ドイツ旅行をしたら帰りにイタリアの空港に置き去りにされた話

佐倉涼@4シリーズ書籍化

第1話 そうだ!ドイツに行こう

 あれは私が大学二年生の時の話。

 当時の私は海外旅行にはまっており、せっせとバイトをしては貯めたお金で海外旅行に行っていた。

 イギリスはロンドン。

 アメリカはシアトル。

 次はどこに行こうかなと旅行代理店のパンフレットを眺めては夢想するのが楽しみの一つだった。


 そうしておもむろに目についたのはーーヨーロッパはドイツ。


 季節は十二月、そう、十二月のヨーロッパといえばクリスマスマーケット!

 キラキラと輝くクリスマスマーケットの美しい写真に心が奪われ、私は一瞬で決断をした。


「次はドイツに行こう」


 だが困ったことにこの時の私には金がなかった。その年の夏休みにイギリス短期留学一ヶ月の旅に出ていた私に、金があるはずがない。

 でも行きたい。この目で実際にクリスマスマーケットを見、美味しいホットワインを飲み、ドイツソーセージを食べたい!!

 欲望に忠実な私は悩んだ末にある決断を下した。


「お父さんと一緒に行こう」


 私は父と仲が良く、父と二人で旅行することに何の抵抗もなかった。早速私は誘った。


「お父さん、一緒にドイツ行こう」


「いいよ」


 なんかもう詳しいことは忘れたけど、多分即答だった気がする。

 こうして私と父は早速旅行代理店に行き、「クリスマスマーケットをめぐるドイツ八日間の旅(仮称)」に申し込みをした。


 旅行の詳細は省こう。

 

 途中、食べ過ぎで吐いたり、ドイツの寒さをなめていたせいで四十度近い熱を出し、シンデレラ城のモデルになったというかの有名なノイシュバンシュタイン城の見学に行けなかったこと以外は概ね楽しい旅だった。


 事件は帰りのバスの中から始まっていた。


 このツアー旅行、実は「ドイツ旅行の後に日本に帰る」パターンと「オプションでフランスもめぐる」パターンの2パターンが用意されており、添乗員さんはオプションの方に付き添うことになっていたのだ。

 なので日本に帰る組は、ドイツの空港までバスで行き、そこから添乗員なしで経由地であるイタリアへと飛行機で飛び、その後イタリアから日本へ帰る必要があった。


 そしてこのドイツの空港へ向かうバスの中で、添乗員はこんなことを言い出したのだ。


「皆様には空港から○○航空会社の飛行機に乗りイタリアへと向かっていただくのですが、この航空会社は定刻通りに飛行機が飛ばないことで有名でして。本当、二回に一回くらいの割合で離陸が遅れるんですよ! むしろ遅れないことの方が少ないくらいで! ですがご安心ください。イタリアに到着してからの乗り換え時間は二時間あります。それだけ時間があれば、まぁたとえ離陸が三十分遅れたところで次の飛行機に乗り遅れるということはないでしょうから!」


 軽快な口調で繰り出されたこの航空会社をディスるトークに、バスの中では笑いが巻き起こる。

 そう、この時は誰も思わなかったのだ。

 まさかこのドイツ→イタリア行きの飛行機が遅れたせいで大変な事態になるなどとーー。

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