【第8話】アソコをねらえ!

俺はコトネに相談してみることにした。


「ケガをさせないで相手を倒す方法、何かあるか?」


「……難しい。というか、トゥーネスで、戦う前から相手の体のことを気づかう人を初めて見た」


「そうか? それより、なんとかならないか? 女の子だし、いちおう元クラスメイトだし」


「……わかった。やってみる」


今回はコイントスに勝ち、サーブ権は俺が握った。


「なあエルミー、何か他に着るもの持ってないのか? その格好じゃ、絶対にケガするぞ」


「心配ご無用。ケガをするのはどっちかしら、ねェ」


「もう、知らんぞ」


俺はエルミーを目がけて砲弾を打った。


打球の瞬間、ラケットが光る。砲弾はエルミーの足元でバウンドし……。


なんと、エルミーの股間に向かう。


「ちょっ、おい! コトネやめろっ! そんなところを……!」


「カン違いするな!」


砲弾はエルミーの股間をすり抜ける。と同時に、彼女のミニスカートがヒラリと舞った。

あ……白だ。


「きゃああっ」


思わずスカートを伏せるエルミー。


これは……スカートめくりかっ!


エルミーはスカートを伏せるのに精いっぱいで、返球どころではなかったため、砲弾はそのままフェンスに当たって落ちた。


「着衣の一部に当たったから、またサーブ権は俺、だな?」


「くっ……私としたことが。だが、次は必ず返球するわ」


「じゃあ、いくよ!」


再び俺が打った砲弾は、またしてもエルミーの足元にバウンドした。


「やはり、さっきのはわざとだったのねェ! でも、同じ手は食わない!」


エルミーはさっきと同じ軌道をイメージして、ラケットを振り抜いた。


しかし、砲弾は突然軌道を変えた。


エルミーのラケットをすり抜け、またしてもヒラリとスカートをめくる。


「きゃああっ」


その後は、同じ展開が何度も続いた。


ヒラリ。


「きゃああっ」


ヒラリ。


「きゃああっ」


ヒラリ。


「もう、いやっ!」


ついにエルミーはしゃがみこみ、半べそをかいている。


戦意を喪失してしまったようだ。


『おい、やめるな!』

『続けろよ!』

『そうだそうだ!』


観客席からヤジが飛んでくる。

いつのまにか男性の野次馬が増えてしまったようだ。さもあらん。


「エルミー、もうやめるかい?」


「なっ!? これぐらいで私が棄権すると思うかッ」


気を取り直したエルミーが立ち上がろうとすると、再びヤジが飛んだ。


『がんばれ、お嬢ちゃん!』

『もっと見せて!』

『ショータイム!』


エルミーが観客席をにらみつける。


『怒った顔もかわいいー!』

『もっと怒って!』

『いいから早くやれ-!』


すると、これまで強気だった彼女の表情は、みるみる年ごろの女の子のそれになった。


下品なギャラリーを見て、もはや自分が選手としてではなく、そういう目でしか見られていないことを悟ったようだった。


「棄権する……」


「それがよさそうだね」


エルミーが帰りじたくを始めると、観客どもはまだあきらめがつかないらしく、今度はブーイングが始まった。


そんな中、エルミーは1人、とぼとぼと帰っていった。俺にはかける言葉もなかった。


「コトネ、ちょっとやりすぎたんじゃないか?」


「ケガをさせずに勝つ方法なんて、他に思いつかなかったから」


「まあ確かに、そういう意味では成功なんだけど、エルミーのプライドを傷つけちゃったかも」


「砲弾でノックアウトしたほうがよかった?」


「そうじゃないけど……」


スッキリしない勝ち方ではあったが、こうして俺は2回戦を突破。初日最後の試合である3回戦は、その直後に行われた。


行われたのだが……。

正直、俺は3回戦の試合内容をほとんど覚えていない。


相手は確か、20代ぐらいの血気盛んな男だったと思う。


俺は、前の試合でエルミーのプライドを傷つけてしまったことや、彼女が女の子に戻った瞬間の表情などを頭の中で反すうしていて、まったく試合に集中していなかった。


気がつくと、対戦相手はもう地べたに横たわっていた。


俺が特に何も指示をしなかったので、たぶんコトネは遠慮することなく、やっつけたのだろう。


「草トー初挑戦で、いきなり4回戦に進むなんて、すごいよヤッちゃん!」


「モナ、そんなふうにほめられても、べつに俺、うれしくないよ。勝ったのはこのラケットのおかげだし」


「もちろんラケットの性能のおかげもあるだろうけど、それ、私には使いこなせないんだもの。やっぱりすごいよ。それにカッコよかった! 見直した!」


「だから、ほめるのはやめてくれって」


「ずいぶん謙遜するのね。ヤッちゃんって、大人になったわね」


「いや、だから謙遜じゃないってば」


「すごーい……。なんかヤッちゃんのこと、惚れ直……って、あれ? 私、何いってるんだろ!?」


   *


その後、帰りの道すがら、モナの家に到着するその瞬間まで、俺はモナに絶賛され続けた。


「じゃあ、おやすみヤッちゃん! 明日も学校休みだから、また応援に行くね!」


「オッケー。でも、さすがに明日は強敵揃いだろうから、あんまり期待するなよ」


モナを自宅まで送ったあと、俺はすぐとなりにある自宅に向かった。


そのとき、玄関の前にたたずむ、1つの怪しい人影があることに気がついた。


あれは……!

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