第5話 守るって何だろう

「……ん、ぅ……あ、れ……?私…」


確かオークと戦って…気を失って…それで…


「っ!ヤマさん!無事ですか…あれ…ここギルドの治療室…?」


気絶してから記憶が無い。多分ヤマさんが連れてきてくれたんだと思います。


「んん…おぉ、目が覚めたか」


「私…どうしてここに…」


「あそこから背負って来た。で、アユルに着いたら偶然ヴィラを知ってる人が居てな。ここまで連れてって貰ったんだ」


そうだったんですか…


ヤマさんにはカッコ悪い所見せちゃいましたね…


でもくよくよしてられません!今度こそ、ヤマさんの手を煩わせる事無く、守ってみせます!


「ヤマさん!私…守れる様に、もっと強くなります!もう失態は見せません!だから、また私と一緒に…」


だからこそ…


「ヴィラ、あんたとはここでお別れだ」


「え…?」


この言葉の意味が分からなかった。


「な、何でですか!やっぱり私じゃ頼りなかったですか!?」


「言ってなかったけどな、俺は強くなる為にここに来たんだ!守られるだけの生活なんて俺は望んでない!」


「ひぅっ…」


あまりの迫力に私は怯んでしまいました…


「助けてくれた事には感謝してる。…だからこそ、もうヴィラにこんな目にあって欲しくない」


「そん…な…私は…そんな…こと…」


「今まで、楽しかった。またどこかでな」


「あ…」


ヤマさんは部屋から出ていってしまいました…






「あはは…見捨てられちゃった…」


私はヤマさんの事を思いだしながらポツリと呟きました。


トドメを刺したのは私だけど、吹き飛ばされてから起き上がるまでの時間稼ぎをしてくれたのはヤマさんです。


守るって言ったのに、結局守られちゃって…


おまけに気絶した私をここまで連れてきてくれて…


更にはヤマさんの気持ちを何も分かってなかった…


こんなの愛想尽かされて当然ですよね…


何してんだろ…私…






…強くならなきゃ!


もっと強くなって、故郷の皆も、ヤマさんも!みんな守れる様にならないと!


もう誰も失わないように…


私が…みんなを守らないと…!




「随分と守る事に固執してるみたいだな」


振り向くと、私に剣術を教えてくれた大柄の男性、ドルガー教官が来ていました。


「ドルガー教官…」


「あの小僧が心配か?」


「…はい。ヤマさんは故郷のみんなにそっくりでした。だから何と言われても見捨てる事は出来ません。私がやらないと…やらないとダメ何です!」


みんなの…故郷のみんなのあんな顔はもう見たくないの…!


多くを失って、居なくなって…あんな事はもう繰り返したくない!


だからこそ、死にたがる節があるヤマさんは絶対に救いたいんです!


私が頑張らないと…!ダメなんです!


「気持ちは分かった…だから聞かせてくれ。ヴィラにとっての守るって何だ?」


「それは…誰も傷付ける事なく、身を呈して襲ってきた敵を倒すことです!」


だから強くならないと…弱いと何一つ守れないの…!


「不合格だ」


「え…?」


何が違うの…?


「じゃあもしもだ。ヴィラでは全く歯が立たない、俺でも勝てないモンスターが出たら、どう守る?」


「それは…私が例え死んでも時間稼ぎをして、その間に逃がします!」


私はどうなっても良いんです!みんなを守れればそれで…!


「そこだよ」


「へ?」


「守るって言うならな、自分の事もちゃんと守らんと駄目だ。自らが犠牲になって…何てのは絶対やってはいけない。何故だか分かるな?」


私が居なくなったら…?もしかして…


「…残された人が悲しむから、ですか?」


「何だ、分かってるじゃねえか。小僧だけじゃねえ。故郷の皆も悲しませるつもりか?」


そう言えばヤマさんも…


『助けてくれた事には感謝してる。…だからこそ、もうヴィラにこんな目にあって欲しくない』


故郷の皆も…


『ここは暫く任せてくれ。いつか、必ず帰って来い』


『お姉ちゃん!絶対帰って来てね!』


『強くなった姿、楽しみにしてるぞ』


ずーっと言われてたじゃん…


あはは…私ったら本当に何も分かってなかったんですね…


「あいつはな、泣きながら叫んでたんだ。『怪我人だ!誰か助けてくれ!誰か!』ってな。…また、同じ事を繰り返すつもりか?」


「じゃあ私…どうしたら…」


こんな弱っちくて頼りない。その上全然人の気持ちを分からない。こんな私に何が出来るの…?


分かんない…分かんないよぉ…


葛藤していると、ドアがノックされた。


…誰だろう?


「失礼する」


「え!?こ、コロン団長!?」


入ってきたのは私の所属ギルドの団長。コロンさんでした。


団長がどうしてここに…?


「おーおー、団長じゃねえか。こいつの見舞いか?」


「それもあるが、ヴィラに話があってな」


コロン団長は左手に持ってた果物をテーブルに置くと、私の方を向いた。


「ヴィラ」


「は、はい!」


「過程はどうであれ、お前の判断ミスで一般市民を必要ない危険に晒した。俺でもこれは看過出来ん」


「はい…」


「よって今回の処分を言い渡す」


そうだよね…結局はヤマさんに凄い迷惑かけちゃったし…


はは…明日から私、無職かな…


「今の答えを見付けるまで、ギルドへの出入りを禁ずる」


「…!」


「ほぉ…」


え、え?クビじゃないの…?どういう意味…?


ドルガー教官は妙に納得した表情をしてますし…


「今のお前では遅かれ早かれ潰れるだろう。一度己を見直して来い。…それと、これは俺個人の言葉だ」


「はい…?」


「必ず戻って来い。席はずっと空けとくからな」


「…はい!ありがとうございます!」


「行くぞ、ドルガー」


「へーへー。じゃ、頑張んな!」


「はい!」


その言葉を最後に二人は出ていきました。




「…よし!」


私は涙を拭った。


チャンスもアドバイスも貰った…!


いっぱい泣いた、弱音も吐いた!


もう、無理な突撃もしません…!


自己犠牲も止めます!


だから…


「ヤマさん…」


また、私と一緒に居てくれますか…?










***




「団長様も素直じゃねぇな」


「何の話だ…」


「元々処分は無かっただろ?」


「…若い芽を育てるのも俺の務めだ」




***








一方その頃のヤマは…


一人でアユルをぶらついていた。


さてと、ヴィラとはなるべく後腐れないように別れたから、今度こそ致したいが…


結局、刃物と金の問題は何一つ解決してねぇんだよな。


しかも今回の一件で森の警備が強化されたから、もうあの森での成果は期待は出来ないだろう。


それにまだ街の地理も把握できてないし、やることは山積みだ。


とりあえず死にスポットを探しながら、街中の探索でも…


「あっあの!先日助けてくれた方ですよね!」


こりゃーまだまだ受難は続きそうだな…

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