幼馴染って面倒くさい

金石みずき

第1話:楓弥と凛花と琴音

凛花りんか


 帰りのホームルームが終わり、隣の席で荷物をまとめている凛花に声をかけた。


「今日、おばさん、帰り遅いらしいじゃん。久しぶりにうちで夕食一緒に食わない?」


 凛花は幼馴染であり、家も隣同士だ。

 家族ぐるみで仲良くしており、双方の親が共働きという状況もあって、一緒に食卓を囲むことも珍しくない。


「はあ? なんで私が楓弥あきやの家でご飯食べなきゃいけないの? ありえないんだけど」

 

 ――ほんの四、五年前ほどまでは。


 なぜか小学校を卒業するころから妙に壁が出来てしまい、今ではこのように蛇蝎だかつの如く嫌われている。


「だいたい気軽に話しかけてくんなって言ってるでしょ? 幼馴染だからって仲良いとか思われたら迷惑だからやめて。本当、無理。それじゃ」


 絶対零度の視線で俺と場を凍らせつつ、コツコツと靴を鳴らして凛花は教室を出ていく。

 姿が見えなくなって十秒程経ち、ようやく空気が弛緩する。

 俺も止めていた息を「はぁ~~~…………」と吐き出した。


 すると後ろから近付いてきた誰かに、ガッと肩を組まれた。


「おつかれ、楓弥! 毎度懲りないね。今月何回目?」


 そう言ってからかうような視線を向けてくるのは、同じく幼馴染の琴音ことねだ。


「…………おばさんから頼まれてんだよ」

「うっそつけー。凛花のこと好きなだけでしょ」

「うるせぇ」


 琴音にはもうとっくにバレているし、隠しても仕方がない。

 カラカラと笑う琴音に、俺はあえて不機嫌さを現した口調で苦言を呈してみたが、案の定、あまり効果はなさそうだ。


「そんな寂しいなら私が凛花の代わりにご飯食べに行こうか?」


 その証拠に、こうして悪戯っぽい笑みを浮かべてこんなことを言ってきた。

 まあ、よくある流れだ。

 ここで俺が断るのが、お決まりのパターン。


「いらね――」


 と、いつも通りに言いかけて少し考える。

 言葉を途中で止めた俺に、琴音が怪訝な目を向けた。

 うん、と一度頷いてから言う。


「いや、そうするか。たまにはいいかもな。この後、うち来いよ。買い物して帰ろうぜ。俺、作るからさ」

「うぇ!?」


 素っ頓狂な声をあげて固まった琴音を見て、俺はやっと仕返し出来たとばかりにニヤリと口角を上げて見せた。

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