第17話 思惑


 クローヴィス兵士長とハーロルト子爵は、アーダルベルト邸の敷地内になる別館の地下牢に監禁されていた。



 「クローヴィス様、私はどうなるのでしょうか?」



 ハーロルトは涙を浮かべ体を震わせながらクローヴィス兵士長に問いかけるが相手にされない。



 「なぜだ?なぜ俺の傀儡が通用しなかったのだ。誰かが俺の邪魔をしたのか?」



 クローヴィス兵士長は目を閉じて神判所の出来事を振り返りながら考え込んでいる。



 「なぜだ!なぜこんな事になってしまったのだ!おい兵士ども、俺はブラートフィッシュ家だぞ!俺を直ぐにここから出すのだ!」



 ハーロルド子爵は涙を流しながら牢屋の鉄の棒を両手で握りしめて兵士たちを威嚇をするが相手にされない。



 「黙れ!」



 クローヴィス兵士長は黒のオーラを発してハーロルド子爵を傀儡して、おとなしくさせた。



 「ここでは問題なく傀儡は通用した。やはり、あの小娘が何かをしたに違いない。あいつは確か治癒師だったはず。Cランク称号がSランク称号のスキルを無効化できるなんてありえないはずだ。何かあるはずだ」



 クローヴィス兵士長は牢屋の隅っこで座って考え込む。




 「アルカナ様、この牢屋に2人を監禁しています」


 「わかりました。兵士さんは上のお部屋で休憩をしてください。ここは私とロリポップさんで取り調べをします」


 「わかりました」



 兵士たちは階段を登って地下牢から出ていく。



 「アルカナちゃん、取り調べをして何を聞き出すつもりなの?クローヴィスは伯爵様を洗脳してたくさんの罪を犯していたことは明確だわ」


 「ロリポップさん、洗脳されていたのはあくまで私の推察であり確定ではないのです。きちんとクローヴィス兵士長を取調べて真実を白日の元に晒すのです」




 私が知りたいのはソルシエールのことである。クローヴィス兵士長、ハーロルト子爵と対話して少しでもソルシエールのことを聞きたいのである。私の診断は相手の能力などを知ることはできるが、相手の記憶の中身を知ることはできないので、ソルシエールの情報は直接本人に聞くしかないのである。



 「クローヴィスが自分から罪を認めるとは思えません。拷問室に連れて行き徹底的に痛めつけないと口を割らないはずです」


 「拷問による自白は信憑性がありません。痛みを逃れるために嘘をつく可能性があります。私が知りたいのは嘘の情報でなく真実なのです」


 「拷問もしないでクローヴィスが本当のことをいう事は絶対にありません。それに、クローヴィスは今まで罪もない人たちを残忍な方法でたくさん殺してきたのは私が知っています。それに殺しだけではありません。横領、レイプ、略奪などあらゆる犯罪に手を染めています。自白など必要ありません。即刻死刑にしてこの町を正常化するべきです」


 「ロリポップさんの意見はもっともな事でしょう。ロリポップさんはこれまでたくさんの悪事を目撃していたので証人としては問題はありません。しかし、それでは、伯爵様も同様に罪を背負うことになるでしょう。私は、クローヴィス兵士長の洗脳を明るみにして、伯爵様は操られていたことを証明したいのです。そうしなければ、失感情伯爵と名付けられた汚名を剥がすことができないと思います」


 「アルカナちゃん・・・そこまで考えていてくれたのですね」



 ロリポップの目頭が熱くなり目が充血している。しかし、私にとってアーダルベルト伯爵の汚名などどうでも良いのである。このままクローヴィス兵士長を死刑にすれば、ソルシエールの情報が聞き出せない事が一番困るのであった。


 私は牢屋に近づいていくとクローヴィス兵士長はゆっくりと立ち上がり私の方へ近づいてきた。そして、黒いオーラを発して私を傀儡しようとする。



 「俺を牢屋から出せ」


 「2日前、ロワルド男爵を殺したのはあなたですか?」



 私はクローヴィス兵士長を無視して、ロワルド男爵のことを聞いてみる事にした。少しでも表情が変われば何か知っていると判断できると思ったからである。



 「何の話をしているのだ?そんなことよりも俺を牢屋から出せ!」



 クローヴィス兵士長は先ほどとは比べものにならないくらいのどす黒いオーラを放出して敷地内を黒のオーラで包み込んだが、私は光のオーラを放って黒のオーラをかき消した。



 「早くこの牢屋から出せ・・・やはり無駄か」



 クローヴィス兵士長は私の方をじっと見ている。私もクローヴィス兵士長の表情を探ったが全くロワルド男爵のことを知らないような様子だった。


 

 「ハーロルト子爵、あなたはクローヴィス兵士長に唆されて悪事に加担していたのですよね。今まで行った悪事のことをきちんと説明してくださったら死刑ではなく追放処分にしてあげます」


 「ほ・・・本当なのか?」




 ハーロルト子爵を傀儡していた黒のオーラを私が掻き消したのでハーロルト子爵は正常に戻っていた。



 「アルカナちゃん正気なの?ハーロルトの親は4大公爵家の1人であるフリーデン・エリアス・レーチェル公爵の庇護を受けている厄介な人物なのよ。内密に処理しないと領主であるバトルクワイ公爵に迷惑をかける事になるわ」


 「ロリポップ、お前は頭が悪すぎるぞ!俺を死罪にするよりも刑を取り下げてこの町から追放する方が得策だとなぜ気付かない。そのガキは気に入らないがお前よりか頭は良いのだろうぜ」


 「アルカナちゃん、こいつは危険です。絶対に親の元に帰すのはやめてください」




 ロリポップは、必死に私にハーロルト子爵を死刑にするように訴えるが、私には1番優先すべきことはソルシエールのことであった。


 



 

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