29話 自業自得


「ほい!アジサカナの煮付けお待ち!」


「シャリサカナ3人前お待たせにゃ!」


忙しいのに変わりはないが、仕事事態はひたすら運ぶだけだからまだ楽だ。


普段なら何かと死ぬ事と結びつけてたが、今回は流石に無理だ。なら普通に働くだけだし、繋がらないと言って手を抜くことはしないさ。


ただ…うん。


「イ、イチホシサカナの姿焼き…で…す…」


うわ、めっちゃ恥ずかしそう。いくらやる気になっても羞恥心とは別だからなぁ。


「ヒュー!お姉さん可愛いねえ!ほら!一緒に食べないか?」


「だ、ダメです!仕事中ですから!」


「そんな事言わずにさ!サボってもバレないって!」


…流石に可哀想だな。


よし、ここは俺がガツンと一言…


言おうとした瞬間、セクハラしてたおっさんの頭に踵が落ちてきた。


どうやら俺に声をかけてきた人、店長がやったらしい。


「大変失礼しますお客様。今みたいに店員に迷惑をかける不届きものはこの様に叩き潰させて頂きます。ではごゆっくり…」


気絶したおっさんを店の外に放り出すと、何事も無かったかの様に仕事に戻って行った。


「あ、あの、ありがとうございます…」


「無茶言ったからさ、これくらいはやるよ」


思ったより安全っぽいな。


「ヤマー!こっち手伝ってにゃー!」


「分かった!すぐ行く!」


俺も頑張らんと!






どうやらピークは越えたらしく、少し客数も減ってきた。


それでも客はまだまだ来るし、休めないけどな。


「旬の野菜とシロサカナのパスタです」


「ああ、ありがとう。…君見ない顔だね。新入りかい?」


話しかけて来たのは座ってても分かる程の高身長女性。


顔もかなり整っていて、『イケメン女子』と言う言葉がピッタリだ。


「あ、はい。今日だけ店長に頼まれたんです」


「へぇ…なら僕は幸運だね。こんな可愛い子犬君に出会えたんだから。どうだい?この後時間があれば僕とデートでもしないか?」


え、もしかして…ナンパされてる?俺が!?


されるとしても普通ヴィラかネネだろ!?


「はいはい!今は仕事中なのでそう言うのは止めて下さいね!」


そう言うと俺と女性の間にヴィラが割り込んできた。


「おっと、ここは退くに限るかな。じゃあ仕事頑張れ、子犬君」


いや、今回は本当に助かりました。ナンパとかされたこと無いからどう対応すれば良いのやら…


「それとそこの卑猥な子」


「誰が卑猥ですか!!」


「胸の衣装が落ちそうだよ。そういうサービスでもしてるのかい?」


「…!?!?!?!?」


ヴィラは猛ダッシュで奥に戻って行った。


…俺は見てないからな!







