第6話 俺は天才か!?


 あれからさらに、小魚を四匹ほど狩った。


 やはり『触手術』を駆使すれば、小魚を捕まえることはそれほど難しくないらしい。特に苦戦することもなく、次々と小魚を捕食することができた。


 上から触手をバッと伸ばしてガッと巻きつけてグッてなもんだ。


 その代わり、短時間でMPが20も減ってしまったのだが。


 一匹目で消費した分も合わせると、「空間識別」の分を抜いて25MPの消費だ。


 だが、その価値は十分にあったと言えるだろう。これ以上は喰えないとなったところで、捕食した小魚たちが俺の胃腔の中で息絶え、レベルが上がったのだ。



【名前】なし

【種族】レインボー・ジェリーフィッシュ

【レベル】3

【HP】8/8

【MP】98/135

【身体強度】3

【精神強度】117



 んで、これが今のステータスなわけだが……【HP】と【身体強度】の伸びが悪いな。特に【身体強度】なんて、2レベルから変化がないんだけど。


 たぶん、まったく成長していないというわけではないはずだ。


 おそらくだがこの数値、小数点以下も計算されているのではなかろうか?


 そうじゃないと、色々おかしい。俺の【身体強度】は最初2だったが、数値的には1が最低のはずである。たとえば俺よりも遥かに弱そうな小魚とか、それよりも弱い稚魚とかも1のステータスを持っているとして、小魚と稚魚の身体能力が同じはずがないからだ。


 何だかこのステータスというものは、俺のようなクラゲや小動物のためにあるというよりは、より体が大きくて頑強な生命体のためにあるような気がする。いや、数値の設定からしてね?


 まあ、そんなことは俺が考えたところで仕方ないのだが。


(さて、これからどうしよう……)


 お腹が物理的にいっぱいになったところで、俺はこれから何をしようか考える。


 他のヒトデや小魚を狩ったところで、今は腹がいっぱいだから喰えない。消化吸収にも時間がかかるのだ。


 だからといって、漫然と時間を過ごしても良いものか。


 安全を考えるなら、余計な行動はしない方が良いのかもしれない。というのも、「空間識別」を展開しておくためのMPをなるべく温存するためだ。


「空間識別」が切れれば、俺は周囲の状況をほとんど把握することができない。かなり無防備になってしまう。


 だが、無為な時間を過ごすのも危険な気がする。


 ここはいつ死ぬともしれない弱肉強食の大自然だ。できる時にできる事をして、もっと積極的に強くなるべきではないか?


 俺はそう判断した。


 なので、小魚を消化するまで漫然と過ごすのではなく、修行してみることにする。


 といっても、狩りをするわけではない。


 スキル『触手術』を使って、ウネウネと触手を動かす。


 MPを用いて触手の力を強化しながら。


 今の俺には8本の触手があるみたいなのだが、これを全て、一度に別々に動かすことは難しい。触れたものに反射で巻きつく程度のことは考えなくてもできるだろうが、意のままに動かすとなると、俺の処理能力では無理だ。


 というか、そんなの大抵の人は不可能だろう。いきなり腕が8本になったからといって、精密に操ることなどできるはずがない。


 なのでまず、8本の内、2本の触手だけを動かしてみる。


 これはまあ、元々人間だし、腕は2本あったし、特に問題なく操ることができた。


 ゆえに、今度は3本の触手を同時に操ってみる。


 すると、途端に難易度が上昇した。今、どの触手を動かしているのか頭が混乱してくるぜ。


 だけど絶対に不可能という感じはしない。練習すれば、問題なく操れるようになりそうだ、という手応えがあった。


 俺はしばらく『触手術』で触手を強化しながら、複数の触手を操る練習をした。


 で、当然のことながら――、


(何も、見えない……恐い……)


 おそらくは一時間も経たない内にMPは枯渇し、「空間識別」が切れてしまった。


 視界を失った俺は恐怖に震える。


 だけど、やはり俺の選択は無駄などではなかったのだ。


 これを見てくれ。



【スキル】『ポリプ化』『触手術Lv.2』『刺胞撃Lv.1』『蛍光Lv.1』『空間魔法Lv.1』『鑑定Lv.1』『魔力感知Lv.1』『魔力操作Lv.1』


『魔力感知Lv.1』――魔力に対する知覚が強化される。知覚精度、知覚範囲はスキルレベルに依存する。


『魔力操作Lv.1』――任意での魔力操作が向上する。操作性能はスキルレベルに依存する。



 まず、スキル『触手術』のレベルが2に上がった。


 これにより、触手3本の同時操作が容易になっただけではなく、MPによって伸ばすことができる触手の長さの限界が、1.5メートルほどから2メートルほどにまで向上した。それから計測する方法がないので何とも言えないのだが、おそらく触手の強化もさらに強くなっているだろう。何というか、強化した時の力強さが違うんだよね。


 今では何とか、触手4本の同時操作がギリギリ可能なくらいになっている。


 これだけでもMPを消費して修行を積んだ甲斐があったというものだが、修行の成果はこれだけではない。


『魔力感知』と『魔力操作』という、二つのスキルが生えたのだ。


「空間識別」を展開している間や、触手を強化している間、俺は常に魔力の流れを感じていた。その魔力の流れはスキルの発動に伴う、半自動的な動きなのだが、これを認識することによって『魔力感知』と『魔力操作』のスキルを獲得したのかもしれない。


 もしかしたら、俺の妙に高い【精神強度】もスキル獲得に貢献している可能性もあるが。


 ともかく。


 このように、修行初日としては上々の成果がもたらされたのだ。何となく気分が良いぜ。


 しかし、少しばかり気になることもある。


『空間魔法』や『触手術』など魔力を使用するスキルは、『魔力感知』や『魔力操作』がなくとも問題なく使えていた。


 つまり、これらのスキルがなくとも、魔法などを行使するのに問題はないということになる。


 ならば感知と操作は何のためにあるスキルなのか?


 まったく意味のないスキル――というのは考えられない。何か存在する意味が、役割があるはずだ。


 考えられるのは、『魔力感知』は外敵の魔力を遠くから感知して存在を知覚したり、魔法を使う敵の攻撃を事前に察知できる……とかだろうか?


 その割には、自分以外の魔力を全然感知できないのだが。


 んで、『魔力操作』の方は……何だろう?


 自分で魔力を操作できるのだから、自動的にスキルで消費される魔力を増やしたり減らしたりして、威力を調節できるとか?


 他にも何かありそうだが、推測の真偽を含めて今は確かめる術もないか。


 確かめるためにも、早く魔力を回復させないといけないな。


 俺はどうか天敵が来ませんようにと願いながら、早く魔力が回復するように祈った。


 というか、イメージした。


 海中に遍在する(かもしれない)魔力を体内に吸収するイメージだ。実は通っていた専門学校の関係から、一時期、気功を習っていたことがある。鍼灸指圧師の学校に通っていたんだ。んで、行ったのは呼吸によって気を取り込み、体内に回す。そんな簡単なイメージ。


 イメージだけで本当に回復が早くなるとは、あまり期待していなかった。藁にも縋る思いというか、他に何もすることがないから、できることはしておきたかっただけだ。


 だが、この数時間後。たぶん6時間くらい経っただろうか。


 ようやく全回復したMPを確認している時に、見慣れない文字がステータスにあることに気づいた。



『MP回復速度上昇Lv.1』――MPの自然回復速度を高める。回復速度はスキルレベルに依存する。



 何か新しいスキルが生えてた。


 ……もしかして俺は、天才か!?


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