032 愛国者との邂逅

 数日後、ユニグロから様々な防具が届いた。

 それらは全て市場には出回っていない代物である。

 好きなように使っていいが横流しはするなよ、という旨のことが極めて丁寧な文章で書かれた紙も入っていた。


「やっぱりユニグロの品質は段違いだな」


「コスパが売りのユニグロが1万円以上する物を作ると別格ですね」


 俺たちはユニグロの中でも高価格帯に位置する一式を選んだ。


 見た目はこれまでと大差ない。

 俺の防具は長袖のシャツに革の胸当て。

 下は軽さと防御力の両立をしたという冒険者用のズボン。

 これまで着用していた物は邪魔なので捨てた。


 カスミは紺色の魔術師セットだ。

 トンガリハットはオシャレなことに内側が深い赤色だ。

 ローブはさらさらした質感で、これまでより軽くなっていた。

 白のブラウスと深紅のミニスカートもいい感じだ。


「ちょっぴり久々のボス狩りに行くか」


「ですねー!」


 俺たちはウキウキでギルドに向かった。


 ◇


 朝の日課が滞りなく終了する。

 俺たちは特区内にある焼肉屋で肉を食べていた。

 大手焼肉チェーン店のワンツーカルビだ。


「やっぱりユニグロは違うなー、汗が一瞬で乾く」


「ですねー。でも、それがかえって困りますね」


「困る? どうしてだ?」


「だって、インナーシャツの当たっていない部分が乾かないから……」


 カスミの目線が自身の胸元に向かう。

 俺も同じ場所を見て、そして分かった。

 胸の谷間に汗が溜まっていたのだ。


 これまではインナーシャツが汗で湿気って肌に張り付いていた。

 しかし、今はユニグロ製なので湿気る前に乾いてしまう。

 それによって、胸の谷間にできた汗の水溜まりだけが残っていたのだ。


「あんまりこういうことはしたくないですが……えいっ!」


 カスミは右手の人差し指で自分の胸を押す。

 豊満な胸の谷間が彼女の指を挟み込んだ。

 それによってシャツやブラウスが汗を吸い込む。

 谷間の部分だけが汗で濡れた。

 が、その数秒後にはスーッと乾いていった。

 ブラウスのほうも少し遅れて乾いていく。


「これでよし!」


「流石はユニグロだな、レベルが違う」


 俺は昔からユニグロが大好きだ。

 スポンサー契約をしたことで、ますます好きになっていた。

 俺の配信によって少しでもユニグロに貢献できれば……と思っている。

 やっぱりスポンサー契約って最高だぜ。


「肉を食って体力を回復したことだし、午後の狩りに行くか! スポンサー契約後初の配信をするぞ!」


「はい!」


 俺たちは意気揚々とレジで支払いを済ませる。


「金好さんとカスミさんですよね!? よかったら握手してもらえませんか!?」


 店員の女性が目をハートにして握手を求めてきた。


「仕方ないなぁ」


「いいですよー♪」


 今日だけで数回目となるファンサービスをしてからギルドに向かった。


 ◇


 ギルドについたら狩りの始まりだ。

 ――と、なる予定だったのだが、思いがけないことが起こった。


「ユウト君、あの人」


「ああ、たしか、陸自の……」


 顎のラインで揃えた黒髪。

 凜々しい顔付きにドーベルマンのような鋭い眼光。

 あれはまさしく――須藤だ。

 S級ダンジョンの件で俺たちの警護をしていたお姉さん。

 その人がなぜだかギルドにいる。一人で。


 前回とは違い、今回の須藤は私服姿だ。

 薄手のシャツにショートパンツといった動きやすそうな格好をしている。

 彼女の穿いている黒のレギンスを破りたくなったのはここだけの話だ。


「あっ、いた、金好君」


 須藤は俺たちに気づくと、表情をハッとさせて近づいてきた。


「俺たちに用かな?」


 須藤は「うん」と頷き、早々に本題を切り出した。


「一緒にPTを組んでもらえないかな?」


「PT……?」


 普段なら即答で拒否する。

 昔と違い、今の俺たちと組みたがる奴はごまんといるのだ。

 だからコラボ配信以外は受けないようにしている。

 もっとも、コラボ配信のお誘いは今のところないのだが。


 とはいえ、相手が須藤なら話は別だ。

 なにせ彼女は自衛官。

 冒険者は副業にあたるので禁止されているはずだ。

 どういうことなのか興味がある。


「実は私、陸自を辞めたの」


「俺たちを見て金に目がくらんだのか」


 冗談半分、嫌味半分で言う。


「そんなわけないでしょ」


 須藤は真顔で否定した。

 それから声のトーンを落として続ける。


「前の件では貴方たちに迷惑をかけたと思っているの。私や陸自の仲間、それに政治家だって、やっぱり悔しいと思う。アメリカに力尽くで奪われる形になったからね」


「ふむ」


「だから、私は自分が冒険者になって、貴方たちみたいに凄いワードを見つけようと思う。そして、それを国に無償で提供する。国に属さないという形だからこそできる方法でこの国に貢献したいの。日本をアメリカと対等な関係になれるように押し上げていきたい」


 俺とカスミは口をポカンとした。

 俺たちに比べて、この女の信念は崇高すぎる。

 愛国心に満ちた根っからの愛国者だ。


「だから冒険者になったのだけど、だからといって闇雲に活動するんじゃダメ。貴方たちみたいな冒険者を目指すなら、貴方たちの活動を見学するのが大事だと思う。だから無理を承知でお願いしたいのだけど、私をPTに混ぜてもらえないかな? 女だけど、そこらの男よりは十分に戦える自信があるから」


「そらそうだろうなぁ、陸自のエースだし……」


 前に須藤のことを検索したら簡単にヒットした。

 順調に出世街道を歩んでいた陸自のエースだったのだ。

 容姿の良さも相まって、ミリオタの間では有名人である。

 美人過ぎる自衛官などと言われていた。


「報酬の配分を気にしているのなら心配しないで。私は無償労働で構わない。一緒に戦うけど、魔石やワードの販売報酬は一切いらない。それに私自身はゲートワードを販売しない。ただ一緒に行動させてほしい。ゲートワードの決め方とか参考にしたいから」


 須藤の気迫が凄まじい。

 わざわざ陸自を辞めるだけのことはある。


「ちょっと待ってくれ」


 俺は即答せずにスマホを取り出して電話を掛けた。

 相手はユニグロの担当者こと遠野メイだ。


「実はPTに他の人を入れようと思っているんだけど問題ないかな? その人、見た感じユニグロの服は着ていないんだけど」


『もちろん問題ございません。弊社が契約を結んでいるのは金好様と吉見様ですので』


「オーケー、よく分かったよ」


 ユニグロから問題ないとのお墨付きをもらう。


「問題ないみたいだからPTを組もう。まずは冒険者カードを見せてくれ」


 俺たちは冒険者カードを取り出し、須藤に渡した。

 須藤も同じ要領で俺にカードを渡す。


==================

【名 前】須藤 アヤ

【ランク】F

【武 器】

 ①ミスリルダガー(E)

==================


 武器は武器屋で売っている短剣のようだ。

 ダガーを使う冒険者は珍しい。

 リーチが短いので大抵の人間は嫌がるのだ。

 俺も短剣は怖くて使えない。


「アヤって名前なんだね」


「うん。だから私のことはアヤって呼んでくれていいよ」


「なら俺のこともユウトでいいよ」


「私はカスミでお願いします!」


 こうして、元陸自の須藤アヤがPTに加わった。

 一時的にだけどね。

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