第5話 一番機の僕は運がいいらしい

「これだから獣魔はッ! ほっとけばすぅぐ増えちまいやがるッ!」


 僕達はベベル級を倒した後も進軍を続けた。

 それまでに数百を超える獣魔を仕留めながら。


 しかし敵の猛攻もまた激しく、やはり楽な戦いとはいかない。

 そのせいで、僕達先発部隊は進軍に支障をきたすまでの被害を受けていた。


 残存機数は十三。

 しかも著しい損傷を受けた機体も少なくはない。


 隊長も例外ではなく、既に右腕部を一度破損。

 破壊された別機体から代替パーツを回収、交換して運用中という状況だ。

 四肢が現地でも交換可能という仕様なのが救いだった。


 一方の僕はまだ無事で、どの部位も現役のまま。

 運が良かっただけか、仲間達に守られたおかげなのか。


「皆さん、動かなくなったパーツがあったら僕の部品を使ってください!」

「馬鹿野郎! そんなくだらねぇ事言ってる暇があったら撃てェ!」


 だけど敵の勢いは増すばかりで。

 銃の残弾もが心許ない中で、仲間達からこんな罵倒が飛んで来る。

 僕にとっては真面目な話だったのだけど、冗談にとられてしまったみたいだ。


 それはきっと誰しも、自分がすぐ動かなくなるかもしれないと考えているから。

 運よく無事な奴がより効率的に動けばいいんだってね。


 だから言われた通りに弾丸を放ちまくる。

 次から次へと襲い掛かって来る獣魔を撃ち落とす様にして。


 さすが最終決戦、敵の密度が尋常じゃない!


「うあああーーーッ! くっそォォォーーーッ!!」

 

 焼き付いた砲身を即座に交換し、弾倉を切り替え、再び撃つ。

 それでも一向に留まらない勢いを前に、僕達の方がとうとう押され始めた。


 このままじゃ敵の死骸で山が出来そうじゃないか!


 獣魔はその肉山さえ乗り越えて飛び掛かって来る。

 僕達を破壊しようと全ての環境を利用して、全力疾走で。

 暴力性に加え、それだけの知能があるからなんだろう。


 そしてそんな野獣どもの一手が遂に僕達へと必殺の一撃をもたらした。


 隊長の頭部に、爪が突き刺さったのだ。

 獣魔の飛ばした弾丸の如き鋭爪弾が。


「ご、あ……ッ!?」

「「「隊長ーーーッ!!?」」」


 その勢いのまま遂には倒れ、立ち上がる事も出来ない。

 地面さえ認識出来ないらしく、体を腕で支えようにもただ土を抉るだけで。


 ヴァルフェルの頭部は各種センサーを積んだ情報の要だ。

 これが失われれば、攻撃どころか他の機体との連携さえ不可能になる。


 つまり事実上の戦闘不能となってしまうんだ。


「クソ、俺に 構う な! 撃ち 続け ろ!」

「そんな、隊長……ッ!」

「進 め、戦 え、守り たい 者の ため に――」


 そんな隊長は掴んでいた銃を掲げ、そのまま動かなくなってしまった。

 恐らく今の攻撃で動力部にも著しい損傷が及んだのだろう。


 もう一番機小隊は限界だ。

 隊長が崩れたのを継起に、他の二機もが撃墜されてしまって。

 もはや前線を維持する事さえ出来そうにない。


 ここまで、なのか……!?


『こちら二番機小隊。今そっちに合流する! 先陣を引き継ぐぞ!』


 けどそんな時だった。

 追い詰められつつあった僕達の受信機にこんな声が届いて。

 間も無く、背後から放たれた無数の弾丸が獣魔達を駆逐していった。


「どうやら間に合った様だなぁ!」

「二番機小隊!?」

「来るの早いッスねぇ!?」

「アールデュー・ワンから予め連絡を受けていたもんでな」


 そう、後続部隊が追い付いたのだ。

 恐らくは隊長が既に限界を感じ、こうなる様に手を打っていたのだろう。

 仲間達を無駄死にさせないようにと。


「これより一番機小隊の残存メンバーは二番機小隊が引き取るッ! 進軍再開だあッ!!」

「「「おおおッ!!!」」」


 しかも二番機小隊はほぼ無傷。

 僕達が道を切り開いたのが功を奏したみたいだ。


「お前、レコ二等騎兵だな。良かったな、お前はダブってないぞ」

「え?」

「こっちのレコは既に大破した。奴の銃はしっかり使わせてもらってるぜ」


 ただ残念だったのは、僕の分身がもういなかった事。

 どうやらレコ・ツーは運が悪かったみたいだ。


 ……いや、僕の運が良かったのかな。


「コレ、お前が使っとくか?」

「いえ、僕はこちらを使わせて頂きますよ」

「へぇ……お前、なかなか熱い所があるじゃねぇか」


 なら、その運で元隊長の意志ももっと先に連れて行きたい。

 そう願うままに、僕は彼の掲げていた銃を手に取る。


 まるで「受け継いで欲しい」と言わんばかりだったから。


「よし、行くぞお前等ッ! 一気に中央部へ乗り込むッ!」

「「「サーイエッサー!」」」


 そうして僕は二丁の精霊機銃を携え、新たな仲間達と共に進軍を始めた。

 元隊長のおかげで昂った意志を抱いたままに。


 今なら何でも出来そう――そう思えてならなかったんだ。




 ただ、こうしている間にも戦況は徐々に変わりつつあった。


 そこで僕は現実を思い知る事となる。

 敵がただ暴れるだけの野獣ではないという事を。


 そして人は、その脅威でさえも跳ね退ける力を持っているのだと。

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