エピローグ 1 それを捨てるなんてとんでもない


「「おおー……!」」


 アイテム袋を開いて、僕と深瀬さんはつい感嘆の声が漏れてしまった。



【友達クエストユーザー 蒼井空様 深瀬ひなた様:運営よりお詫びのお知らせ】



 表題とともに届いた謝罪文には、グリフォン戦にて発生した強制ログアウトバグへの謝罪、および正式にクリア扱いとする旨のメッセージが届いた。

 加えて前回および前々回、強制ログアウトにより失ったアイテムの返却。

 さらにグリフォンが異様に強かったバグの修正に伴い、グリフォン戦で使用した消耗品までも戻ってきたのだ。


 アイテムが増えてほくほくである。

 あと、ゲーム内で使用できる通貨がなぜか一桁くらい増えていた。

 謝罪および口止め料だろう。

 僕も事を荒立てたくないので、この件については黙っておく。


「で、この奥にクリアイベントがあるらしいわ」


 その後深瀬さんに誘われたのは、グリフォンを撃破したコロシアムフィールド。

 通常はグリフォンに勝利後、ゲートが開いてイベントが発生するらしい。




 ゲートをくぐると、真っ白な神殿が僕らを迎えた。

 ギリシャ神話に出てきそうな建物をくぐると、光が降り注ぎ、女神様が降臨なされた。


『大いなる魔物を倒せし勇者達よ。よくぞ私の封印を解いてくれました。あなた方の尊き友情の力により――おや?』


 女神様の台詞が止まり、僕らの前に選択肢が現われる。



【特別イベント仕様にしますか? はい\いいえ】



 何だろう。特別イベント?


「もしかして二人でクリアすると、限定アイテムが貰える仕様かしら?」


 深瀬さんが特に考えず【はい】を選択。

 女神様が咳払いをした。


『大いなる魔物を倒せし恋人達よ。よくぞ私の封印を解いてくれました。あなた方二人の深き愛情により、悪は払いのけられ――』

「「恋人!?」」

『数多の友情より、一人の愛。本クエストの理念とは異なるものの、愛もまた人を敬う尊き感情。それもまた人生における大切な選択でしょう』


 しまった、男女二人限定クリアイベントだったらしい。

 深瀬さんがあわあわと悲鳴をあげ、


「いや違うのよ、こ、これはたまたま二人でクリアしただけで、こ、恋とかそもそも友達でもな……」

『若人よ、恥ずかしがることはありません。青春時代の恋もまた、深き友情のひとつ。不純異性行為に及ばなければ幾らでもちゅっちゅして構いませんし、そもそも深き愛がなければ、このクソゲーを二人で攻略するのは困難でしょう』


 政府公式ゲーム、クソゲーを自己肯定する。


『なお本イベントはLGBTQに配慮し性別を問わず実行されます。差別的な意図は一切ありません。また本問題についてお悩みの学生は政府ホットラインがございますため、下記連絡先より……』

「誰よこのイベント作ったの!」


 深瀬さんが拒絶の剣を振りかぶった。女神様に当たり判定はなく、すかっと空振りする。

 人によっては嬉しいイベントかもしれないけど、僕的には恥ずかしい……

 あと性的マイノリティと一緒に友達マイノリティへの救済もお願いしたいなぁ。


『それでは、恋人クリア専用特典アイテムを授与いたします』


 ……それはともかく、特典アイテムが貰えるらしい。

 恋人はさておき二人クリアは大変だったので、期待してしまう。


「特典アイテム? ……それで、何を貰えるのかしら」

『女神の秘宝、エンゲージリングをさし上げます』

「結婚指輪じゃないの!」


 すぱーん、と深瀬さんが女神から指輪をはたき落とした。


『本指輪に特別な効果はございません。しかしこれも青春の一ページ、あなた方の生涯の宝物になるでしょう』

「効果ないの!? 自動回復くらいつけなさいよ!」


 まあでも、貰えるものは貰っておいても良いんじゃない?

 と思う僕だが、深瀬さんはぷるぷると身体を振わせて。


 ぽいっ、と指輪を放り捨てた。


 ……が、自動でアイテム欄に戻ってきた。


『それを捨てるなんてとんでもない』

「呪われてる!? アイテム欄圧迫するんだけど!?」

『では次に、クリア特典を授与いたします』


 続けて貰ったのは、A4サイズの紙切れだ。

 冒頭に【レッドオーブ引替券】と記されている。


『レッドオーブは魔王城の扉を開く六つの宝玉のひとつ。勇者達よ、残り五つのオーブを集め、悪しき魔王の野望を打ち砕きがんばって卒業するのです』

「そういえば、そんな話だったわねこれ。で、引き替え場所は?」

『市役所です』

「「へ?」」

『レッドオーブを入手する過程で、あなた方はより深く愛し合ったことでしょう。今こそ現実で、あなた方が出会う時が来たのです。またこれより先のイベントでは、現実世界での出来事もより強く関わることになるでしょう』


 えーと。つまり……今後はゲーム内だけでなく、現実も絡んでくるらしい。

 友達クエストの本領発揮、リアルイベントとの連動――市役所でのアイテム入手は、その序章か。


 まあ取りに行くだけなら、問題な……いや。


 僕は深瀬さんを覗いた。

 彼女は真っ青になり、し、市役所……? と口をぱくぱくさせている。


「ね、ねえ女神様。現実で外出しなきゃいけないの……? いやあたしもコンビニくらいは行くけど。夜のコンビニ」

『レッドオーブはコンビニに流通しておりません』

「ゲーム内アイテムなんだから、ダウンロードで良くない……? あ、アマゾン○ライムで配送をお願いはダメ? 二十四時間いつでも受け付けるわよ?」

『本アイテムはリアルで二人揃わなければ受理されません。なおレッドオーブ入手をもちまして中間考査完了といたします』

「今からラスボス戦じゃないの! ていうかあたし、持病の引きこもり症候群が悪化してて、い、家でゴロゴロしてないと死んじゃ……」

『病気等やむを得ない事情がある場合、診断書の提出をお願い致します。なお御両親のサインが――』

「あーもう分かったわよ、い、行けばいいんでしょう行けば!?」


 深瀬さんが涙目になり、ぐすん、と鼻をすすった。

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