過去数百回分の人生の知識と能力を使える俺は、女神からも溺愛されている

もぐすけ

第一章 追放

第1話 母の死と流刑

(あれが俺のオヤジか。思ったよりも威厳があるな)


俺が父親を初めて見たときの印象だ。


父はレオン・カイザー二世。このエルグランド王国の王だ。


今日は俺の15歳の誕生日で、祝福の儀式が教会で執り行われている。


儀式には国王である父のほか、側室の母や正妃、王太后と側近たちが参列している。


初代の王が7人すべての神々から祝福を受けて以来、直系の子孫は必ず3人以上の神々から祝福を受けてきた。


実際、俺の上の兄4人は全員が3人以上の神々から祝福を受けている。長兄は月の女神以外の6人から祝福を受け、他の兄も3人から5人の神々から祝福を受けた。ただ、まだ月の女神からの祝福は誰も受けていない。


月の女神は7人の神の中でも最も力が強く、他の神々を支配する神と言われており、神のなかでは一段格が高いとされている。


神父が祭壇で祈りを上げる。


「神よ、王子アレンに祝福を与え給え!」


神父の祈りに応えて、教会の祭壇に立っている7本の柱のうち、月の女神の柱が燦然と輝いた。


「おおっ」


と会場から感嘆の声が上がる。しかし、輝いたのは1本のみだった。


母の顔面が蒼白になる。祝福の神が3人に満たない場合、それは王の子ではないということを意味する。母が不義密通して俺を生んだということになってしまうのだ。


「な、何かの間違いです。アレンは陛下の子です」


母は父に必死に訴えるが、父は無言のまま教会を出て行こうとする。


「お父様!」


俺も母の命がかかっているので、父を引き止めようと必死に声をかけたのだが、父は振り向きもせず、立ち去ってしまった。


母と俺は衛兵に包囲された。俺は武術に自信があり、必死に抵抗するが、多勢に無勢でついに捕縛された。母もすぐに捕縛され、母と俺は、別々の地下牢に送られた。


俺たちが一体何をしたというのだろう。弁明の場も与えられず、一方的に牢に入れられた。こんな理不尽な話があるか。


後で知ったのだが、母はすぐに服毒自殺を命じられ、俺のことを最後まで心配しながら死んでいったという。母はよく俺に父の自慢をした。父が母にとっては唯一の男であり、最愛の男であったのだが、あの男はこんなつまらぬ儀式の結果をもって、虫を殺すかのように母をあっさり殺したのだ。


俺は母の自殺のことをくそったれの兄貴たちから牢で聞かされた。


「よお、アレン。いい気になっているから、こんな目に遭うんだよ。月の女神の祝福を受けたとはいえ、たった1人だけとはな。お前とは兄弟でも何でもないと思っていたが、まさか本当に兄弟じゃなかったとはな」


長兄のリチャードは、武芸、学問ともに俺よりも劣ることを妬んで、ことあるごとに嫌がらせをしてくる鬱陶しいやつだ。母から逆らわぬようにと何度も言い聞かされて来たが、ムカつくやつなので、母に見つからないように、たまにへこましてやっていたのだが、ここぞとばかりに逆襲してきやがった。


俺はこんな奴に舐められたままで、我慢できる性格ではない。


「月の女神の祝福を受けられなかったからってひがむなよ、リチャード。俺もお前が本当の兄でなくてよかったよ。初めて意見が一致したな」


リチャードが顔を真っ赤にして怒り出す。


「き、きさま、お父様の命令以外のことを俺ができないと思うなよ。今、ここで殺してやる!」


俺はリチャードを無視して、次兄のジルにリチャードを止めさせるように仕向ける。


「ジル、リチャードに俺を殺させれば、お前が皇太子候補だ。止めない方が自分に有利になるから、止めないのか?」


「なっ」


次兄のジルが気色ばんだ。だが、すぐにリチャードを止めにかかる。


「兄さん、止めた方がいい。どうせこいつは流刑地で死ぬ。死ななかったら、流刑地で殺せばいい。今ここで殺すのはまずい」


三男のスティーブも加わる。


「兄さんたち、アレンと話すとかき回される。当初の予定通り、これだけ渡そう。アレン、お前の不埒な母の最期の着物だ。糞尿だらけで汚いが、お前が喜ぶと思って持ってきてやった」


そういって、スティーブがにやにやしながら包に入れた着物を牢の隙間から放り込んだ。


(母さんに王が服毒自殺を命じたのか? くそっ、俺は何もできなかった。しかし、こいつら、母の遺体を弄んだのかっ。だが、ここで逆上してはこいつらの思うつぼだ)


「お前ら、遺体に群がる虫か? 揃いも揃って気持ちの悪い趣味をしてやがる。もう関係ないが、この国の行く末が心配だよ」


「こ、こいつ」


リチャードが今にも飛びかかって来そうだ。


「兄さん、負け惜しみだよ。アレンは口だけは達者だ。いちいち気にしてたらきりがないよ。こいつはもはや何もできないよ」


ジルがリチャードを懸命になだめる。


「そうだな。こいつの顔を見なくて済むと思うとせいせいする。お前、流刑地で人並みの暮らしができると思うなよっ」


リチャードは何とか怒りをおさめた。


リチャードとは犬猿の仲で、今回の件がなくても、いつかは殺し合うと思っていたが、次男と三男は、優秀な俺が皇太子になる可能性もあったため、今までは俺とも無難に接してきた。


ところが、俺に芽がなくなった途端にこの態度だ。ゲスもここまでくると、いっそ清々しく思う。


最後まで1つ上の兄の四男のデイビスは何も言わなかったが、実はこいつが一番始末が悪い。恐らく今回兄たちがここに来たのも、こいつの差し金のはずだ。俺を排除して兄3人を傀儡にしようと以前から企んでいるのだ。


唾棄すべき兄たちはようやく出て行った。


さっきはこの国は関係ないと言ったが、お前たちがしがみついているこの国をぶっ潰し、絶望の中でお前たちもぶっ殺してやる。

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