第20話


 あれから30年が経った。


 僕は、シライ博士の研究施設を引き継ぎ、娘である輝実が所長兼管理者を勤めている。

 あの出発の日から、いろいろなことが目まぐるしく変わっていった。幾度となく生命いのちに関わることも度々起こった。こうして生きながらえたのは、妻知奈美やシライ博士、橘花さん、いろいろな人の感謝のおかげでもある。そして、シライリンちゃん……。

 親父の遺した言葉どおり、僕は親父よりも長く生きた。シライ博士にも認められ、研究所を引き継ぐことも。

 いまだに、過去と未来を行き来する日々が続いていた。もう、僕のような重力につよい人材はいないのだろうか、と最近思うようになっていた。

 輝実も結婚して三女をもうけていた。

「父さん、ごめん、今度、研究所に配属予定の新人さんのリストの確認作業をお願いしていい? 今日、過去から到着する便の整理がまだ滞っていて……」

「わかった。任せてくれ!」

 娘から送られてきた履歴書と合格通知用のコード番号、そして名前をひとりずつ照合していった。

 ひとりひとりみていく中で、興味を惹く人材がいないか僕は確かめた。


 戸岐道ときみち つかさ(24)


 自分と同じイニシャルの【T.T】に目がいってしまう。後継者になるのではないか、僕の勘がそういっていた。

 さっそく、娘に連絡して、1週間後に会うことになった。


 1週間後。

 その若者は、こわばった表情をして僕の前にあらわれた。若い頃の僕のようだ。

「初めまして、戸岐道司と申します!」

 はっきりとした口調の中にも、緊張した空気が漂っていた。

 僕はこの青年に賭けようと思った。


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