★8 班決まった?

 冬島さん姉妹からお礼にと招待された夜の翌日、美空高校2-1の教室にて。

「で、どうだった?」

「何が?」

「そりゃ、あの時の子のおねぇさんにあったんだろ?美人だっただよな?」

 そんなことをいきなり訊いて聞いてくるやつは自分の周りには紫苑しおんしかいない。というか友達も紫苑しかいない。俺は基本ソロだから、いつも絡んでくるコイツが変なんだ。

「えりかさんなー、まあ美人ではあったよ。冬島さんのおねぇさんだしな」

「えりかさんって言うのか。ってかお前もう名前で呼ぶ仲なのか。俺は嬉しいぜ!親友としてお前の成長に感動してる?」

「どした?」

 紫苑が急に言葉の途中で動かなくなった。目の前で手を振ってみるものの全く反応がない。立ったまま気絶したか?

「なあ、新汰あらた

 あ、戻ってきた。

「お前今、えりかさんが冬島さんのおねぇさんって言ったか?」

「うん」

「冬島さんってあの冬島さん?」

 そう言って紫苑は教室の後方のドアから入ってきたばかりの冬島さんを指差した。

「うん」

「ってことは、あの時助けたのは冬島さん?」

「だからそうって言ってんじゃん!」

「なあ、新汰。えりかさんを俺に紹介してくれ」

「なんで?」

「お前と冬島さんが結婚して、俺がえりかさんと結婚したら年上女性と結婚+二人が義理の弟・妹になるんだぞ!一石三鳥!」

「「……」」

 紫苑がまあまあデカい声で自信満々に言うもんだから教室がシーンとしたうえにこちらに注目している。すごく恥ずかしい。

「ちょっと、なんてこと言ってんのよ、このバカ紫苑!」

 横から会話に入って2-1の教室の静寂を破ったのは2-2の生徒であり、紫苑の幼馴染であり、紫苑のことが好きな女の子、立花柚子ゆずである。

「え?柚子?お前なんでここに」

「いつもいるでしょうが!」

「立花さん昨日はいなかったよね?」

「昨日は体調不良で休んでたの。今はこの通り」

 立花さんは俺と紫苑にもう大丈夫だと飛んで跳ねて正拳突きしてみせた。

「そう、それは良かった」

「で、二人ともなんの話してたの?」

「それは…」

 俺は紫苑と今朝から今まで話してた内容をざっくりと話した。

「そう、それであんなこと言ってたのね」

「なんで柚子が怒るんだよ。別に付き合ってるわけでもないし、だろ?」

「そ、そうね幼馴染よ。ね」

 また言い争いを始めた紫苑と立花さん。もう見慣れてきた。でも大抵悪いのは紫苑の方だけど。相手の気持ちを何も考えないのが紫苑のいいところであり悪いところだな。



  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「ところであなたたちは修学旅行の班は決まったのかしら?」

「いやまだ、俺と新汰しかいない」

「そう」

「「「……」」」

 いやなんか言えよ。なんでみんな黙る?

「そのー私も同じ班になりたーい!なんてね」

 あ、絶対入れてくださいのやつだこれ。立花さんの顔赤いし照れてるのがまるわかり。

「柚子友達いないのか?」

 紫苑が憐れんでいるように立花さんに言った。

「いるのはいるわよ!でも、人数オーバーで入れてもらえなかった…」

「ハブられてるやろそれ」

「違うもん!そんなことないもん!タイミングが悪かっただけだもん!」

 立花さんの顔を見るとちょっと涙目になっているのがわかる。っていうかこの人よくキャラ変わるなー。最初ちょっと怒って元気オーラ出して動揺して落ち着いたと思ったら上品な口調で次来て無理やり作ったような明るいキャラに突然なり冷静に紫苑に返されたことでしょんぼりしてからツンデレっぽくなったり。情緒不安定な人に似てる。

「そっか。じゃあ――」

「私を班に入れてくれるの?」

「――がんばれ!柚子」

 なぜそうなる?俺でもさすがに入れてあげようとなるのになんで。いや、紫苑バカでアホだからか。

「立花さん他に仲のいい人いないの?」 

 俺は紫苑コイツ以外にツテがあるのかきになった。もし、あるのであればさっさとそっちに行ったほうがいい。

「いない…」

 俺と立花さんはほぼ同時に溜息をついた。それはつまり、紫苑コイツしかいないということである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る