第13話 レオン、サイラス、シンジ

サユリの説明によると、きっかけは3人の元衛兵からの働きかけだそうだ。


サユリとしてはイーサンだけで十分なのだが、島の人口を増やすために、優秀な子孫を残すのが若者の責務だとイーサンは常々言っており、イーサンからもアレンと話してみてはどうか、と勧められたそうだ。


イーサン町長は真面目だなあ。


婦人会でも俺のことが話題になることが多く、徐々に俺に興味を持ったようだ。


サユリはレベッカと仲がよく、二人でいるときもよく俺の話になるらしい。それで先にサユリが求婚することで話がついたとのことだった。


俺ってモテるの? それとも種馬的価値?


一妻多夫制なので、夫は1人の妻しか持てない。俺はルナと結婚したいので、他の人と結婚するわけにはいかないのだ。


しかし、イーサンが俺のことを兄弟にしようと思っていたとは意外だった。それに、勧められたとはいえ、サユリが簡単に従うのがよくわからない。


「その、勧められたからという理由みたいですが、そんなに簡単に夫を増やしていい感じなのですか?」


「この島の女性にとっては普通です。アレンさんはまだ若いから分からないかもしれませんが、男の人が側室を持つときも、勧められて増やすんじゃないですか?」


確かにそうかもしれない。でも、男はやりっ放しでいいが、女は大変だと思うけどなあ。


「なるほど。まだ子供なんでよくわからないですね」


そう言って分からないふりをして、本題に入ることにした。こちらに引き込むための交渉だ。


「ところで、もうすぐ婚約者が島に来るのですが、一緒に島に連れてきて欲しい人はいますか? あまりたくさんは無理ですので、少数の方に声がけしています。サユリさんで最後にしようと思ってますが、どなたかいらっしゃいますか?」


サユリは目をクワっと見開いた。


「弟を連れて来ることは可能でしょうか。連れて来て頂けるなら、何でもします」


いや、食いつきすぎだろう。


「どちらにいらっしゃいますでしょうか。詳細をお知らせください」


「はい、王都の西のはずれのあすなろ院という孤児院にいます」


「了解しました」


サユリは心配そうで、何か言いたげだ。


「サユリさん、大丈夫です。安心していてください」


こうして婚活パーティーは終了した。


早速救出作戦を練る必要がある。といっても、俺はルナにお願いするだけで、俺が何かするわけではないが。


パーティーからの帰り道で、早速母さんを経由してルナに以下を依頼した。


教会のガリレイ派を再起させるよう教皇に働きかける

サーシャの妹2人を島に連れて来る

レベッカの病弱な妹を島に連れて来る

サユリの弟を島に連れて来る


俺は3人の元衛兵への対応を考えよう。養蚕事業部に異動して来るそうなので、いつでも話は出来そうだ。


母さんが3人について調査してくれたようだ。


「人質はいないわよ。単純にリチャードの部下として、昔から彼の下で働いているみたいね」


母さんによると、彼らは指示書なるものを持っていて、それに従っているそうだ。俺への求婚がうまくいかなかったときは、どういった行動に出るのだろうか。


「アレン、分かってると思うけど」


(うん、3人だね)


どうやら直接行動に出るようだ。2時6時10時の方向から一斉に飛びかかって来た。剣と槍ともう一人は珍しいな、チャクラムか。3人とも黒装束で、顔は覆面で隠している。


この国にはリングと呼ばれる剣道と空手と柔道を合わせたような格闘技がある。その創始者にして最強の格闘家は、何と3つ前の前世の俺だった。俺は今まで俺が作り上げた格闘技を何世代も後の弟子に教わっていたのだった。


まずは後ろのチャクラムから倒そう。反転して一直線に相手との距離を詰める。俺は腰から携帯用の金属製の警棒を2本取り出し、両手に構えて、飛んで来るチャクラムを叩き落とす。相手の投擲は、どうやら俺を殺すのが目的ではなく、怪我をさせるのが目的のようだ。


チャクラムを叩き落としながら、間合いを詰め、相手の脛に警棒を思いっきり叩き込んだ。


「うぐっ」


相手が足を抱えてうずくまる。


「あれ? 頭隙だらけ」


男ははっとして、両腕で頭をガードする。俺は空いた腹に前蹴りをキメる。チャクラム野郎が腹を押さえながら両膝をついたところで、顎を回し蹴りして倒した。


槍男が俺にようやく追いついて、長い槍で俺を叩こうとするが、横の木を利用して三角飛びからの蹴りを顎に決めて倒した。


かわいそうに、残った剣士は完全にびびってしまっている。


「おじさん、それとも、お兄さんかな? 誰の命令で俺を襲ったのか白状すれば見逃すよ。言わないと捕まえて腕を切り落とすよ」


剣士は背中を向けて逃げ出した。俺は警棒を足にむかって投げつけた。警棒が剣士の足に絡まり、剣士は盛大に転んでしまった。


俺は剣士から剣を奪い取り、肩に突き刺した。


「ぎゃあっ」


と剣士は叫んで、何と泣き出している。


「何だよ、情けないなあ。襲うってことは、逆襲されることもあるんだよ。ほら、誰に言われたの? 右腕、無くなっちゃうよ?」


「い、言います。リチャード王子の命令です。殺すのではなく、大怪我をさせろという命令でした」


犯人は予想通りだったが、どう命令したのかを確かめたかった。


「おいおい見え透いた嘘をつくなよ。リチャードは王都だぞ。どうやって命令するんだよ」


「ほ、本当です。指示書があり、それに従って我々は行動しています」


「ふーん、じゃあその指示書ってのを見せてくれたら、信じてやるよ」


「今は持っていません。家にあります」


「お兄さん、名前は?」


「シンジです」


「明日、養蚕事業部に来るよね。そのとき持って来て。今日はその2人を連れて帰っていいよ」


3人は何とかなりそうだ、あとはルナにお任せだ。

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