第5話 卒業と初出勤

桜が咲き始めた川根本町の小さな中学校で、本日卒業式が行われた。

萌歌は無事に義務教育の全ての課程を修了し卒業をすることができた。

最後に教室に集まった萌歌を含めた卒業生5人は、担任の田中先生から1人ずつエールを送られた。

その後は、同級生達とお互い離れ離れになっても頑張ろうとこれで最後になるかもしれない同級生とも萌歌は話した。


「それじゃ、私はそろそろ行くね」


萌歌は同級生達にそう告げると、ひと足先に教室を出て昇降口に向かった。

ローファーに履き替えて駐輪場に向かうと、そこには先回りして萌歌を待っていた田中先生がいた。


「もう教室から出てきたの?早いわね、せっかくなんだからみんなと話でもすればいいのに」


田中先生がどことなく寂しそうな表情で言ってるのがわかった。

卒業生の担任をすると生徒を送り出すという最後の大仕事があるが、先生も人間なのでやはり寂しさはあるのだろう。


「これから早速、初出勤なので」


萌歌がそう言うと田中先生は「え!?今から!?」と大変驚いている。

そりゃあそうだろう、卒業して今から仕事する人なんて聞いたことがない。


「はぁ…全く貴女には最後まで驚かされっぱなしだわ(笑)…頑張りなさい、轟さん!」


田中先生が握手の手を差しのべてきたので、萌歌も握り返した。


「ありがとうございます、いってきます」


萌歌は田中先生に深々と頭を下げると自転車に乗って自宅に戻った。

いつも走ってる道がなんだかいつもの違う感じに思えた。

自宅に戻った萌歌はもう着ることのないだろう制服から、この間プロショップ各務原の店長の妻からもらった新しい作業つなぎを着ると再び自転車に乗って職場となるバイク屋に向かった。


これが轟 萌歌の初出勤だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る