第7話:なんであんな態度とってたの?

「私、は……」

「そもそもさ、なんで凛花は楓弥にあんな態度とってるの? 昔は『楓弥、楓弥』ってずっと一緒にいたじゃん」


 兼ねてからの疑問を突き付けた。

 二人の仲はよかったはずだ。

 知らない間に冷え切って――否、凛花の方が楓弥を拒絶し始めたように思う。


 凛花は言い辛そうにしていたが、やがて意を決したかのように口を開いた。


「――れたから」

「え?」


 訊き返すと、キッと睨むような視線が私を射抜いた。


「『もう着いてくんな』って言われたの! それで悲しくて、でも同時に怒れてきちゃって、引っ込みつかなくなっちゃって、いつの間にかこんなふうに……」

「……それっていつ頃の話?」

「小学生六年のときだよ! それから謝りもせずに、何もなかったかのように話しかけてくるんだよ!? ねえ、ひどくない!?」


 訴えるように叫ぶ凛花に、思わず頭を抱えた。

 くっだらな……、と言いかけるがそれはやめておき、別のことを言う。


「そのくらいって、男女が意味もなく敵対する頃でしょ。そのあと普通に戻ったんだから、もうよくない?」

「よくない! 私はすっごくすっごく悲しい思いをしたんだから、ちゃんと謝ってもらわないと気が済まない!」


 ……いや、わかるよ? でも、長くない?

 おーい、楓弥の好きな子、すっごい執念深くて面倒くさいぞ。

 私にしておいた方がいいんじゃないの?


楓弥あいつ、そんなこと絶対、覚えてないよ? だから一生仲直り出来ないね」

「……っ」


 悲痛な、声にならない音を漏らす凛花を、宥めるように言う。


「そのときはもちろん楓弥が悪かったんだろうけど、それからずっと頑なな態度を取り続けたのは凛花が悪いよ。おかげで楓弥、凛花に嫌われてると思ってるよ」

「……やっぱりそう?」


 私が首を縦に振ると、凛花は「そっかぁー」と机に突っ伏して力なく項垂れた。

 そんな凛花の髪をゆっくりと撫でる。


「だからさ、一回ちゃんと話してきなって。思ってること伝えて、謝ってもらえばいいじゃん」

「うん……」

「それでさ、ついでに告白もしちゃいな? 楓弥のこと、好きなんでしょ?」


 数秒の間の後、こくり、頭が縦に動く。

 そして凛花は顔を上げ、私をじっと見た。


「けど……」

「ん?」

「琴音はそれでいいの? 楓弥のこと、好きなんでしょ?」


 うん、そうだよ――。

 そう言うのは簡単だったけれど。

 代わりに私は出来得る限り柔和な笑みを作った。


「さっきのあれ、嘘なの。凛花の本音を訊きたかったから嘘吐いちゃった。ごめんね?」


 何度となく見た楓弥の、凛花を愛おしげに見る眼差しが、こびりついて離れない。

 それは私に向けられたことのない、確かな熱を持っていたから。

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