セパダン!!!

篤永ぎゃ丸

さつじんキック!

 どこかの中学校構内にある格技場かくぎじょう。多くの保護者達が不安気な顔を浮かべながら囲む先で、怪我をした、血が、担架を持ってこい、手当てを頼むと、大人達の声が飛び交っていた。


「杉本君の状態は?」


「蹴り技を真面まともに食らったかもしれん」


 体格の良い道着を着た男達が、小さな男の子の介抱をしている。白い道着の上に、頭や上半身を守るプロテクターが装着されている事から、テコンドーの試合中に何らかの負傷が発生した事は、誰が見ても明らかだろう。


「杉本……くん、大丈ッ……夫?」


 オドオドした少年が、心配のあまり声を掛けた。彼の目の前で倒れる男の子の額には、かすり傷が出来ていて、そこから血が滲み出ていた。大した怪我では無さそうだが、たらりと流れる血は第三者の印象を深刻にする。


「いてぇようぅ……頭が、いたいぃ……ッ」


「大丈夫、大丈夫だ。杉本君、落ち着いて、かすっただけだから」


「うぅ……ッあぁああ……!」


 血が出てる事でパニックになっているのか、男の子は悲痛な声を上げて泣き出す。幸い、頭部の外傷は軽く、脳震盪も起こしていない。介抱している大人達は、ガーゼを押し付けて冷静に対応する。


「ご……ッごめんなさ……ッ杉本君が、間合いに、無理……ッ矢理……入ってきて、足が当たっちゃ……ッ」


「わあぁあああ、二瓶にへいのやつがオレを蹴ったんだああああ」


「ち、ちがうよ……ッちが……ッ」


「とにかく、決勝戦は中止だ! 杉本君を医務室に運んで!」


 大人達は、試合をしていた男の子達を引き剥がして対応に当たった。怪我をさせてしまって、オドオドしていた少年は大丈夫、問題ないからと女性の大人達に連れ出される。


(うわぁ……やっぱ、にへーってやべぇよ)


(すごい血が出てたよね……殺人キックじゃん)


(杉本くんってテレビに出てたしさ。顔、怪我しちゃって大丈夫なのかなあ?)


 場外にいる道着を着た男の子達が、目の前の状況に震え上がって、ヒソヒソと話す。蹴り技主体の格闘技で起こりうる騒ぎの中、恐怖の視線全てを背中に集める少年、二瓶八雲にへいやくもは、その場にいる誰よりも怯えていた。

 

「わざとじゃ、ない。わざとじゃ……から」

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