クレアちゃんの異世界授業〜【創造】編〜

「スキルを使う……?でも私、昼間にもう使ってるんじゃ……」

「あー、あれは身を守るための脊椎反射せきついはんしゃですからー。貴女には、自分の意思でスキルを扱えるようになって欲しいんですよー」

「なるほど……?」



 分かるような分からないような説明をされて首をかしげる。

 まぁ、暴走したら大変、ってことかな?うん、そういう事だね、きっと!



「じゃあ早速いきますよー?まずは【創造そうぞう】からですー!」

「【創造】?ってことは何か作るの?」

「まーそんな感じですねー………スキル発動の条件は覚えてますかー?」

「あ、うん………」


「なら、まずはスキル発動が可能な状態にしてくださいー!」



 クレアちゃんの言葉に、コクリとうなずく。

 えーっと、唱えればいいんだよね………



「【編集へんしゅう】」





 瞬間。



 世界の時間が止まった。




「うわぁ……………」



 何も動かない。空気の揺らぎさえない、完全な静寂。


 その代わり、部屋の中のあらゆる物の上に、白く輝く文字が現れていた。

 物の形に沿っているため大きさはバラバラ。一文字だけ大きかったり、縦長だったり。

 キラキラと輝くその文字たちは、息を呑むほど美しかった。



「この状態が【編集へんしゅう】ですー。世界全ての時間が止まり、この中で動けるのは『創造者貴女』と『わたし達』だけです………まぁ、オンラインゲームのメンテナンス中みたいな感じですかねー」


「あー、運営は動けるけどプレイヤーは動けない、みたいな?」

「そーですそれです。素早いご理解感謝ですー!」



 なんでクレアちゃんがオンラインゲームなんて知ってるんだろう?



「じゃあ早速【創造そうぞう】いきますよー?最初に創っていただきたいのは、『魔道書』と、『魔法の杖』です」

「!?」



 えっ………何そのステキな響きのモノは………?(トゥンク)



「今、貴女のスキルは大きすぎる力がむき出しになっている状態なんですー。それだと、貴女の身に何かあった時に、矛盾ありまくりの『何か』が世界に放り込まれちゃうかもですからー、『本』と『ペン』という制御装置を創って、それがないとスキルを使えないようにして欲しいんですー」



 その言葉に、少し苦笑いする。



「制御装置、って………制限かけまくるね………?」



 っていうか、『魔導書』と『魔法の杖』ってそういう意味だったんだ………



「でもこれはー、貴女にとっても悪いことじゃないんですよー?」

「え?」

「貴女の持つ力は、思いつきひとつで世界をどうとでもできますー。もし、感情のままにスキルが発動してー、世界丸ごと消えたらどうするんですー?」


 私の思いつきで世界が消える……………あまりにもスケールが大きすぎてうまく想像できないけど、絶対、いいことではない。



「確かにそれはちょっと………」

「でしょー?だからこその制御装置です。さー!創ってください!」



 作ってと言われても………私、作り方が分かんないんだけどなぁ………………

 え、これ質問していいのかな。いや、『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』、だし!

 私は勇気を出して質問することにした。



「あの、クレアちゃん、作り方って………」

「まずはイメージです。『本』と『ペン』。デザインはなんでもいいですよー、貴女の好きなやつでー!」



 クレアちゃんはそう言うけど、『何でもいい』が一番こまるよぅ。


 うーむむ、と唸って目を目を閉じる。『本』と『ペン』、『本』と『ペン』………


 ………えーっと、『本』の方は………そうだな……魔道書っぽい感じ…………ハードカバーで、深い赤の表紙で…………金でなんか外国の文字とか………大きさはB5くらい………………


 なんとなく、イメージが固まる。

 よし、じゃあ次はペン………………


 うーん、見た目的にガラスペン……かな?………透明な軸の中に緋色の線が入ってるみたいな……………



「何となくイメージできましたー?」

「うん………」

「そしたら、名前を考えてくださいー。大事な名前ですからじっくり!」



 名前?えー………………じゃあ『本』の方は………うん、良いかな?『ペン』も………こんなんでいいでしょ。(もうめんどくさくなってきた)



「最後、【創造】って言った後に、つけた名前を唱えてください。その時もイメージを強く!強〜く、ですよー!」



 うん、と頷く。イメージを強く持って――――――――――



「【創造そうぞう】:『創造はじまりの本』・『つむぎ硝子筆ガラスペン』!」



 パアッ!、と足元に現れた魔法陣が紅く光り輝く。

 その光はやがて二つにまとまって、私の手元にふわりと浮かぶ。


 一つは四角い形。一つは細長い形。

 それを私が『本』と『ペン』だと認識する頃には、紅い光はかすかな燐光りんこうを残して消えていた。



「ちゃんと作れた………………かな?」



 私の手の中には、深い赤のハードカバーの本と、透明な軸に赤い線の踊るガラスペン。




 私が思い描いた通りの『本』と『ペン』が、そこにはあった。








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