3 エデュケーション アフター

第13話 キャンプ ファイアー

#1

校庭で煙が立ち上っている。

昼間ではなく、放課後。キャンプファイアーのように組まれた材木とともに、新しい教科書が燃やされている。

機会を燃やすようなものな事をする。

「復焚書ですか」

校長は穏健派で過激な対応を好まない。

「月曜には替えの教科書が届くそうです」

教頭は改革派で積極的に占領政策に関与する意思がある。

「問題ない、が子供に教育は必要だ」

「体罰とか困りますよ」

穏当に頼むと言う事だろうが。穏当で済ませられるようには見えない状況だった。

「そうですか」

曖昧な返事をする。

校長と教頭は二階の窓から見える「祭壇」を眺め続けた。


#2

キャンプファイアーと祭典は一晩中続いた。

法に基づき退去させた生徒と一部の親権者、教師も、再び祭典に戻ってきて燃える植民地政策に歓声を上げた。夜中、騒音を理由に警察を召喚、何度目かの退去勧告を行った。 

朝になって漸く散会しだした参加者はそのまま授業をサボタージュした。


戸を開けて教室に入る。

誰もいない教室。

「出席を取るまでも、ないか」

各生徒へ欠席の理由を弁明してもらわなければならない。

事情はどうあれ仕事の内だった。

黒板に「自習」と書いて教室を出た。



#3

 “自主独立”と、ホワイトボードには書いてあった。

占領前、私塾は幕末の如く影響力を持っていた。しかしあっさりと訪れた自国の終焉で私塾の権威は下落した。開戦前に打ち出した方針は実践される前に悉く潰されたらしい。結局何も起こらずに不発のまま事態は一変した。  

 占領後、其のまま消えていくと見られていた思想信条の私塾は、占領者達の方針に従えない者たちを生徒として再び勃興しようとしていた。

 この塾もご同様で少し国粋主義じみた思想信条を掲げていた。当然纏わりつくリスクも背負っていた。


 十人ほどのクラス。

 自主独立の下に、自主独立の為に為すべき事が列挙されていた。皆の持ち寄りの列挙項目だった。

 十人はそれぞれが何らかの長で眷属を引き連れる身の上だった。


「キャンプファイアーは順当に波及しつつあります」

 教科書の押し付けを拒絶している人々の焚書運動はキャンプファイアーと呼ばれて全国に波及しつつあった。

「治安維持の役人は、 内乱を危惧しています」

「”危惧、”ですか。」

 塾生の一人が薄笑いする。

 既に起きている内乱に危惧止まりと言うのは寛大なのかそれとも侮っているのか。規模を察知されるリスクはあるが弾圧無き現在、言論の自由や、思想信条の自由、幸福追求権を主張するならば、今の内だった。

「正義を掲げ、友情、団結、勝利するなら今の内でしょうか」

 復、薄笑いしそうになった塾生。

国を取り返すの

は中々大変な課題だった。



#4

PTAも生活指導も遠くなった現在。不登校の生徒の出席を促すべく家庭訪問等する教師は珍しく成りつつあった。

遠距離から始めて既に十一件目。連絡通信網であらかじめ告知していたので不在の家は少なかった。十二件目の男子生徒の家は高校のある行政区の中で近傍の内最も遠い位置にあった。

 訪問すると、母親がお茶と和菓子を差し入れてくれた。

生徒の男子も母親に言われて臨席した。なぜ学校に来ないのか。このままでは単位を落とし落第しかねないこと持つ伝えた。男子生徒は不審そうに。

「学校行くと何かいいことありますか」

「有るが、学校はレクレーション施設ではない」

「誰か来てますか」

学級崩壊以降の教室には殆ど生徒が居ない。教科学習のほか生徒が居れば社会学習にも成り得るのだが。生徒が居ないので授業ににすらならなかった。

「横で連絡は取って無いのか」

「勉強したくなくて」

何が嫌なのかは知っている。

「したい時には出来ない、そんなものだが」

現役の高校生にこの説教は響くか否か。何事も終わってから気づく事もある。

「次のHRには来るように。顔見世ぐらいはしろ」

「期待しないでください」



母親丁寧に見送られてその場を去った。

全戸四十件までまだまだあった。



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