第28話 繋がり
南の主とウルフ達が食事を取っている中、
ヴィアスはずっと黙っていたけどどうしたんだろうとアルクは横目に見てみる。
物欲しそうにウルフ達の肉を眺めていた。
「あ、二人共ごめん!そういえば、自分達の朝食がまだだったね。
ベラもエリクもまだ寝ているから気づかなかったよ、果物ならすぐ用意できるけど食べる?」
そう言うと、すぐにヴィアスがキラキラした顔をこちらを向けた。
「いいのか!?旦那!」
今までベラとエリクのご飯の後に自分たちの食事を取っていたから忘れていたよ、空腹が来ないこの体も考え物だな。
そう思いながら苦笑し、マジックバッグから適当にそのまま食べられる果物をヴィアスに渡し、「洗って食べてね」と一言加えるが、
ヴィアスは気にせず食べ始めた。
アルクは外の洗い場で濯いだリンゴをチャチャの口元に持っていく。
あら不思議、一瞬で綺麗な芯だけの状態になった。
チャチャのすごい特技だ、舌で器用に芯以外を搔っ攫っていく。
見えなければ手品を見た時の様に、アメイジング!って興奮するんだろうが、この体は動体視力がいいために見えてしまいただ恐怖でしかない、なんでひとなめで芯以外を舐めとる事ができるんだろうかと。
そんな感じで、アルクはチャチャのおかわりにも答えて食事を済ませ、周りを見ていくと。
ウルフ達も、山盛りに積んでいたブタ肉ブロックを平らげ、最初のような警戒心はなく、ぐったりと横たわっていた。
その中の左目に傷がある一匹のウルフがこちらに気づき、立ち上がりこちらに向かってくる。
なんだろう?と思ってみていると、目の前まで来て、首を垂れる。
「どうかしました?もしかしておかわりがほしいのですか?」
アルクもしゃがみウルフを正面から見つめて、最初に撫でたウルフさんだと分かり、首をかしげていると。
「さすがは旦那、すげえな、おれぁといい南の主といい他種族をここまで手懐けるなんてなあ。
あとはドリアード達を手懐ければ樹海は旦那のもんだな、なあ南の主?」
『はい、ヴィアス様の言う様にそうなりますが、アルク様はそれを望めばですが』
ヴィアスが左腕に溢れんばかりのいろんな果物を抱え、もう片方の手に持った桃を齧りながら言うと南の主にも話を振り、南の主も答えるが。
ヴィアスはボトボトと片手に抱えていた果物を地面に落とし唖然とする。
「キ、キショクワリイ!南の主、おめえそんな喋り方だったか!?様ってなんだ様って!」
『私とヴィアス様では同じアルク様の配下でも名を頂いてるヴィアス様の方が地位が上です。
私は何かおかしい事を言っておりますか?』
「か、勘弁してくれ」
棘のある言い方をする南の主と本当にいやそうに両手で肩を摩っているヴィアスを横目にアルクは苦笑しながら答えた。
「南の主さん、いつも通りで問題ありませんよ。
樹海を自分のものにとかそんなつもりはないし、配下なんて思ってないです。
隣人として付き合っていきたいので、南の主さんもヴィアスも気にせず元居た縄張りに戻ってもいいですよ」
「いちゃダメなのか!?」
『いてはダメですか?』
(・・・デジャブかな?はぁ・・・隣人ポジションに就くのは難しそうだ)
一人と一体から捨て犬オーラを感じとると、肩を落とし諦めた。
「いいですよ、自由にしてください。
ウルフさんも、体調が良くなったら好きにしていいので、隣人としてこれからよろしくお願いします。
あと、群れの仲間も連れてきてください十分な食料を提供しますので、それで力をつけて群れを護ってください」
アルクはそう言うと頭を下げた。
「ワフッ」
ウルフさんは鳴き答えると、他のウルフにも呼びかけ立ち上がり樹海へと帰っていった。
アルク達はそれを見送り、南の主の元へ向かう。
(これで残す問題は、ドリアード様達だけになったな。
それにしても、南の主さんにはいろいろやってもらいすぎているな、何かで返せばいいんだけど、聞いてみようかな)
「南の主さん、いろいろと頼みを聞いてくださったおかげで助かりました。
何かで返せばいいのですが何か食料とかほしい物があれば言ってください」
アルクは、食事を終え休んでいた南の主に聞いてみたが。
すぐに返答は来ず何か悩んでるんだろうか、ゆっくりと立ち上がりこちらを見つめた。
「な、何かあるのですか?無理なものじゃなければで、すみませんがお願いします」
アルクは身構えて、待った。
『・・・身を捧げた私が、望むなんて
「それは・・・」
南の主に従魔契約をして欲しいと言われ、アルクは言葉に詰まった。
この世界に来て〖従魔契約〗の魔法効果が変わってしまった。
ゲーム世界では、名を与えるのだが魔獣が名を受け入れてくれないと発動しない。
その他に従魔にした魔獣のレベルを主のレベル近くまで上げてくれたり、様々な特殊な魔法に対しての絶対的な耐性を与え、行動停止という言葉で支配できるだけだった。
ズンナマやヴィアスを契約した時に起こった、自分の体にかかる負荷はゲーム内にはなかった。
それにこちらの世界の魔獣に使えば獣人になった。
本当に獣人になるだけなのだろうか?
尿意や第三欲求が来ない自分の体が飲み食いする生物だとは思えず、他にも自分が死ねば契約はどうなってしまうのか解らない事だらけで躊躇ってしまう。
チャチャやヴィアスにも体について聞くと同じような症状が出ていた、自分と違い空腹と睡眠は来るみたいだが。
自分や仲間の体を切り開いて中を見るなんて何処ぞの免許を剝奪された白と黒の髪の医者のような事ができる勇敢さもない。
このまま本当に〖従魔契約〗をしてもいいのだろうか。
そんな事を考えながら南の主を見るが、その眼はこちらを捉え離す気がないみたいだった。
一度アルクは、ゴクリッと喉を鳴らした。
「・・・南の主さん、貴方の命を自分が握ってしまう事になりますが、よろしいのですか?」
『構いません、アルク様との絶対的な繋がりがほしいのです』
南の主さんにそう言われ、アルクは目を見開く。
(絶対的な繋がり・・・。
従魔契約をすれば間違いなくそうなってしまう。
なっていいのだろうか?名を消してしまえば存在も消えてしまう、する気もないが、
もし自分が死ねば、名を与えた者達はどうなってしまうのかも解らない。
数日の関係で相手に命を託すなんて、やはり命の尊さが動物と人間の価値観が違いすぎて戸惑ってしまう・・・)
「どんな姿になるかも・・・分かりませんよ?」
アルクは、内心では従魔契約を諦めてほしくて見苦しい言い訳を見つけ言葉にするが。
『構いません』
アルクは、南の主の眼を見つめ折れるしかなかった。
何を言っても無駄だと悟り覚悟を決めた。
「分かりました、従魔契約をしましょう」
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