第20話 クラン設立に必要なこと

 クラン設立にあたって一番厄介なのは、言うまでもなく本拠地クランハウスである。クランハウスは賃貸不可で、クラン長リーダー、または副長名義の建物、またはその一室である必要があるのだという。また、建物の大きさや広さには、特に規定がないらしい。


 もちろん誰もこの地に土地なんて持っていないので、これから購入する必要がある。建物付きの土地を買うにはそれなりのお金が必要だし、手続きやらにも日が必要になるので、僕達の最優先事項はクランハウスを確保することになる。


 ……なんか、旅が始まってからお金集めてばっかりな気がする。


 まあそれはいいとして。


 ここで、僕達4人は2チームに分かれて行動することになった。僕、セイ、エルさんの3人チームと、ネオだ。

 というのも、僕のスキルの影響でセイとエルさんは僕から遠くは離れられないので(どのくらいの距離まで大丈夫なのかはわかっていない)、僕達3人でギルドの依頼をこなしてお金を稼ぎ、ネオが物件の候補を見繕うという分担になったのだ。


 僕が足手まといになるのが目に見えてる。結局、今回も『雑用係』か……。


 そんな僕の考えを察したのか、ネオに『クラン名を決める』という大役を任された。ちなみに、その場で提案した『復讐のクランリベンジャーズ』と『死者のクランアンデッド』は却下された。


 良いと思ったんだけど……。


 クラン印エンブレムは、デザインを生業にしている人がいるらしく、ネオが調べてくれるらしい。


 制服ユニフォームについては、僕が案を出した。


 4人で行動していると、どうしても僕達は目立つ。もちろん目立つのは僕ではなく、フードを深く被った不審者味のある2人と、超イケメンのネオだ。


 でも僕達は目立っちゃいけない。ここにだって、セイやエルさんの知り合いがいる可能性もあるし、もし死者が動き回ってるなんてことが知れたら大変なことになる。


 仮にディノ・スチュワートにバレたら、一環の終わりだ。100%狙われる。


 そこで思い立った。

 クランの制服として顔を隠せば、悪目立ちはしないし、堂々と正体を隠せるのでは、と。

 そういうわけで、顔を隠せるような制服ユニフォームを提案した。これに関しても、ネオが業者を調べて相談してくれるという。


 ネオの仕事量が多くて心配だが、エルさんが「こういう仕事はあいつの得意分野だ」と言っていたので、甘えることにした。



 翌日。早速2チームに分かれて、僕達はお金を稼ぐためにギルドに来たのだが……。


「少ないですね……」


 明らかに掲示板に貼られている依頼の数が少なかった。


「この地はクランが優勢だからな」


 ……そういえば、ネオがそんなことを言っていた気がする。強力なクランのある地は、依頼がクランに流れるんだっけ。


 世界中で展開されているギルドの信頼度は高いので、依頼者は多少手数料をとられてもギルドを頼る。でも、『勝者のクランウィナー』は世界ランク1位。このランキングは純粋に1年間のクランの収益額に依存する。つまり『勝者のクランウィナー』は世界で1番稼いでいるクランということだ。なんならギルドよりも信頼できる。


「『勝者のクランウィナー』が依頼を独占してるって事ですか?」


「いや、そういうわけでもないらしい」


 エルさんの説明によるとこうだった。


 『勝者のクランウィナー』はいわば高級路線。

 報酬額が高い依頼しか請け負わないらしい。依頼達成率はほぼ100%で、余計な依頼を請け負わない分、迅速。世界ランク1位という裏打ちされた信頼もある。よって、貴族などお金のある人はこぞって『勝者のクランウィナー』に頼るのだという。

 こういうわけで、『勝者のクランウィナー』はベリージェの上層部とずぶずぶに繋がっていて、市井では国を裏で操っているという噂もあるらしい。


 『勝者のクランウィナー』という巨大クランがあるこの国では、クランに対しての印象が良い。また、次なる『勝者のクランウィナー』を目指して、クランを設立する人も多い。

 クランは仲介料がいらない分、ギルドに依頼するよりも安く済むことが多い。また、『勝者のクランウィナー』があるこの地へ、お金を稼ぎに来る強い冒険者もなかなかいないのだという。


 そういう様々な背景があり、このベリージェという国では『勝者のクランウィナー』に回らなかった依頼の多くは、ギルドではなく他のクランに回っているのだという。


「白星ばっかりですね。しかも、1つ☆☆2つ……」


 掲示板に張り出されているのは、簡単で緊急性の低い依頼ばかりだ。もちろん報酬も低い。

 これじゃ、いくら依頼をこなしたってお金貯まらない……。


「他に何か方法を探した方がいいかもしれないな」


 エルさんの言葉に首を縦に振る。


 とは言っても、他に方法なんて……。



「お願いします! どうしても必要なんです!」


 考えをめぐらせていると、後ろの方から何やら必死そうな声が聞こえてきた。

 壮年の男性が受付で何かを頼み込んでいるようだ。


「もちろん掲載は可能ですが、その報酬額では基準を大幅に下回っていまして。掲載したとしても、なかなか受注されないと思います。加えて、その難易度の依頼を請け負えるほどの実力者も……」


「それでもいいんです!」


「ですが、依頼の報酬額は先払いになっていまして、返金も一定期間をすぎないとできません。緊急性の高い依頼なのでしたら、クランに依頼すべきです。こちらでお預かりしても、高確率でこちらが手数料のみ受け取る形になってしまいます」


「でも、クランにも断られてるんです。もうここしか……」


 男性は引き下がる気はないようで、受付のお姉さんは困ったような表情を崩さない。


「エルさん?」


 隣のエルさんが、すっと動き出した。受付に向かっている。


「その話、少し聞かせてもらってもいいか」


 長身のエルさんに声をかけられた男性は、呆気にとられたように少し間を開けた後、頷いた。

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