第15話 孤児院 ルナ視点

馬で3日の距離であったが、ルナに疲れはない。


王都に潜入していた隠密部隊のくノ一の2人と途中で合流し、ルナは孤児院に着いた。


「何もないとは思うけど、万一の場合は護衛をお願いね。アレン君に捧げる大事な体なのよ。傷ついたりしたら大変だわ」


「「かしこまりました、姫さま」」


「じゃあ、行くわよ」


くノ一のイチが孤児院の正門をノックした。


ドアが開いて中年のシスターが顔を出した。


イチが用件を切り出した。ルナはお嬢様然として後ろに控えている。


「孤児を引き取らせて頂こうかと思いまして参りました」


シスターが柔和な顔をさらに綻ばせる。


「それはようこそおいで下さいました。どうぞ中にお入り下さい」


3人は案内されて中に入った。


セレナ妃の売名行為が目的の孤児院と聞いていたが、ちゃんとした孤児院のようだ。待合室でソファに座って待っていると、しばらくして、先ほどのシスターが院長を連れて戻って来た。


「これはようこそお越しくださいました。院長のマーガレット・リンドバーグです」


かなり太めのおばさんだった。もう上がってしまっていて、操るのは無理そうだ。


「こちらはナンデス侯爵家のお嬢様です」


イチが適当な自己紹介をした。


「どのような子供をお探しでしょうか」


「10歳ぐらいの男の子を探している」


もう一人のくノ一のニイが答えた。ルナは大物という設定なので話さない。


「あいにくその年代の男の子はおりません」


ほう、そう来たか。


「廊下の突き当たりの右の奥から3つ手前の部屋から10歳の男の子の匂いがするのは気のせいかしら」


大物役はやめだ。10歳男児の匂いが分かる変態お嬢様の役になろう。ルナはそう決意した。


「あ、あの子はもう行き先が決まっておりますので」


む、うまく逃げたわね。


「分かったわ。残念だけど、諦めるわ。イチ、ニイ、帰るわよ」


「あの、他の子はご覧頂けないでしょうか」


柔和なシスターが粘る。この女性はいい人みたいね。でも、残念だけど生理じゃないわね。孤児の中にはいるかもね。


「分かったわ。初潮が終わっている女の子を連れて来てくれるかしら」


柔和なシスターはドン引きしていた。このご令嬢は10歳の男児の匂いを嗅ぎ分けたかと思うと、今度は初潮が終わった妙齢の女子を出せという。


見た目は超をいくつ並べても足りないぐらいの超超超絶美女だ。シスターの人生の中でこれ以上の美女に出会ったことはないと断言できる。しかし、出て来る言葉は変態そのものだ。


「わ、分かりました。もう孤児院の仕事を多少なりとも手伝って貰ってますので、シスターの格好をしておりますが、連れて参ります」


5人のシスターが前に整列した。皆、ルナの顔をチラリと見た後は、5人ともずっと顔を伏せている。


ルナが彼女たちを一瞥する。


いないわね。少し女性ホルモンをちょちょいと細工してと。うん、2人始まるわね。


「この子とこの子にちょっとだけ話せるかしら」


ルナは孤児2人と3人で話す時間を希望して、院長に了解してもらった。


ルナは2人に指示を出して、院長には明日2人を迎えに来ると言って、孤児院を後にした。


***


その夜、孤児2人はルナの指示に従って、ムサシを連れて孤児院を抜け出した。イチとニイがムサシを迎えの馬車に乗せた。


「ムサシ、この馬車でナタールに行く。お姫さまと一緒にレンガ島に行ける」


ニイの言葉にムサシは頷いた。


孤児2人はすぐに孤児院へと引き返した。ムサシを乗せた馬車は無事国境を越え、ナタールへと出国した。


***


翌朝、ルナはくノ一の2人と孤児院へ向かった。ムサシがいなくなって孤児院は大騒ぎとなっているようだ。


疲れた表情の院長とシスターが迎えに出て来た。


ルナは笑顔で話した。


「10歳の子は貰われて行ったのですね。では、私たちは彼女たち2人を連れて行きます。メイドとして大切に育てます。ごきげんよう」


功労者には報酬を。ルナは2人の希望を聞き、王宮の侍女として採用するよう一筆をしたためて、ナタールへと送るよう配下に命じた。


さて、最後はブレンダだ。アポロンから報告があった。レベッカから知らされた場所にはいなかったため、アポロンが場所を探していたのだ。


ブレンダはセントメアリー病院で危篤状態になっていた。

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