第14話 答え合わせ

「後は任せたぞ…」


そう言うとヤマさんは再び倒れてしまいました。


出血が酷い…!これでは傷薬を使っても焼け石に水です!


もう時間がありません!


「ネネさん!まだ動けますか…!」


「ネネは大丈夫だにゃ!」


「私がヤマさんを担ぎますので、エミリーを連れてってくれませんか!引き摺っても構いません!」


「分かったにゃ!」


残りの力を振り絞り、私はヤマさんを担ぎ、ネネさんはエミリーを雑に担ぎ上げました。


急いで治療をしなければ!






「ここは…」


確か俺は…エミリーに切られてから縛られて…鞘で殴って…


「はっ!」


ベッドの上…?切られた傷も完治してるし…


実はあの後、一死してたり…


…駄目ですね、はい。


「目覚めたんですね!良かったです…!本当に良かったです!」


「無茶しすぎだにゃー!」


部屋に居たヴィラとネネは俺に左右から抱き付いて来た。


「なあ、俺、大怪我してたよな?何で治って…」


「それはですね…」


そう言った瞬間、ドアが勢いよく開いた。


「私がやりましたわ~っっ!!!」


「にゃあ!?!?」


「コーデリアさん…もう少し静かに…」


白を基調にした、いかにも回復魔法が得意そうな見た目をしてるのに、それとはあまりにもかけ離れた豪快な性格だ。


「あらあらぁ?殿方とご婦人二人となれば私はお邪魔者でしたわねっ!!ではご機嫌麗しゅう~っっ!!」


そのままドアを勢いよく閉めて帰って行った。


何だったんだ…


「嵐の様な人だにゃ」


「腕は確かなのですが、少々騒いでしまうのが玉に瑕でして…」


コンコン


ん?今度は誰だ?


「失礼するぞ」


この人確か…


「コ、コロン団長!」


「偉い人なのかにゃ?」


「らしいよ」


やっぱりオーラって言うのかな。全然違うや。


「とりあえずコーデリアに治療はさせたが、全員怪我は大丈夫か?」


「ばっちしにゃ!」


俺も完治だな。…これがスキルで治ったのなら完璧だったけど。


「なら良かった。まあ、色々言いたい事や聞きたい事はあるだろう。だがその前に」


そう言うと、コロン団長は深く頭を下げた。


「すまなかった」


「そ、そんな!コロン団長が頭を下げる事など…」


「いや、ヴィラ達が大怪我したのも、マリアが殺されたのも、エミリーを早々に捕まえなかった俺の責任だ」


原因と言われれば間違ってないけど、別に団長さんだけが悪いとは言えないし…


悪いのは全面的にエミリーだからな。


「別に良いにゃ。それより、とにかく聞きたい事が山ほどあるにゃ。聞いてくれるかにゃ?」


「分かった。答えられる範囲であれば何でも聞こう」


こういう時、ネネの性格は本当に頼りになるな…


じゃあ早速…


「そもそも俺らギルドすら良く知らないんですが、何なんですか?」


「まずはそこからか…別に難しく考える必要は無い。一種の職場と見れば分かりやすいだろ」


そう言う立ち位置だったのか。


もっと権力があるのかと思ったけど、案外そうでは無いのね。


「てことはコロンがトップで他は部下って事かにゃ?」


「その認識で構わない」


「普段は周辺の巡回や小悪党の逮捕、後は有事の際に優先して駆り出されるのがギルドの主な仕事ですね」




今度は思い出したかの様にヴィラが聞き始めた。


「あ…そういえば先程なんですが…急に耳鳴りがしたかと思えば、断片的にエミリーの声が聞こえたんです。何か心当たりはありますか?」


「声だけなら、それは聴覚強化だな」


聞いたこと無いな。少なくとも俺の成長阻害よりかは有能そうだが…


「それ凄いのかにゃ?」


「まあまあ、と言った所か。目眩ましが効かなくなり、人探しがしやすくなるな。…その反面、それほど精度は良くない。雑に言えば耳が良いだけだからな」


成る程ねぇ…


「つまり中途半端って事かにゃ」


「言い方ァ!!」




次はネネだ。


「因みにエミリーはどうなったんだにゃ?」


「今は地下牢だ。近い内に死刑か終身刑のどちらかになるだろう」


死刑は分かるが終身刑…?


「あんな事したのに死刑にはならないかもしれないんですか?」


「囮や人体実験に使うからな。結局は死刑みたいな物だ」


あ、違う。こっちの方が酷いわ。





「ヴィラ」


「は、はい」


「直にマリアが埋葬される。最期は見てやってやれ」


「…!少し失礼します…」


そっか…


マリアさんも亡くなって…


「マリアさんってどんな人だったんですか?」


「一言で言えば天才だ。剣も魔法も筋が良く、デスクワークも得意。後はヴィラによく懐いてたな」


後輩って言ってたし、可愛がってたのかな?


