第九話 完成まで後一歩

「ついにここまで来たか……」

「ごくり……」


 ずっと私の魔力を元に研究をしていたアルバート様は、私と一緒に地下に眠る妹さんの所に行くと、魔法陣を黒一色に変化させた。


「ここまでは順調だ。もう完成に近いと言ってもいい。だが、完成には足りない材料がある。それを集めきれば、妹を助ける術が揃う!」

「足りない素材?」

「強力な魔法を使う為に必要な魔力が、僕の分では不足していてね。だから、それを外部から補うってわけさ!」

「なるほど……ではその足りない材料を、早く集めましょう!」

「ああ。とりあえず何が必要か調べよう。フェリーチェ、手伝ってくれるかい?」

「もちろんです!」


 何の役にも立たないどころか、不幸しか呼ばなかった私の魔法が、アルバート様の長年の研究に役立ったと思うと、浮き足立ってしまうというか、落ち着かなかった。


「よし、さっそく調べよう!」

「はい!」


 一緒にアルバート様の部屋へと戻ってきた私は、沢山の本の中から魔力を補えるものが書かれている本を探す。


 ――しかし、人間を蘇らせる魔法を補える魔力を持ったものなど、中々見つからなかった。


「これだけ本があるのに、なかなか見つからないものですね……」

「全くだね。いつの間にかもう夜だ……フェリーチェは先に休んでいてくれていいからね」

「いえ、私も一緒に!」

「無理は良くないよ。先程から動きが鈍くなっているじゃないか!」

「うっ……」


 確かにずっと本を探していたせいで、頭がグルグルしているし、空腹でお腹も鳴りっぱなしだ。今日はもう休憩をした方が良さそうね。


「それならアルバート様も休みましょう」

「僕はもう少し探すから、気にしなくていいよ」

「駄目です。ちゃんと休んで明日に備えるんです。ほら、一緒に食堂に行きますよ」

「わ、わかったから! せめてこの一冊だけ!」

「そう言っておいて、あと十冊は読むつもりでしょう?」


 反論の余地を与えないまま、私はアルバート様を無理やり部屋から連れ出すと、そのまま食堂へと向かった。


 ……はぁ、もうちょっとなのに、それが果てしなく遠そうだ。どこかに良い情報があれば……そうだ、この国にある中で一番大きな図書館に行けば、なにかあるかもしれない。明日調べに行ってみましょう。



 ****



 翌日、私はお義母様にお願いして馬車を出してもらい、図書館のある城下町へとやってきた。


 相変わらず人通りが多くて、賑やかな場所だ。最後に来たのは闇魔法が使えるようになる前だから、結構長い間来てないわね。


「フェリーチェ様、到着いたしました。私は外でお待ちしてますので、のんびりとお過ごし下さいませ」

「ありがとう」


 連れて来てくれた使用人に感謝をしてから、私は図書館の中に入る。そこにはアルバート様の部屋にある本の数よりも、もっとたくさんの本があった。


 こんな中から探し出すなんて、いくら時間があっても足りないのは明白だ。司書の方に聞いた方が早いわね。


「あの、本を探してるんですけど」

「どのような本でしょうか?」

「なんて言えばいいのかしら……足りない魔力を補う方法が書かれた本を探してて」

「足りない魔力、でございますか。少々お待ちください」


 少し困った雰囲気を醸し出しながら、司書の方は奥の事務室へと入っていった。


 これだけの本がある中で、どうやって探すのかしら? 前世の世界ならパソコンとかで一発だろうけど、この世界にはコンピューター自体が無いし……。


「お待たせしました。あちらの奥にあるコーナーでしたら、目的の本があるでしょう」

「わかりました。ありがとうございます」


 私は言われた通りのコーナーに行くと、試しに一冊の本を手に取って中身を見る。しかし、そこには目的の内容は無かった。


 うん、最初から簡単に見つかるわけもないわよね。とにかく手当たり次第に探してみましょう。


「……これは駄目……これも……」


 周りの迷惑にならないくらいの小声でブツブツ言いながら、更に本を探したけど、結局お目当ての本は見つけられなかった。


 もしかして、外部から魔力を増強する術なんて無いんじゃ……いえ、私が弱気になってどうするの? アルバート様が長年かけて頑張ってきたんだから、私だって頑張らないと。



 ****


 図書館で本を探し始めてから、数ヶ月が経った。私は毎日図書館に通い、目的の本を求めて本棚を漁る生活を続けていた。


 その甲斐があってか、三冊だけだけど、それらしい内容の本を見つける事が出来た。


「その……どうですか?」


 見つけてきた本をアルバート様に見てもらっている間、私は固唾を飲んで見守っていると、アルバート様はとあるページを私に見せてくれた。


「これは……亀の絵ですね」

「そうだね。これはとある亀について紹介されているんだ! この亀はとても希少なもので、外部の魔力を餌として食べて、体に貯めて生きているそうだよ!」


 へえ、そんな不思議な亀がいるのね。全然知らなかったわ……。


「この亀は、普段は人の目に触れない場所にいて、見つける事は困難だ。しかし、数十年に一度、産卵の為に出てくる。その時に、蓄積させた魔力を放出させると書かれている!」

「じゃあ、その放出する魔力が使えれば!」

「長年溜め続けた魔力だから、かなり期待出来る! しかも、丁度産卵の時期が、今と被っているんだよ!」


 え、そんな偶然があるの!? この後に時期について聞こうと思っていたのに!


 ……いえ、偶然ではないかもしれないわ。妹さんの為に頑張っていたアルバート様に、神様からご褒美が来たんだ。きっとそうな違いない。


「アルバート様、のんびりしていたら産卵の時期を逃してしまうかもしれません! 早く捕まえに行きましょう!」

「フェリーチェも行くのかい?」

「はい! 足手まといかもしれませんが……家で待ってるのなんて出来ません。いつもお世話になっているお礼をさせてください!」


 少し身を乗り出しながら懇願すると、アルバート様は少し困った様に笑った。


「ありがとう。だが、今は少し落ち着こう。明日までに亀の居場所や生態を調べておく。それと、移動手段の馬車を用意するよ。君はそれまで休んでいてほしい!」

「え、でも……」

「ずっと図書館に篭りっぱなしで疲れているだろう?」


 それは否定出来ないけど、アルバート様だってずっと研究をしていたのだから、私以上に疲れているはずだ。


 でも、ここで押し問答をしていても仕方がない。ここは素直に頷くしかないだろう。


「わかりました。アルバート様もあまり無理はしないでくださいね」

「うん、ありがとう! さあ、部屋に戻ってゆっくりしておいで!」


 アルバート様はわざと明るく振る舞いながら、私を部屋の外へと押し出した。


 はぁ、さっきは素直に頷いたけど、本当は手伝いたかったわ……でも、仕方ないわね。言われた通り、今日はゆっくりと休んで、採取をしに行く日に備えましょう。

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