一粒の毒麦

 そうですね、皆明るい人達でした。毎日幸せそうに生きているなあと、僕は遠巻きに見ていたものです。もし、もっと近くにいたなら、今もそう思うだけだったでしょう。しかし、遠巻きに見ていたからこそ、気づくものもあったのです。


 そう、彼等の明るさは過剰だった。まるで必死に、明るい自分を繕って演じているようでした。そうしなければ、自分を保てないとでもいうかのように。


 ですから、僕のしたことというのは、一言「そこ、真っ暗ですね」と伝えるだけのことだったのです。たったそれだけの話なんですよ。そうしたら、彼等は暴走を始めた。そして、暴走と迷走を繰り返して、やがて自滅していった。噂では、死んだ方もいらっしゃったとか。


 僕のしたことはそんなにも悪いことなのでしょうか。率直な感想を伝えただけの話です。例えて言うなら、ちょっと細工した飲み物を置いておくような、ささやかなことじゃありませんか。しかも、入っているのは毒でもなんでもない。本当に明るく晴れやかな生活を送っているのであれば、僕の言葉なんて何ら害にならないものです。卑屈な人間のひがみだと笑い飛ばせるようなものです。


 皆は自分で毒を生み出して蝕まれていった。僕はきっかけを作ったに過ぎない。そうじゃありませんか?刑事さん。

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