部で45名で、取り逃がした警官はなく、1人だけ骨折者がいるが、死亡者はなしだった。味方は軽傷で全員が無事だった。


「上出来ですね。では、警官を船に乗せてください」


エイから新たな指示が出た。


海岸には渡し船のような船が少し海岸から離れたところに10隻停泊しており、それぞれの船に船頭が2名いた。縛り上げて猿ぐつわをした警官を1人ずつ用意されていたいかだに乗せて、胸まで海につかりながら船まで全員を運んだ。


「皆さん、ご苦労様、今からメイドの指示に従って、王都に潜伏してください」


エイはそう言うと、馬に乗ってどこかに行ってしまった。


リカルドたちのメイドの名前はイチというらしい。


「馬車の中に着替えがあるからすぐに着替えて。濡れた衣服は荷台に樽があるのでそこに入れて。それと馬車の荷台ははずして。ばらして組み替えられるようになっているから、今の馬車に被せて」


一瞬、言っていることがわからなかったが、荷台をばらして組み上げ直すと、ちょうど今の馬車に被せられるようになっていた。それを馬車に被せると、装いが全く違うものになった。これで交番を襲った馬車とは似ても似つかぬ馬車に変身させられるということがわかった。


リカルドたちはその馬車に乗って、王都に戻った。


王都は大混乱だった。交番全てが機能停止したことがあっという間に人々の間に広がっており、ひったくりや強盗や盗難があちこちで多発している状態だった。すぐに王宮から衛兵が出動し、鎮静化に奔走していた。


リカルドたちがイチに連れてこられたのは、王都の繁華街にある居酒屋だった。一部の貧民が暴徒化して食料品店を襲っていたようだ。今は衛兵が出てきたことで落ち着いたようだが、居酒屋は店を閉じていた。そこにイチを含めた6人で入った。同じチームだった別の5人は、彼ら担当のメイドに連れられて、違う場所に行ったようだ。


「これからはこの6人がチームよ。私が隊長だから、指示は絶対に守って。私の指示を守っていれば、あなたたちの命は保証されるわ」


イチの言葉にリカルドたちは頷いた。


「暗くなったら、ここから出て、私が指定する商店の店と商品を思いっきり叩き壊して。ただし、人は襲わず、店から逃げ出すようにして。思う存分やってしまっていいけど、時間は30秒間だけ、30秒で叩き壊して、そのまま商店の人にかくまってもらって。あとで私が迎えに行くまでそこにいて」


どういうことだ? 仲間の商店なのか?


「わかった?」


リカルドたちは頷くしかなかった。


夜になり、リカルドは居酒屋から100メートルほど離れた食堂に入り、30秒間暴れまくった。店にいた客や従業員は全員逃げ出したが、1人だけ、こっちに来いと手招きする人がいる。その人に従って、リカルドは店の奥に入った。


店主だと思われる親父さんがリカルドに声をかけてきた。


「お疲れさん。メイドが呼びに来るまで、食事でもしていきな。これ牛丼っていうんだよ。美味いぞ」


リカルドは自分が一体何をやらされているのか、さっぱりわからなかったが、牛丼はとてつもなく美味だった。


イチがしばらくしてリカルドを迎えに来た。居酒屋に帰ると他の4人はすでに戻ってきていた。リカルドが最後だったようだ。


「明日の夜、また同じようなことを行う。また、明日の朝来るから、今日はゆっくり寝てくれ」


イチはそう言って、居酒屋を出て行った。


***


衛兵が出動したことでいったん沈静化した王都だったが、夜になって、各所でまた暴動が発生したため、市民たちは一連の暴動がまだ終わっていないことを知り、不安な夜を過ごした。


翌朝、店を破壊された商人たちが、店を引き払い、郊外へと引っ越して行った。こんな王都じゃ商売なんかやっていらないと声高に言いながら。

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