「にゃー!がっぽり儲かったにゃ!」


あの後無事にヘルプが到着し、俺達の業務は終了だ。


約束通りバイト代を貰い、次回無料になる券もしっかり貰った。


「接客業も悪くないな」


「私は二度とやりたくないです…」


まあ今度はちゃんとした制服を出してくれる店にしような。


さて、暗くなるにはまだ早いし、3人でどこか旨いものでも食べて…


「やあ、バイトは終わったかい?」


「あれ?さっき店に居た…」


俺をナンパしに来てた女性がまさかの店の前で待ち伏せしていた。


「君が終わるのを待ってたんだ。さ、エスコートはするから一緒にどうだい?」


そう言いながら俺に手を伸ばしてきたが、それはヴィラによって弾かれた。


「…なんのつもりか知りませんが、そう言うのは間に合ってます」


「僕は結構貪欲でね、手に入れたいモノは奪ってでも手に入れたいんだ。…おっと、自己紹介がまだだったね。僕はノアだ」


ノアは俺の事をじっと見つめている。


するとふと思い出したかの様に口を開いた。


「あぁ、君達は帰って良いよ。女には別に興味無いしね」


「そう言われて退くと思いますか?」


「流石にネネも見過ごせないにゃ」


ヴィラとネネは盾になるようして俺の前に出た。


「…ふぅん。君達、ただの同僚って訳じゃなさそうだね」


ちょっと不機嫌そうな感じだが、その目は二人をしっかり見ている。


まるでどんな人物なのかを分析してる様だ。


「君達がナイトなら僕はそれを奪う盗賊って所かな?全く、悪者になったつもりはないんだけどね」


やれやれと言った表情で言葉を続けた。


「でもさ、時には盗賊が全てを奪い去ってく展開も面白いと思わないかい?」


「そんなの要りません!王道が一番です!」


くそ…しつこいな…


俺の何がそんなに良いんだよ。


「(ヤマ、ヴィラが時間を稼いでる間に逃げるにゃ)」


ネネが耳元でボソボソと話しかけてきた。そうだよな、こんな奴は関わらないのが一番だ。


そーっと…


「おっと、逃がさないよ」


「にゃ!?」


「え!?いつの間に!?」


一瞬で俺の目の前に…!ワープか何かか!?


こいつ、ただのナンパ女じゃないぞ!


「安心してくれ。別に害を与えるつもりも喧嘩をするつもりもない。ただ、君が欲しいだけだ」


ノアは俺を手を優しく手に取った。


「…俺はノアに着いてくつもりは無い!迷惑だからやめてくれ!」


だが俺はそれを振り払った。何か怖いし面倒だし、本当に好いてたとしても御免だ。


「…フラれた?この…僕が…?」


ノアは小声で何かをブツブツ言い始めた。


「…離れて下さい!様子が変です!」


「違う…フラれるなんてあり得ない…!なら力ずくでも…!」


するとノアは手をポキポキと鳴らし始めた。


「…こう見えて僕は強いんだ。すまないが少し手荒にさせて貰うよ」


「そんな事させません!ヤマさんは私が守ります!」


「ヤマは隙を見付けて逃げるにゃ!」


二人とも剣と拳を構えて臨戦態勢を整えた。


来るぞ…!





「ん?ノアか?何してるんだ?」


ノアが動こうとした瞬間、後ろから男の声が聞こえてきた。


「デ、デイブ君。いや、ちょっとした言い争いでね。些細な事さ」


知り合いか?それとも彼氏か?


「おーノアじゃん。こんなところで…って、誰だお前」


今度は左から、また男の声が聞こえてきた。


「俺はノアの彼氏だが?」


「はぁ?彼氏は俺だぞ?」


「あ?」


「ん?」


…何だこれ?様子が変だぞ?


「あー!ノアちゃん!何してるの?」


「ほう、ノア殿。奇遇だな」


更に二人追加、ちなみにこの二人も自分を彼氏と言い張ってる。


「何だ…?」


「修羅場にゃ」


「修羅場ですね」





「何が『僕には君しか居ない』だよ!他にも彼氏居るじゃねぇか!!」


「お、落ち着いてくれ。本命は君だから…」


「はぁ!?じゃあ俺はなんだよ!キープでもしてるつもりか!?」


「あ、い、いや、そう言う意味じゃ…」


「初めての彼氏じゃ無かったの…?信じてたのに…!」


「ご、ごめんよ!君が最初なのは本当で…」


「…男が怖いのは嘘だったか。見損なったぞ…」


「あぅ、違…!」





おい…何股してたんだよ…


ヴィラもネネもドン引きしてるぞ…


「デイブ君…君なら…」


「触るなクズが」


「シ、シトラル君…君との日々は…」


「失せろ」


「あ、…コト君、これからはずっと…」


「最低だよ…もう信じられない!」


「シノブ君…」


「貴様にもう興味は無い」





見事、全員にフラれました☆


「そんな…私…一人…?また…?ぼっちに戻るの…?う…うわあああああ!!!!」


ノアは急に豹変し、俺のズボンに大泣きしながらしがみついた。


「お願いだよおお!私を見捨てないでええ!もう一人ぼっちは嫌だあああ!」


どうやら一人ぼっちが嫌でイケメンの皮を被って逆ハーレムを作ってたらしい。


だが化けの皮が剥がれた今、着いてく人は誰も居ないだろう。


無論、俺も。


「ごめんなさい」


「あぁ…ぁ…」


ノアはへなへなと力なく座り込んでしまった。


最早イケメン女子の影も形も無い。


「自業自得にゃ」


「因果応報ですね」


二人はどことなく嬉しそうにしていた。


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