第5話 イケメンイタリア人が絶望のどん底に叩き落としてくる

 さてどうするか。

 この状況、ぼーっと待っていても誰かが助けてくれるわけではない。すでに夜も遅いし、とりあえず旅行代理店に緊急で連絡をすることにした。


「航空会社が対応すべきところ、人がいないのでどうしたらいいかわからない。ツアー客が途方に暮れているので旅行代理店の人に来てほしい」

 そんな旨を連絡し、折り返しの連絡を待つ。


 十分ほどで電話が鳴る。状況としては、

 ・旅行代理店で本日宿泊してもらうホテルを確保した(この時点でまだ場所は不明)

 ・成田行き飛行機は明朝、チェックインカウンターに来てもらって説明


 とのことだった(父の日記より引用)。


 とりあえず他のツアー客に状況を説明する。

 ちなみに今回のツアー、参加者の大多数が四十から六十代だった。皆イレギュラーに慣れておらず、それどころか英語が喋れるかどうかも怪しい。なので私と父がバタバタしているのを、ソファに座ってなんとなく見つめている人たちばかりだった。

 説明は父からしてもらった。年若い私からよりも、年齢が他のツアー客に近い父からしてもらったほうが皆、耳を傾けてくれる。


「えー、みなさん! 本日日本行きのフライトはもう飛んでいないので、今日は旅行代理店の用意してくださるホテルへ行き、そこに宿泊します!」


 ここでの反応は二手に分かれた。おばさまたちは「え、イタリアに泊まれるの!?」と喜色を表して言い、おじさんはやれやれやっと泊まる場所が決まったかいと言わんばかりの疲れ果てた様子であった。


 私は流石に、イタリアに泊まれるとはしゃぐ気持ちにはなれず、それでも宿泊場所が決まった事には安堵していた。

 待っていると、一人の長身の(おそらく)イタリア人男性がやって来る。と同時に電話が鳴った。

 私はこの係員が本物かどうか訝しみ、とりあえず電話を係員へと渡し、旅行代理店の人と話してもらうことにした(今思うと、もし偽物だったら電話盗んで逃げられたのでは……と考えるが、その時はパニックすぎてそこまで頭が回らなかった)。

 なお、この外人さんは旅行代理店の人が派遣してくれた本物の係の人だった。

 その男性は、いかにも欧米人ぽい愛想のいい笑顔を浮かべて言葉を続ける。

 

『この度は大変でしたね。ホテルの手配ができましたので、ついて来てください』

『場所はどこなんですか?』

『空港に隣接する○○ホテルですよ。ところで明日のフライトのことなんですけど』

『はい』

『明日はクリスマスイブで、皆が家族で過ごそうと国に帰るために飛行機は客でいっぱいです。もしかしたら全員分のチケットは取れないかもしれません。日本に帰るまでにあと数日かかるかも』


 えっ?

 さらっと告げられた言葉に私はすごいびっくりしたことを覚えている。

 まさかの帰れないかも宣言に、私の心は不安のどん底に叩き落とされた。その様子を見て取ったのか、イタリア人男性は慌てて言葉を続けた。


『勿論、航空チケットを取れるよう全力で手配させていただきます』

『ほんとお願いします』


 私は心の底からお願いした。ここは空港なので、私と父のぶんだけならばカウンターで交渉するなり空港に置いてある端末を使って空いている飛行機を見つけて席を取るなりするのは簡単かもしれない。しかし、三十人ぶんとなると個人の力では無理である。


 私は今聞いたことを、まず父に伝えた。そして父は頷くと、散らばっているツアー客のおじさんおばさんを集めて説明をする。

 この時にはもう、私が英語関係の諸々を請け負い、父がそれをツアー客に発信するという流れが出来上がっていた。当たり前だが海外の方々は年齢ではなく英語が出来るか否かで話し相手を決めるために私がやり取りし、年功序列の意識が強い年齢層高めツアー客に対しては父が私の言葉を伝えてまとめ上げるようになっていた。息のあった親子連携である。

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