第19話 勝者は・・・

 ハーロルト子爵は丸太のように太くなった腕で、鉄格子の鉄棒を握りしめると鉄棒は小枝のように簡単に折れてしまった。


 

 「アルカナちゃん、ここは私に任せてください」



 ロリポップは、腰を深く降ろして右手を後ろに引き、狙いを定めるように左手をハーロルト子爵に向けた。そして、魔力を右手に集中させて、右手を一気に加速し突き出し、左手は遠心力をつけるため一気に後ろに引いた。突き出した右手からは30cm程の魔力の塊(魔力弾)が放出された。ロリポップの放った魔力弾は鉄格子をすり抜けて、ハーロルト子爵の顔面に直撃した。



 ※ ロリポップの『称号』はAランクの『気功師』である。気功師は魔力を集中させて魔力弾を放つことが出来る。魔法との違いは、魔力弾は物理的対象物や人間などを自分の意思で貫通させることができる。なので、防具や障害物などが無意味になる。



 ハーロルト子爵の頭は牢屋の壁にぶつかり、トマトが投げ付けられたように赤く染まった。しかし、頭が無くなったハーロルト子爵は、何事もなかったかのように、新たに鉄棒を握りしめて、鉄格子を完全に破壊した。



 「頭が吹き飛んだのに死なないわ!」


 「ハーロルトは俺の操り人形になっている。俺が傀儡を解除しない限り死ぬことはない」



 ディープキスによる傀儡は、完全にクローヴィスの操り人形になっているので傀儡を解かない限り動きを止めることはできない。



 「先に治癒師を殺せ!あいつがいると面倒だ!」



 ハーロルト子爵は牢屋を抜け出て私の方へゆっくりと移動する。ハーロルト子爵は全身の血管から血を吹き出し、首からも噴水のように血が噴き出している。



 「アルカナちゃん!逃げて」



 ロリポップは声を張り上げて叫ぶが、私は恐怖のあまりにおしっこを漏らして地面に座り込んだ・・・ように演出した。



 「アルカナちゃん!!!」


 

 ロリポップは私を助けるために魔力弾を何発もハーロルト子爵に打ち込むが、ハーロルト子爵の体に大きな穴が出来るだけで動きを止めることができない。


 ハーロルト子爵は座り込んだ私の上に覆いかぶさり私を動けないようにした。



 「これで、あの娘も終わりだ」



 ハーロルト子爵は私に覆いかぶさった後、さらに体を膨張させて爆発した。地下牢の部屋にはハーロルト子爵の肉片が至る所に飛び散り、部屋を真っ赤に染めた。ハーロルト子爵の爆発によって私の体もバラバラになり右足は天井に突き刺さり、左足はロリポップの顔面に直撃し、右腕はクローヴィス兵士長の側に転がり、左腕は跡形もなく消えてしまった。



 「これで問題なく傀儡が使えるな」



 クローヴィス兵士長は黒いオーラを発してロリポップを覆いつくす。



 「ロリポップ、今までの全ての悪事はハーロルトが単独で行ったもので、その責を問われたハーロルトは、逆上して新執事を殺害し、俺たちにも刃を向けてきたので、やむを得ず殺害したと報告しろ。それと、俺の無罪は証明されたと兵士たちに伝えておけ」


 「わかりました」



 ロリポップは階段を上がり地下牢から出て行った。



 「しかし、この治癒師はなぜ?俺の傀儡を防ぐことができたのだ?いろいろと調べる必要はあったが、こいつを生かすのは危険だ。殺して正解だったと判断すべきだな。でも、こいつが言っていたロワルド男爵のことだが、もしかして、シェラルトがやったのか?あいつはフリーデン公爵から送られてきた『不滅の欲望』の一員で俺が手出しできない唯一の人物だ。俺の知らない所で何か企んでいる可能性あるな・・・なんだ!これは」



 クローヴィス兵士長が急に大声を上げた。



 「あいつの腕が俺の足をつかんでいるぞ。離れろ!離れろ!」



 クローヴィス兵士長は私の右手を掴み必死で引き離そうとするが、全く私の腕は離れない。



 「力が・・・力が・・・全然入らない」



 クローヴィス兵士長が私の腕を引き離そうとするが、まったく力を入れることができず、その場で立っていることも困難な状態になり、ふらふらとよろめけだす。



 「何が起こっているのだ?」



 クローヴィス兵士長は酒に酔ったサラリーマンのように千鳥足で真っ赤に染まった地下牢の壁に何度もぶつかりながら、最後には地面に這いつくばって動かなくなった。



 「シェラルト・・・『不滅の欲望』のメンバー・・・間違いないわ」



 私は最後の賭けに出たのである。悪人は必ず最後に勝ち誇った時に、安堵の余韻で思わぬことを口にするものである。その言葉は深層に眠っていた言葉や、絶対に話してはいけない真相などである。私が死ぬことによって、クローヴィス兵士長は自由に傀儡を使えるようになり、完全勝利を確信するはずである。その時に私が望んでいた情報を思わず口にすると私は賭けに出ることにしたのであった。


 


 


 


 




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