第12話 結果


 「ガハハハハ・ガハハハハ・これは面白いぜ。あの平民、壇上でおしっこをしやがったぜ」



 髭のおっさんが腹を抱えて笑い出す。周りの兵士たちも笑いを抑えるので必死であった。



 「またですか・・・だから衣服は着用しておくべきだったのです。全裸だとおしっこが飛び散ってしまいます」


 「何度見てもこの光景は面白すぎるぜ」


 「本物の伯爵様を見てビビっておしっこを漏らす事をはよくある事です。毎回このような事態になるのですから、あなたがしっかりと管理してくれてないと困るのですよ」


 「ハーロルト子爵、これも面接の醍醐味ではありませんか!こいつらがどれほど伯爵様に恐怖を感じているのかすぐにわかります。しかし、神聖なる伯爵様の屋敷でおしっこを漏らすのは大罪です。あいつはすぐに神判所で処罰を致しましょう」


 「そうですね。伯爵様の屋敷を汚したモノを牢屋に閉じ込めなさい」


 「あいつを牢屋に連行しろ!お前たちは仲間が汚した壇上を自分の脱いだ衣服で綺麗に掃除しろ!」



 髭のおっさんは大声で叫ぶ。



 髭のおっさんの命を受けた兵士は、おしっこを漏らした男性を大広間から連れ出し、私以外の6名は自分の衣服を雑巾の代わりにして床を掃除した



 「お前も掃除をしろ」



 髭のおっさんが叫ぶ。



 「これも面接の一環なのでしょうか?私は伯爵様のメイドになるために面接にきたのです。面接以外の事はまだする必要がないと思うのです」


 「お前、誰にモノを言っているのかわかっているのか!」



 髭のおっさんは怒りをあらわにし、目の前のテーブルを叩きつけ怒鳴りつけた。



 「静かにしなさい。あの娘さんの言っていることは正しい。あなたはいつから面接官になったのですか?この面接は私が行うのであって、あなたが行うのではありません」



 終始無口だったアーダルベルト伯爵が口を開いた。



 「申し訳ありません」



 髭のおっさんは土下座をして謝った。しかし、アーダルベルト伯爵は髭のおっさんの方は見向きもしない。



 「あなたのお名前を教えてください」



 アーダルベルト伯爵は私に声をかける。



 「アルカナ・レイフォールです」


 「あなたは私が怖くないのですか?私は何度も面接をしていますが、誰も皆私を恐れて私の目を見る人などいなかったのです。しかし、あなたは私が大広間に入った時からずっと私の方を見ていたでしょう」


 「伯爵様のことを怖いとは思っていません。伯爵様のことをずっと見ていたのは、私が人生を捧げるべき人物なのかどうか判断をするためです。面接とはお互いの人物像を把握するためのものだと私は思っています。なので、私の方も伯爵様を面接させてもらっています」


 「貴様!何を言っているんだ!お前が伯爵様を面接するだなんて無礼にも程があるぞ!これは不敬罪に値する。すぐに神判所に連れていけ!」



 髭のおっさんは土下座をして頭を下げていたが、私の言葉を聞いて急に立ち上がり怒鳴り出した。そして、大声で私を怒鳴りつけた後にちらっとアーダルベルト伯爵の方を見て、「代わりに私がキツく言いましたよ」的な笑みを浮かべた。



 「そうですね。あなたの態度は不敬罪に値します。すぐに神判所に連行しなさい」


 「わかったか!この小娘が。貴族だからといって調子に乗ったお前が悪いのだ。神判所では俺がその体を可愛がってやるから楽しみにしておけ」



 髭のおっさんは頬が垂れ落ちるくらいにニヤニヤと笑いながら言い放った。



 「アルカナさんでなく、あなたが神判所に行くのです」


 「えっ」



 髭のおっさんの目が今にも飛び出しそうなくらいに驚いている。



 「目障りです。すぐに彼を連れ出してください」



 兵士たちは髭のおっさんを拘束して大広間から出て行った。



 「さて、静かになりましたね。これでゆっくりと面接ができます」



 アーダルベルト伯爵の顔にうっすらと笑みが溢れたように感じがした。



 「アルカナさん、あなたは治癒院を営んでいるそうですが、なぜ?メイドの募集に来られたのでしょうか?ここにメイドとして働くことは、どのような扱いになるのかご存知だと思うのですが」


 「実は昨日母が亡くなりました。伯爵様もご存知だと思いますが、治癒院は平民や貧乏貴族を相手にするので収入は安定しません。なので、家計は火の車でありいつ廃業をしてもおかしくありませんでした。母の死を契機にお店を畳むことにしてメイドとして働くことにしました」



 実際に平民や貧乏貴族を相手にする治癒院は、儲けはほとんどなく経営はカツカツなのが当然である。お金を持っている貴族は帝国病院で高度な治癒を受けるからである。でも、私の治癒院は人気がありそこまで経営は苦しくはなかった。そして、ソルシエールの死をアーダルベルト伯爵に告げることで、何か口をすべらすのではないかと淡い期待もしていた。


 「それはお辛いことですね。お悔やみを申し上げます」



 アーダルベルトは全く表情を変えることなく淡々と述べた。元から感情のない人間だと聞いていたので、表情の変化を読み解くことは難しいと思っていたが、初めて聞いた話のようにスムーズに答えたので何も収穫はなかった。



 「ありがとうございます。どのようなお仕事をさせてもらえるかわかりませんが、治癒に関しては勉強をしていますので、色々とお役に立てると思います」


 「わかりました。あなたを採用いたします。あなたは私の秘書として働いてもらいます」


 「伯爵様!正気ですか?いくら貴族だからといって騎士を秘書として採用するのはどうかと思います。それに、伯爵様の秘書は私ではありませんか?」



 ハーロルト子爵は驚きを隠せない。



 「私はアルカナさんが気に入ったのです。しばらく私のそばに置いて様子を見たいと思いました」


 「しかし、メイドの募集は、平民は飼育部屋で働かせ、貴族は雑務と夜の接客と決まっています。伯爵様の業務の手伝いをするのは貴族会で選出された者です」


 「では、なぜこのような面接をするのでしょうか?アルカナさんが先ほど面接で言っていましたが、この場は、お互いを評価する場であり一方的にこちらの意見を押し付ける場ではないのです。そのことを今回アルカナさんに教えてもらいました」


 「・・・」



 ハーロルト子爵は反論できない。下手なことを言えば髭のおっさんのようになるからである。



 「今日は楽しい面接でした。あとはハーロルトにお任せします」



 アーダルベルト伯爵は大広間から出て行った。


 





 

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