あの世話好きそうな荷物もヴィラに似たのかも。


「でもそんな凄いなら、エミリーにそんなあっさりやられるとは思えないにゃ」


「あいつは優しすぎる。敵であろうと気遣うから、そこを突かれたんだろうな」


「…優しすぎるのも考えものにゃね」


すると再びドアがらノックされた。


「だんちょー!そろそろ夕食のお時間ですわん!」


すると黒と白を中心としたフリフリの服を着た、ネネとは違う耳と尻尾を持つ女の子が入ってきた。


「分かった、直ぐ行く。君達の分もある。食べてくと良い」


「お腹空いたにゃ~!」


するとネネの存在に気が付いたのか、目を輝かせながらネネに声をかけた。


「あ、あー!猫獣人だわん!本物だわん!」


「げっ…犬獣人…」


「こんな所で会えるなんて感動だわん!色々お話聞かせて欲しいわん!」


「にゃあー!!引っ張るにゃあー!!これだから犬は嫌いだにゃー!!」


ネネはフリフリ服の犬獣人に強引に連れてかれた。


「どゆ事…?」


「犬獣人は基本的に猫獣人を尊敬してる節がある。逆に猫獣人は、そんな態度に鬱陶しく感じてるそうだ」


…まあ、対立してないなら良いのか…?


「それともう一つ、ギルドのトップとしての意見でもあるが、それ以上にこれは俺個人としてのお願いだ」


「な、何ですか?」


「…ヴィラを連れてってやってくれないか?」


…何故?


「あいつを…?」


「俺やドルガー…あいつの先生の下では一切出なかった聴覚強化を直ぐに開花させた。恐らくこれからもどんどん伸びる筈だ」


一息入れて、言葉を続けた。


「それにヤマ君達と絡む様になってからあいつは良い表情をしている。本当に楽しそうなんだ」


「ですが…ヴィラはギルドの人ですよね?そんな簡単に抜けても…」


「一人が死んで、もう一人は殺人鬼。後処理とか多くて、どうせ暫くはまとも動けん。ならこの機会にあいつには色々経験して来て欲しい」


コロン団長は再度頭を下げた。


「伸びる見込みのある人材をアユルだけに縛り付けるのは勿体無い。どうか引き受けてはくれないか」


…まあ確かに危なっかしいから連れてくのは悪くないけど、俺がますます死ににくくなるんだよなぁ。


それもあるが、まだ本人に意見を聞いてない。


「断る!」


「あいつでは不服とでも言いたいのか…」


こ、こええよ!ギルドリーダーってこんなにおっかないのかよ!


とにかく上手く話さないと…


「ヴィラの意志で行きたいと言わなければ無理です。無理矢理連れてくことは俺には出来ませんから」


「あいつの口から言えと言うことか。まあ筋は通ってるな」


ほっ…納得はしてくれた。


「ならば今夜、話す時間を設けよう。そこでサシで話すと良い」


「はい…」


逃げ場なし…俺がやるしかないのね…





さて、ネネは犬獣人に捕まってるから本当に一対一だ。


そろそろ来る筈…


「こ、今晩は…お待ちしましたか?」


「いや、今来た所だ」


声の方を見ると、少しだけラフな格好をしたヴィラがやって来た。


「単刀直入に聞くよ。ヴィラはこれからどうしたい?」


「そう…ですね…もしワガママが許されるのなら…またヤマさん達と一緒に…」


…やっぱりだ。責任感の強さからか、意志を殺して着いてこうとしている。


それなら俺は断る他無い。


「もし俺やネネの償いや恩返しの為と言うなら止めてくれ。俺らはそんなの気にしてな…「違います!」」


「罪の償いでは無くて、私は貴方と一緒に居たいんです…!色々な所を見てみたい!色々な事を学びたい!だから…私も同行してもよろしい…ですか?」


ああ…全く…断れねえじゃんか。


モンスターによる死はほぼ絶望的になったが仕方ない。また方法は探そう。


「いつ終わる旅か分からんぞ」


「承知の上です!最後までお供します!」


「なら…よろしくな」


ヴィラが仲間になった!




次の日


「結論は出たか」


「はい。申し訳ないですが、暫くヤマさんのお供をさせて頂きます!」


『いつの間に仲間になったのかにゃ?』


『昨日ちょっとな』


ネネはあれからずっと捕まってたらしく、目の下には少し隈が出来ていた。


御愁傷様です…


「そうか…宿題も忘れるなよ。俺らは待ってるからな」


「はい!」


「宿題って何の事にゃ?」


「それは内緒ですっ」






『二人を怪我させた分、マリアを殺した分、そして…俺を…分…!』


言えねえよなぁ…


まさかあの時…


『そして…俺を殺さなかった分!』


と言ってたとはなぁ…


ま、これは墓場まで持ってきますか。

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