013 逆転の発想

 ダンジョン以外だとゲームでしかお目にかかれない巨大飛空艇。

 豪華客船やリゾート地を彷彿させるゴージャスな艇内。

 それでもって魔物がいない。

 となれば、やることは一つだ。


「ヒャッホオオオオオオオオオオオオ!」


 俺は水着に着替え、全力で艇内を満喫した。

 プールに飛び込み、ウォータースライダーを滑る。

 展望ジェットバスではシャンパンをボトルで飲む。

 さらにジップラインで弾けたあと、全裸で甲板へ。


「たまんねぇー!」


「ワオオオオーーーーン!」


 なぜかケルベロスまで吠えている。


 盛大に満喫したあと、服を着てコメントを確認。


==================

0231 ぴゅりす:そういう使い方があったかー(*´ω`*)

0283 名無しの名無し:スゲェェェ!

0317 未登録ユーザ:これは逆転の発想

0344 漆黒の矢神:俺も学校の皆とここで遊びたいぜ

0412 未登録ユーザ:めっちゃおもろいやん

0438 上から名無し:急に羨ましくなってきて草

==================


 ブーイングの嵐だったコメント欄が一変。

 瞬く間に羨む声で溢れかえった。

 それに呼応するように高評価の数が伸びていく。

 SNSで誰かが宣伝したのか、アクセスカウンターも回り始めた。


「まぁ俺の反応だけじゃ嘘くさいし、他の人も呼ばないとな!」


 ということで、カスミを呼びに戻る。

 ゲートワードが見えないよう、映像はオフにして音声だけにした。


「――とまぁそんなわけだから少し付き合ってくれよ」


「いいですよー、ちょうど講義が終わったところなんで! でも先に水着を買いにいかないと」


「艇内に水着売り場みたいなのがあったからそこで物色すればいいよ。俺もそうしたし。ダンジョンの物だから万引きにもならねぇ」


「わっかりましたー!」


 サクッと事情を説明して、カスミと共にダンジョンへ。

 戻ったら映像をオンにした。


「うわぁぁぁぁぁ! すごい! ここ、本当に魔物がいないんですか!?」


 操縦室から出たカスミは、艇内のゴージャスさに感嘆する。


「おうよ。さっそく楽しもうぜ」


「はい!」


 数分後、水着に着替えたカスミがプールにやってきた。


「あのぉ……ちょっと露出度が高すぎませんかね……?」


「言い忘れていたが、ここにはビキニ水着しかなくてね」


 ニヤリと笑ってスマホを確認する。

 怒濤の数の「ナイス」という発言で溢れていた。

 チャンネル登録者数が急激に増えていく。

 さらに外国のユーザからも「nice OPPAI」のコメントを頂いた。

 鳴りを潜めていたTAROMARUもここぞとばかりに暴れている。


「ほら、皆も喜んでいるぞ」


「な、ならいいですけど、恥ずかしいですね……」


 カスミが両腕で胸を隠そうとする。

 しかし彼女のか細い腕だと、とんでもナイスな胸は隠しきれなかった。

 それどころか谷間が押し上げられる格好となり、それはそれでいい感じだ。

 俺の口から自然と「おほほー」という声が漏れる。

 コメントにも「おほほー」が溢れていた。


「さぁ楽しもうじゃないか」


「ですね! ケルちゃん、魔物が現れたら教えてね!」


「ワン!」


 カスミと二人で艇内の娯楽を楽しむ。


(いやぁ、凄まじいな……カスミの胸は)


