第5話 死か救済か?


 「ルティアちゃん落ち着いて、落ち着いて」


 「なぜ殺させてくれなかったの!アイツを屋敷に返すとオークの女の子が酷い目にあってしまうのよ」


 「ルティア、ロワルド男爵の右手足の負傷は、おそらくオーク族の硬化によってできたモノよ。右手の骨折が治るまでは問題ないわ」


 「そんなのわからないわ。それに、暴行されなくても辱めを受けているはずよ」


 「そうかもしれないけど、できるだけ穏便に事を済ませるのが私たちの役割よ」


 「それは、あなたの思想であって亜人連合の総意ではないわ」



 亜人連合とはモルカナが発足した亜人達の共同体である。10年前、エールデアース帝国領内にある森にオーク族が住む村が多数存在していた。強靭な肉体と体力を持つオークの男は肉体奴隷として、甘美で魅力的な体を持つオークの女は性奴隷として重宝されていた。エールデアース帝国にて、オーク族の完全奴隷化計画が立てられ、その責任者としてエールデアース帝国の4大公爵家の1人であり、3大将でもあるフリーデン・エリアス・レーチェル公爵が選任された。フリーデンの指示のもと10万の軍を率いてオーク狩りを行い、多くのオークが殺され生きのある者は奴隷として拉致された。エールデアース帝国対オーク族の争いに終止符を打ったのが、モルカナである。


 モルカナはゴブリンキングであり、デンメルンク王国のゴブリンキングの討伐で、ゴブリンの村を守る為に怪物王女シメーレの支配下になる。怪物王女とは昔の修行仲間であり、怪物王女の支配下になったのはデンメルンク王国を欺くための芝居であった。しかし、デンメルンク王国に連行されたモルカナは、ヒーリンを助けるために自害した。モルカナは自害したが、生命力がずば抜けているためにすぐに死ぬ事ができず、その後私に命を助けてもらう。私がエールデアース帝国に入国する旅路の護衛者としてついて行くが、真の目的は同じ亜人種であるオーク族を助けるためであった。


 モルカナは、私を無事にエールデアース帝国に届けると、すぐにオークキングであるシュヴァインと合流して、エールデアース帝国との戦いに参加した。しかし、圧倒的な兵力と『レア称号』持ちが数名いるエールデアース帝国との戦いは劣勢になり、モルカナは、同じ亜人種であるトロール族と鬼人族に同盟を持ちかけて亜人連合が成立した。トロール族・鬼人族は人口は少ないが、一人一人の戦力は『レア称号』持ちと同じくらいに強いので、エールデアース帝国はオークの奴隷化計画を断念せざる得なくなったのである。


 国よるオーク奴隷化計画は頓挫されたが、オークの女の魅力を知ってしまったフリーデン公爵は、自身の領主としての権限として、オークの奴隷化計画をおしすすめている。ロワルド男爵の元に連れてこられてオークは、フリーデン公爵の組織する『不滅の欲望』が誘拐したオークである。


 『亜人連合』はエールデアース帝国のオーク奴隷化計画撤退後も、同盟関係は維持されて、10年前に拉致されたオーク奴隷の救済と新たに奴隷にされないよう監視に努めている。『亜人連合』により、拉致されたとされるオークの3割は連れ戻されて、残りの7割は未だ奴隷として扱われているか死亡したと思われる。


 『亜人連合』では、オーク奴隷狩りに参加した者又は奴隷を購入した者は死を。オーク狩りに関与していない者、直接的に奴隷支配に関与していない者は殺さないと方針を決めている。なので、今回はロワルド男爵は奴隷を購入しているので殺す対象になる。


 しかし、ソルシエールは基本殺しは反対派である。どのような罪を犯した者にも救いの手を差し伸べるべきであり、憎悪による復讐は大きな復讐を生み出すので、絶対に殺さないで反省を促すような罰を与えるべきだと主張している。私たちは普段は治癒院で生計を立てる平凡な治癒師として生活をしているが、モルカナの要請があれば、奴隷を解放する手助けをしている。町の中で亜人種が堂々と動くことも進入することも難しいので、人間である私とソルシエールが奴隷解放の主軸であると言っても問題はない。モルカナはオークの森付近を警護して、『不滅の欲望』を撃退させるのが主な活動になっている。



 「憎しみからは何も生まれないわ。自分の犯した罪を償ってこそ本当の解決が待っているのよ」


 「そんなの嘘だわ。この10年間で現状は何も変わらないし、私たちが殺さず生かしておいた人間は、普段通りの生活をして亜人種を差別する態度は変わらないわ」


 「時間がかかるのよ時間が。私たちの活動がすぐに芽が咲くとは思っていないわ。でも、次の世代の人間達に少なからずの影響が出ると私は信じているの」


 「ルティアちゃん、ソルママの方針に従うって約束したわよね。もう言い争いはこの辺にして」



 私はルティアの意見かソルシエールの意見かどちらの意見が正しいのかわからない。しかし、6歳から10年間私の母のように優しく育ててくれたソルシエールの言葉を信じたい気持ちが勝るのであった。


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