第33話 異形の悪魔


 「シィアン、フント大丈夫か」


 「これくらいの爆風なら問題ありません。しかし、いつまであの化け物に付き合うのですか?獣人族の再興はもう絶望的です。生きている者も私達3人だけかもしれません」


 「3人いれば再興のチャンスがあるだろう。生き残るにはシルバー様に着いて行くしか方法はない」


 「ミーチェ様、私もシィアンと同意見です。あんな化け物の側に居ればいずれ死んでしまいます。隙を見て逃げた方が良いと思います」


 「お前たちの目は節穴か!シルバー様から逃げ出せると思っているのか?理由はわからないが、シルバー様は私には一切敵意を見せる事はないし、私の願いでお前たち2人にも危害を加えない。私たちが生き残るにはシルバー様の庇護下に居ること以外は方法はない」


 「もう限界です。国は破壊され同族達が虫けらのように殺される様を見るのは嫌なのです」


 「その心配は今終わっただろう。フリーダムが破壊され、ルーザーも跡形もなく消滅した。もう私たちは国も同族も全て失ってしまったのだ。この表現できない苦しみ悲しみ怒りそして・・・恐怖を全ての種族に味わってもらおうじゃないか!お前たち二人のように恐怖に怯えた絶望の顔を、これからは私たちが楽しもうじゃないか!」


 

 シィアンとフントはミーチェのおどろおどろしい目を見て、従わざるえなかった。

 

 ミーチェは自分が支配する町を、シルバーによって一夜で破壊され、町の住人も跡形なく葬り去られた。その中にはミーチェの愛する者や子供もいた。自分がシルバーを拾わなければ、こんな事にはならなかったのではと自問自答を繰り返したが、答えはNOだった。自分が拾わなくても、シルバーは自分の町を破壊したに違いないと答えは出た。ミーチェは自分の受けた苦しみ、悲しみを皆に平等に分け与えるべきだと思い、シルバーの道案内に積極的に協力することにした。



 「ミーちゃん。この町も終わったよ。次はどこを終わらせようかな」


 

 シルバーは、小さめの火炎球を放ちエレファントにとどめをさした後、ミーチェに近寄り子供のようなくもり1つない目で声をかける。シルバーは年齢は16歳だが、10年前に体が塵となり再生したので体つきは12歳程度である。



 「シルバー様。次は人間の国にしますか?それとも異形者が住む異形の大地に行きますか?」


 「人間・・・は後回しにする。異形を終わらす」


 「わかりました。異形の大地に向かいましょう」



 異形の大地とは異形の悪魔と呼ばれる7人の科学者が住む大地である。異形の悪魔は世界を滅ぶす終焉兵器を作り出した世界の元凶の科学者である。異形の悪魔と呼ばれるのは、終焉兵器を作り出すときに何度も失敗して体が異形になったためである。

 その姿は様々で、ガレリオンという異形の悪魔の姿は、顔と皮膚は火傷を負ったように爛れていて、目は一つ、鼻のようなものが二つあり、口は大きく裂けている。腕は3本あり背中から飾りのように1本の手が垂れ下がっていている。よく見ると指は右手は2本、左手は6本、背中の手は1本。全身からは絶えず痛みが込み上げてくるので、苦痛を伴いながら生きている。

 異形の悪魔は1000年前に終焉姫との戦いにより、世界を滅ぼす終焉兵器を作った代償として、殺さずに生きて反省を償うようにと不死の命を授けられた。なので、1000年もの間、苦痛を浴びながらこっそりと暮らしている。

 終焉兵器は今、古代兵器と呼ばれ終焉姫の手によって地中深くに封印されているが、古代兵器の一部はケーニヒ王に発掘された後、異形の悪魔の手に渡った。


 ※詳細は前作の【終焉の姫聖女の姫】にて



 「ここ3日間で超爆発が3度も起きているぞ」


 「ついに終焉姫が動き出したのか?」


 「間違いないだろう。これで俺たちも自由になれる・・・」



  異形の悪魔は死にたがっている。絶えず激痛が伴う体に不死の命。異形の悪魔は死んで楽になりたいのである。


 


 「シルバー様、異形の大地には混沌の魔獣と呼ばれる異形の悪魔が作り出した魔獣が住み着いています。これからの道中はくれぐれも気を付けてください」


 

 混沌の魔獣とは、未開の大地に住み着いた異形の悪魔達が、1000年の長い時を過ごす為の退屈しのぎに作り出された魔獣である。普通の魔獣とは異質の力を持っている。ファイアスピッグは混沌の魔獣である。



 ※ファイアスピッグは前作【終焉に姫と聖女の姫】に登場した魔獣。



 「この森にを越えたら異形の大地?」


 「はい。異形の大地には誰も潜入しないように、この森には混沌の魔獣が放たれているのです」


 「わかった。終わらす」



 シルバーが火炎球と唱えると森を覆いつくすほどの火炎球が出現した。その大きさにミーチェ達は腰を抜かして座り込む。



 「シルバー様、今までは力を抑えていたのですね・・・」



 ミーチェの目は絶望を一周して煌煌とした目になっていた。そして、シィアンとフントは恐怖に飲み込まれて気を失った。3人が超特大の火炎球の熱風に耐えうることが出来たのは、シルバーの結界に守られていたからである。


 超特大火炎球の熱風により森は瞬時に炎の森となり、シルバーが火炎球を森に落とした瞬間に森は消滅した。



 「これで終わり」


 

 シルバーは呟いた。


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