 カスミの胸はひたすらに揺れまくっていた。

 歩くだけで揺れるし、背泳ぎをすれば水面から顔を出す。

 ジップラインでは彼女の絶叫に合わせてプルンプルンしていた。

 とんでもない破壊力だ。


 そして、俺のアクションカメラはそんな胸を捉え続けていた。

 カメラの固定位置が胸元の為、焦点が彼女の胸のやや上で合う。

 具体的には谷間や鎖骨のあたりが中心にくるわけだ。

 男性リスナーにとってはご褒美以外のなにものでもなかった。


「ま、こんな感じの場所だ。どうだった?」


「すごく楽しかったです! また遊びに来たいです!」


「だろー! そうだよなー!」


 実に良い反応だ。

 俺は満足気に頷き、カスミを先に戻らせた。

 それから適当に挨拶をして配信を終了する。

 その頃には既に、コメント欄は大盛況だった。


 ◇


 一仕事終えたあとはサイセリアで晩メシだ。

 ここで今日の成果を確認しておこう。


「よーし、バズってる!」


 敵のいないダンジョン『潤滑油野郎』の配信もバズった。

 玉金スナイプには劣るものの、それでも及第点の反応だ。


 それで知ったのだが、敵のいないダンジョンは他にもあるらしい。

 ただ、潤滑油野郎みたいな良いロケーションは激レアだ。

 大体は何もない森や草原という。

 だから、何もないダンジョンは今まで人気がなかった。


「知らぬ間に5桁の大台を突破してやがる……!」


 バズったおかげでチャンネル登録者数が1万5000人に到達した。

 さらに昨日の配信動画と合わせて広告のほうもウハウハだ。

 今日だけで5万円の広告収入が発生した。

 ダンジョンの稼ぎは0円でも、広告で5万も稼いだから問題ない。


 しかも、広告収入の旨味は持続性にある。

 昨日や今日の配信動画は、しばらくお金を産み続けるだろう。

 もちろん今ほどの勢いではないけれど、それでもチリツモだ。

 塵も積もれば山となる。


「ちょっとユウト君! 私の顔が殆ど映ってないんですけど!?」


 向かいの席に座っているカスミが睨んできた。

 どうやら今日の配信動画を視聴しているらしい。


「胸ばっかりじゃないですか!」


「いやぁ、アクションカメラの位置の問題でね」


「コメントも変態ばっかだし!」


「それだけカスミが素晴らしい物をお持ちってことだよ」


「変態ですからねそれ!」


「まぁまぁ、広告収入の半分をあげるからさ。2万5000円だぜ?」


「えっ!? そんなに!?」


「うん、そんなに」


「だったら……オッケーです!」


 どうにかカスミの心を買収することに成功。

 地獄の沙汰も金次第とはこのことか。


「ところでさ、今日はあのダンジョンに泊まらないか?」


 これは俺からの提案だ。


「えっ? ダンジョンに?」


「だって魔物がいないんだし。いたとしてもF級だから対処可能だ。キャンピングカーと違ってそれぞれの客室に立派なバスタブもあるし、バスローブとかも揃っていたぞ。あんなところ、普通に泊まったら一泊で数十万はするぜ」


「たしかに」


「でもダンジョンだと無料だ。どうよ?」


「少し不安ですが……ケルちゃんがいれば大丈夫かな?」


 そんなわけで、今日はダンジョンで過ごすことになった。

 問題なければ今後も潤滑油野郎を寝床にさせてもらおう。


 晩メシを済ませた俺たちは、再び『潤滑油野郎』に戻ってきた。


「私、この部屋を使います! ここ取ったー!」


 カスミがスイートルームを指定する。

 クイーンサイズのベッドがある非常に広い客室だ。

 何故かバーカウンターまで備わっている。

 我がキャンピングカーの10倍近い面積がありそう。


「なら俺もこの部屋にしよう」


「ええええ、どうして同じ部屋にするんですか!?」


 驚くカスミ。

 これに関するやり取りは既に想定済みだ。


「だって一緒のベッドで寝たいじゃん」


「嫌ですよ!」


「俺と一緒だと嫌なの?」


「そうじゃないですけど、私たち、そういう関係じゃないので……」


「たしかに。なら別々の部屋にするか」


「そうしましょう!」


「でもいいのかなぁ」


「えっ?」


「ここってダンジョンなわけだし、別々の部屋って不安じゃない? かなり広いからさ、何かあった時にすぐ来れないっていうか」


「それは……」


「二人だったら安心できるけど、一人だったらなかなか眠れないかもなぁ」


「ぐぐっ」


「それにベッドがこれだけ広いとうっかりってこともないと思うんだよなぁ」


「たしかに……」


「ま、でもカスミの言うとおりだよな。俺たちは付き合っているわけじゃないんだから、別々の部屋で過ごすのがいいさ。そんじゃ」


 俺はゆっくりと扉に向かって歩いていく。

 その足取りはいつもより遅く、まるでスローモーションだ。


「ま、待ってください!」


 カスミが呼び止めてきた。

 俺はニヤリと笑ったあと、真顔で振り返る。


「どうした?」


「あ、あの、その」


「ん?」


「よかったら一緒のベッドで……寝ませんか?」


「でも、俺とはそういう関係じゃないからって言ってたはずだが」


「ここでは例外ってことで!」


「カスミがそこまで言うなら仕方ないなぁ」


 飛空艇には無数の客室が存在する。

 にもかかわらず、俺たちは同じ部屋で過ごすことになった。

 もっと言えば同じベッドで……。


「風呂に入ってくるよ」


「了解です!」


 カスミに背を向け、浴室に向かう。

 俺は再びニヤリとして、密かにガッツポーズした。


 やったぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る