★10 作戦会議

「あ、あの…スマホ貸してくれませんか?電話したいけど忘れちゃって」



 彼に会う数分前。私は美空神社に先に来て、食べ歩きした結果迷子になった。姉に連絡しようとスマホを探すが見当たず、家に置き忘れたことが発覚した。最悪だ。ポーチにはお財布と鍵と絆創膏しか入ってなかった。しかも、ちょっと食べすぎたせいか帯がきつい。スマホを取りに帰るほど時間もないだろうし、どうしよう。現在地はわからないがわかるのは明るい参拝道から外れた少し薄暗い小道だという事。周りに人はいない。どっちに進めばいいかももうわからない。私はテンパっていた。

 ほんの少しその場にとどまっていると前の方から人が来た。スマホを見ながら歩いてることで顔が光に照らされている。どこか見覚えのある顔だった。



  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 教室で口喧嘩をした俺と紫苑しおん。少しクラス内外から注目というか野次馬がいた。その口喧嘩は俺が教室から出たことで強制終了した。あ、別に泣いて逃げたとかじゃないから。紫苑に呆れて付き合いきれなくなっただけ。せっかく頼ってきた幼馴染の女の子に対してあんなこと言い方ないだろ。思い出すだけで腹が立ってくる。行き場のない怒りが出てきたがそんなことにかまってられない。教室以外に行き場がないからだ。さすがにまだ戻りたくない。あ、そうだ。立花さんに言わないとなー。もしかしたら聞こえてたかもだけど。連絡を取ろうと思いスマホを出したが立花さんの連絡先を持っていないことに気づいてそっとしまった。立花さんに直接会おうにも立花さんの教室は隣なので実質教室に戻ることになる。どうしようか。屋上に行こうとしても鍵がかかってるし、そもそも立ち入り禁止だ。だれでも屋上に行けると思ってるならそれはきっと漫画の読みすぎだ。中庭にでも行くか。

 


 美空高校の中庭は名ばかりの空間だ。四階建ての教室のある校舎と体育館と理科室や音楽室がある特別棟の間にある空間で背もたれのないベンチが二つ置いてあるだけで特に花壇があるわけでもない。そのうちの一つに俺は座った。時間はまだあるのでぼーっと中庭の地面に敷かれたコンクリートのタイルを眺めていた。

「あ!こんなとこにいたー!甘乃かんの紫苑しおんと喧嘩するなんて珍しいねー」

「立花さん、もしかして見てた?あれ」

「うん。途中からだけど」

「そっかー。ちなみにどこから?」

「うーんとねー。邪魔されずに友情とかなんとか言ってたあたりから」

「うん。かなり最後の方だね」


 


「どうする?班。紫苑には勝手に立花さんと班組むって言っちゃったけど」

「私は紫苑と甘乃と同じ班がいいなー」

「かなり無茶言ってるけど、大丈夫?状況わかってる?」

「わかってる。けどさー、初詣のときみたいに楽しく居たい」

「俺はいいんだけど、紫苑をどうにかしないとそれ叶わないよ?」

「そーだね!でも、私に考えがあるの!」

「何?」

「あの転校生ちゃんを入れるの!それを甘乃にやってほしい」

「え?でも俺、冬島さんと学校でしゃべったことないんだけど……」

でしょ?なら学校以外で誘いなさい」

「……」

 返す言葉もねえ。いや、でもなー。あの冬島さんだぞ。なんて誘えばいいんだよー。

「それで、あのバカ紫苑はそれなりに妥協するんじゃないかっていう私の計画」

 立花さんはそう言いながら、両腕を腰のあたりについて少し胸を張りドヤァと自慢げにしていた。

「そろそろ戻った方がいいんじゃない?野次馬も教室に帰ったでしょ」

「そうだな。とりあえず、戻りづらいけど戻ります」

「あ、報告はよろしく!」

「え?俺、立花さんの連絡先なんて知らないけど?」

「紫苑に訊けば一発なんだけど、この状況だし、ほれスマホ出せ。そしてQRコードを出せ」

 立花さんに言われた通り、俺はスマホを出し連絡アプリを開きQRコードを出した。すると、間髪いれずに立花さんがそれを読み取ってスタンプを送ってきた。

「んじゃ、よろしくー」

 立花さんは自分の教室へと帰って行った。

 俺の連絡アプリにが追加された。

 立花さんに言われた通りスマホを出した。

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