第5話 軽トラにフラグを立てろ
オレの軽トラは、ダンジョンの発生に巻き込まれてその中にあるようだ。
外見上、壊れてはいないようなのでダンジョン内なら動くのでは? と思うだろうが、それはかなわない。
なぜなら、ダンジョン内ではなぜか電気系統やエンジン動力系統が作動しないのだ。
一番最初にアメリカ軍がフロリダにできたダンジョンを捜索する際、科学の粋を集めた最新の武器や探索の機械が導入されたが、それらはすべて謎の事象によって動作しなかったのだ。
このことは世界中のダンジョンでも同様であり、結局満足に動作したのはシンプルに撃鉄の衝突で弾を発射する構造の銃と、磁力コンパスくらいだけだった。
そのため、ダンジョンの探索は困難を極めた。
せめてドローンさえ使えれば全く違った結果になったであろうが、探索はすべて人間の足で行わなければならないのであり、遭遇した魔物との戦いも、シンプルな構造の銃、そして剣やナイフという中世的な武器を用いなければならなかった。それでも、火炎放射器や手りゅう弾の類が使用できたのは幸いであった。
こういった経緯から、実は日本における調査隊も、ダンジョンのすべてを調査するわけではなく、目視と一部壁や床材の分析と、過去のデータと経験則を照らし合わせて判断しているに過ぎない。それでも高い精度を誇るのはさすが日本人の勤勉さの賜物なのか。
ということで、オレの軽トラはダンジョン内では動かせないというわけだ。
調査官は、他にも気になる言葉を言っていた。
軽トラは【異質化】していないと――。
【異質化】とは。
ごくまれに、ダンジョンの発生に取り込まれたものが、不思議な力でその在り方を大きく変えてしまう事だ。
過去の例では、民家の台所で発生したダンジョンに巻き込まれた包丁が、大剣のような大きさになってダイヤモンド以上の硬度で恐ろしいほどの切れ味を発揮したとか、作業小屋に置かれていたツナギ服が、打撃も刃も通さない堅牢なフルアーマーに変貌していたりと、その多くはダンジョン内の戦闘に恩恵のあるものであることが多い。
そして、その外観は元のものから大きく変わる事が多い。そういったものは、ダンジョンから地上に持ち帰ろうとすると不思議な力が働いて外に持ち出すことが出来ない。
まれに、ほとんど変わらない外観を持つものもあり、例えば装着するだけで腕力が10倍以上になる軍手などは、持ち出しはできたもののダンジョンの外では普通の軍手に戻ってしまっていた。この場合、再度持ち込めば異質化の効果は回復する。
ちなみに、異質化した物品を持つダンジョンの持ち主は、その戦闘能力への恩恵から探索に関して大幅に有利となっており、億万長者と化したダンジョンの保有者のほとんどはそれである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ~あ、せめて軽トラが異質化して、戦車とかになってたらな~」
その時のオレが、盛大なフラグをぶち上げていたのだと知るのはその数日後のことであった。
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