第20話 島民の意志

町会議員の会議室を借りて、今後のことについて、イーサンたちと話し合った。


イーサンにはエルグランドが兵を出す可能性があり、その原因が俺とルナであることを伝えた。ただ、可能性は低いことと、レンガ島の住人には影響を出来るだけ及ぼさないように、俺たちは山の麓の村に居住することも伝えた。


会議室には、俺、ルナ、イーサン、アンディ、サユリの5人と、ルナの護衛として、イチ、ニイがルナの背後に控えている。


イーサンが神妙な顔をして町としての意見を述べた。


「北の村に移動して頂けるというのであれば、問題ございません。仮に軍が来た場合には、北の町で監禁していると答え、アレンさんたちの居場所を教えます」


「イーサン」


サユリが何か言いかけたが、イーサンが手で制して、話を続けた。


「町長としては、町のためにそうするのが最良なのです。その点はご理解下さい。ただ、今回、軍が派遣されないにしても、いつかはレンガ島の豊かな生活は露見しますので、そのときに国はレンガ島を支配しようとするでしょう。つまり、レンガ島にとって、国は敵なのです」


イーサンがそう言ってお茶を飲んだタイミングで、アンディが横入りして話を続けた。


「レンガ島に送られて来る囚人のほとんどは政治犯だ。彼らは現王政に批判的というか、敵視している。そのため、さっきの町長の話には続きがある。軍には従順なフリをして、お前たちの居場所を教えたあと、町から兵を出して、後ろから軍を攻撃する。そうでしょ? 町長」


イーサンがにやりとする。


「アンディ、そこ、私が話したかったのに。そうです。あなた方と挟撃する形にして国軍を殲滅します。それが島民の意思です」


そうか、住民たちは現王政を打倒したいとまで思っている人たちとその子孫だった。俺たちは目障りどころか、いいきっかけなのか。


「私たちは国から自分たちの身を守るため、島民に1年間の兵役を義務付けて、兵士の育成を行なって来ました」


山の麓の村の1年間の滞在義務は、兵役だったのか。あの村で軍事訓練を行なっていたのか。


「気づかれましたか? あなた方の行かれる村は、凶悪犯や性犯罪者の牢獄でもありますが、島の軍事施設でもあるのです」


またアンディが横から口をだす。


「島の住民たちは、あなた方を面倒ごとを引き起こす厄介者だなんて思わない。むしろ、良い旗印だと思うに違いない。この島を自分たちの国として独立させる夢を実現させるためのね。あなた方は渡りに船なのさ」


イーサンが苦笑いしている。


「アンディはいいところばかり持っていきますね。アレンさん、ルナさん、そういうことで、島はあなた方を全面的に支援します」


とてもありがたい言葉だった。


その後、俺たちは今後の具体的な施策を話し合った。


ナタール王から派遣された190名は現在、北の村に移動中だ。村に着いたら、職人たちが住居を建築する予定でいる。それまではテント暮らしだ。


その住居建築に島の大工を派遣して協力してくれるという。ベンやトムも喜んで参加するはずだ。


西の海岸に大型船が停泊可能な港を作る話をしたところ、そこにも漁師たちを派遣してくれることになった。漁師たちは町の南に漁港を作った経験があるため、役に立つだろうとのことだった。


北の町には砦を作り、城壁も作成する旨、許可をもらった。


最後に、俺とルナだが、町に定期的に来て欲しいと言われた。俺の養蚕事業の手腕を非常に評価していて、色々とアドバイスが欲しいそうだ。


北の町と南の町は200キロ程ある。町議会のタイミングに合わせて月に一度来て、5日間滞在するということで、話はまとまった。


ちなみに養蚕事業はレオン、サイラス、シンジに見させている。遠くのリチャードよりも、近くにいるアレンだろ、と拳を振りながら説得した。そして、婦人会の協力を得て、3人をそれぞれ綺麗どころの第二夫にしてもらったところ、それはもう喜んで、一生俺について来るという。


忠誠心に難ありで油断は出来ないが、母さんにも監視をお願いしているし、能力は高いので、しばらく任せてみることにしたのだ。


会議が終わり、俺とルナが会議室から出ようとすると、サユリが声をかけて来た。


「アレンさん、ムサシを北の町に連れて行って頂けませんか」


「いいですけど、どうしてですか?」


「アレンさんについて行きたいってきかないんです」


「ははは、あれじゃないですか。サーシャさんの妹のメリンダちゃんに恋してるからだと思いますよ」


サーシャの妹のソフィアは24歳だが、メリンダは随分と歳が離れていて12歳だ。


「まあ、そうなんですか。あの子ったら。でも、本気みたいですので、よろしくお願いします」


「ええ、いいですよ。お任せください。レベッカさん、ブレンダさんもお連れする約束ですので、一緒に連れていきますよ。明日には出ますので、迎えに行きます」


「ありがとうございます」


俺とルナは会議室を出た。護衛のイチとニイが後に続いた。


俺たちが退出した後、アンディはイーサンに聞いてないぞと文句を言い始めた。


「町長、ルナ姫って、とんでもない美人じゃないですか。あんな美人だなんて聞いてないですよ。夫はアレンだけなのかなあ」


サユリから氷のような冷たい目で見られていることに、アンディは最後まで気がつかなかった。

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