第4話:襲来

「何って……飯食ってるだけだけど」

「うん、そうそう」


 バクバクする心臓を抑えつつ、俺と琴音が答える。

 凛花こそ何しに来たんだ。

 そう言ってやりたい心境だったが、凛花の迫力ある表情がそれを許さない。


「あ、あ、ああああんたたち、つ、つつつき、付き合ってたの!?」

「ちょっと落ち着け」


 思わず言ってしまった。

 噛みすぎ。

 驚きやらで何やら俺も緊張してたはずなのに、慌てる凛花の姿を見ていると却って冷静になってきた。


「――はい、どうぞ」


 いつの間にか立ち上がっていた琴音が、新しく作ったカルピスを凛花に渡す。

 苦い顔をして受け取った凛花だったが、両手で受け取ると、ちまちまと飲み始めた。


「落ち着いた?」


 三分の一程飲んだところで琴音が訊ねると、不服そうな顔で凛花が頷く。

 そしてこっちにおいでよ、と手を引いて俺の座っているダイニングテーブルまで導いた。

 凛花は少し迷ったようだったが座った。

 俺の正面に琴音、右隣に凛花という、三角形の妙な構図になった。


「さて、と」


 琴音が切り出す。


「ごめん、言ってなかったね。私たち、付き合ってるんだ」

「お――」


 おい待て! そう抗議しようとした瞬間、机の下で琴音に向こう脛を蹴られた。

 声にならない痛みに悶絶する。


 すると同時、右隣からひぅっ、と息を呑む音が聞こえた。

 見ると、凛花は見るからに身体を硬くしていた。そして震える唇から、言葉を紡いでいく。


「い、いつから?」

「んー、つい最近だよ。一週間くらい前から」

「だか――」


 反論しようとして、また蹴られた。

 全く同じところに当たり、再度悶絶。

 涙目で琴音を睨むが、涼しい顔で受け流される。

 ちらりと凛花に目を向けてみると、琴音の方を向いていて俺の様子には気づいていないようだった。


「凛花は私たちのこと、祝福してくれるよね?」


 にっこりと満面の笑みで言う琴音。

 こええよ、なんだよ。何考えてんだよ。


 凛花は何か言おうとしたのか口を開いたり閉じたりしていたが、やがて真一文字にぎゅっと結んだ。


「……祝福するも何も、私には関係ないから」


 吐き捨てるように言って、琴音は立ち上がり、残りのカルピスを一気に飲み干した。

 そして背中を向けて廊下の方へと歩いていく。


「せっかく来たんだし、カレー食べてけば?」


 琴音が凛花の背中に向けて発すると――


「いらない!!」


 強い声とともに身を竦めるほど大きな音を立ててドアが閉じられ、凛花は消えて行った。


「おい、琴音……」


 なんだったんだよ、今の。

 そう言おうとしたが、何か考えるように虚ろな目をぼんやりと廊下に向ける琴音の様子を見て、言葉が止まる。


「やっぱそうなんだ……」


 無表情でそう漏らす琴音の姿が、妙に印象的だった。

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