9、戦闘終了!


【新暦2445年6月5日PM8:00】※現地時間



 海戦は連合艦隊の圧勝に終わった。


 最初こそ魔法が使えず予想外の被害を受けた。

 だけどその後、ルミナの機転により付与魔法が使えるようになった。

 すると敵との能力差が一気に縮まった。


 こうなると、もともと物理火力が圧倒的な連合艦隊が有利……。

 勝利するのは当然。


 敵艦隊は、わずか4キロの距離で攻撃を受けた。

 しかも主隊の戦艦群6隻による主砲射撃だ。

 そして文字通り粉々に粉砕された。


 その上で航空攻撃隊によるオーバーキルぎみの爆雷撃。

 さらには爆裂する機銃弾をもちいた銃撃まで食らわせた。


 だから……。

 もはや逃げるので精一杯だったみたい。


 敵飛竜隊は早々に撃ち落とされた。

 とくに効果があったのが【照準追尾】魔法の付与だ。


 この魔法により、電影照準器と機銃弾のあいだに魔法的なリンケージが発生した。発射された機銃弾が、一定範囲内で誘導できるようになったんだ。


 照準器内に表示されるクロスゲージに敵をとらえる。

 ただそれだけで当たる。

 簡単すぎて腰ぬかしそう。


 たとえ発射後に敵が身をかわしても無駄。

 半径5メートルほどの範囲なら機銃弾が敵を追尾してくれる。

 まさにチート技だねー。


 報告によれば……。

 彗星艦爆の操縦士複数が、【精密爆撃】のスキルを獲得したんだって。

 これは爆弾に限定的なピンポイント着弾能力を付与するものらしい。


 【精密爆撃】は、急降下爆撃の精度を飛躍的に高める。

 敵艦に爆弾が命中するどころの話じゃない。

 敵艦のどこに命中させるか、半径5メートル以内で指定できる。


 これは艦船に搭載されている砲弾や魚雷も似たようなもの。

 さすがに半径5メートルとまでは行かないけど、従来比で命中率が5倍以上になってる。

 結果的に、連合艦隊各艦の砲雷撃命中率が劇的に向上した。


 もちろん……。

 いまのところ直射でしか試していない。

 もしこれが遠距離をねらう曲射でも有効なら、完全に砲撃の革命だ。


 各艦の主砲弾には、炎系と雷系の付与魔法が加えられている。

 命中と同時に激しい火炎と雷が周囲を包みこむ。

 命中した敵艦だけでなく、周囲の艦まで巻きぞえにしてしまう。


 こんなものにねらわれたら、まず生き残れない。


 でもって、これは帰港後のことなんだけど……。

 補給部隊に所属する輸送艦の乗員の中に、なんと【補給召喚】の大魔法を獲得した者がでた。


 これは個人の魔力量では行使できない大規模な範囲魔法だ。

 なので、他の輸送艦員や人族連合の将兵から魔力をもらって行使する。


 補給召喚魔法は、


 すでに存在する物資は、【複製】スキルで増やすことができる。

 だけど【複製】スキルは、手元にない装備や弾薬/物資はコピーできない。

 この難問を一気に解決したのが、【補給召喚】のスーパーチート能力なのだ。


 山本五十六長官がもっとも危惧していたのが弾薬の補給だった。

 この世界で銃砲弾を再生産するには、長い年月と何度もの技術革新が必要になる。


 これは石油系の燃料もそう。

 連合艦隊といえども、産業レベルでの生産知識は持ち合わせていない。


 つまり当面は、射てば射つほど手持ちの弾薬が減っていく。

 出撃するごとに燃料がなくなっていく。

 いずれは補給部隊にある予備の弾薬や燃料も尽きてしまう。


 これ、本気でヤバい!

 物資がなけりゃ、天下の連合艦隊も海に浮かぶタダの鉄箱。

 すべてを失ったら戦うことさえできない……。


 その後は人族連合軍と同程度の戦闘しかできなくなる。

 だけどそれじゃ、勇者召喚された意味がない。


 【補給召喚】と【複製】は、これらの難問を一挙に解決できるんだ。


 ただし【補給召喚】にも欠点がある。

 現在のレベルじゃ質量的に限界があるらしい。


 試したところ、いくら魔力を集めても1000トン以下の海防艦クラスしか召喚できなかったんだって。


 艦隊に不可欠な駆逐艦すら手に入らない。

 だから駆逐艦以上の艦を失えば、そのまま連合艦隊の衰退につながる。

 これは10年サバイバルを強要されてる身にはつらすぎる。


 当面は用心深く戦うしかない。

 そして【補給召喚】のレベルが上がって、排水量の大きな艦を召喚できる可能性に賭ける。


 そうでなければ【複製】のレベルが上がり、既存の駆逐艦をコピーできるようになるか……どっちにしろ、かなりの経験値が必要だ。


 半面、航空機や戦車なんかの小型の物体なら、一定サイズもしくは一定重量以下なら、現在のレベルでも召喚が可能なことがわかった。


 しかもどういった作用なのか……。

 らしい。


 これには証拠がある。

 まだ地球世界じゃ実戦配備されてないはずの零戦22型(32型の機体復古機)と天山艦攻まで、なんと召喚に成功したんだって。


 しかも複数回の試行により、こちらで年月が過ぎれば、地球世界からの召喚年月も先に伸びたらしい(召喚可能なものは名前がパネルにリストアップされるから、たとえ未知の装備でも召喚できる)。


 つまり今後も継続的に、地球世界で新規開発された軍備が手に入る……。


 さらに言えば、というから驚く。


 ダメ元で行なってみたら、ドイツ空軍の液冷航空機エンジンが手にはいった。

 いま同じ液冷エンジンの彗星艦爆に搭載できないか、整備陣が悪戦苦闘してるみたい。

 これが成功したら、すごいパワーアップなんだけどな。


 将来的には、なんでも召喚可能かもしれない……。

 もちろん、ほぼ同時期の地球に存在するものって制限はある。

 それでも異世界にいる連合艦隊にとっては大事件だった。


 当然、陸軍機も召喚可能。

 こっちの世界でも陸上航空基地の設営が予定されている。


 リーン諸島のシムワッカ湾には、九州の3分の1くらいの大きさのルード島がある。

 そこに陸海軍の航空基地と補給基地、さらには将来的にドライドックや大型船台を建築する。


 でもって航空基地に陸軍1式戦闘機【はやぶさⅡ型甲】や3式戦闘機【飛燕ひえん】、100式重爆【呑龍どんりゅう】なんかを配備するらしい。


 戦車や大型の陸上砲なんかも、すでにいくつか召喚されてる。

 とくに陸軍や陸戦隊に喜ばれたのがだ。


 4号戦車F2型は1942年3月に生産開始された最新型なんだけど、なんと召喚に成功してる。


 主砲は75ミリ43口径。

 帝国陸軍が持ってきた97式中戦車は57ミリ18・4口径砲。

 こりゃ比較にならんくらいドイツの勝ち。


 最大装甲に至っては4号戦車が80ミリなのに対し、97式は25ミリしかない。


 もっとも……日本の戦車はジャングル戦とかに特化したもの。

 97式中戦車も、場所によっては使いみちもある。


 すべては軍事ドクトリン(用兵思想)次第ってわけ。

 つまり比べるほうが無茶なんだよね。


 4号戦車が召喚できたので、リーン諸島の防衛力が格段に向上した。

 いずれは平原の多い国でも活躍することだろう。


 かくして……。

 連合艦隊は、魔法とスキルの力で継戦能力を手に入れた。

 ようやく計画だった作戦運用が可能になったのだ。

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