第13話 【西の主】

アルク達がいる樹海の北西の辺り、木々の隙間から太陽の明かりが差し込むの場所で、全長7mの赤みがかった黒い毛で覆われている熊が仰向けになって、退屈そうにしていた。



(あぁ暇だ、つええ奴またこねえかな)



そんなことを呟きながら昔に倒した、生物とは思えないヤツ事を思い出していた。

だがこちらに来る気配を感じ取り、すぐに思いに耽るのをやめ熊はモソリと顔だけを向けた。



気配が来るほうの空を見つめる、しばらくすると見知った緋色の太った鳥が南東から飛ん来た。

昔、強き者を求めて東にいったらアイツと出会い、挑戦したが飛んで嫌がらせをするばかりで勝負にならなく呆れて帰ってきた、それからはお互いに嫌がらせをする仲だ。



「ピロロロロロロロロロロロロロ!!」



そんな奴がバカげた鳴き声で慌てながら下にいた俺に気づかず、北西へ飛んで行った。



(なんでえ?鳥野郎があんな慌てて飛んでいくなんて初めてじゃねえか、中央の縄張りにつええ奴でも来て捨てたのか?)



ニヤリと笑う。



(ヘヘッ!つええ奴か、挑みにいってやろうじゃねえか!っとまずは腹ごしらえだな)



あの鳥が逃げ出す強者が現れた事に熊は喜び、餌を探しながらゆっくり向かうことにした。



そこから夜が明け、鳥野郎の縄張りに入りあるノソノソと歩いていると、すぐにピタリと足を止める。

以前とは違う緋色の鳥の縄張りの違和感に気づいた。



(なんでえ、これは?おれぁの場所が分かってんのか?

全くおれぁから相手の場所なんて分かんねえぞ?

・・・ヘヘッ・・・本当に・・・面白れえじゃねえか)



今まで一度も感じた事のない感情が湧いてくる。

生物としての本能が訴えてくる『進むな』と、だが一歩また一歩と歩みを進めるが途中でまた足を止め。



(スゥーフー・・・スゥーフー・・・)



熊は息を整え、進めば死ぬなと冷静に頭で判断できていた。



おれぁは見たいのだ・・・この先に居る『恐怖』を



おれぁは知りたいのだ・・・この先に居る『死』を



それでも一歩、また一歩と足を出し次は足を止めることはなかった。



最初は殺し合いをしようと思っていたが、進むにつれてそんな考えを忘れてしまった。

そして、いやでも理解できた、自分はちっぽけな生き物だと。



ただ、見たかった知りたかった。



今まで味わった事のない感情が湧き出てくるが全身の穴から逃げていく。


糞尿を垂れようが関係ない一歩、また一歩、足が進む度に、一つの感情だけが残りほ他の感情が水分と一緒に全身から逃げていく。


そして木々の隙間から見えた人工物を捉え、そのまま目を離さず進む。

進むにつれ拓けた場所になり人工物の前には、一本の白い道が続いていて、周りを緑に輝く湖が波うっていた。



目を奪われる光景にゴクリッと唾を飲み足を踏み入れた。



瞬間



脳が



停まる



先ほどまであったものがなくなる、感覚、全て



だが、目の前の人工物には近づいていた。

少し近づいたところで。



目を瞑り頭を垂れる



もう体の限界が来ていた



もう精神の限界が来ていた



もうその時には自身の中の生への執着を捨てていた



拒みはしない



ただ死が見たい



ただ死が知りたかった。



少しすると前から物凄く強い気配を感じ、目を少し開ける。

目の前が霞んで見えないが、その気配を追って顔を向けた。



(・・・あれが死か)



死はしゃがれた声で一言。



「君は戦う意思はないの?」



(・・・ねえな、・・・あれば死んでいる)



しゃがれた声に自分の麻痺した感覚を取り戻し、よく通る声だと思いつつ、おれぁ頷く。



「君はどこから来たの?」



(おれぁ、喋るすべをもってねえ・・・)



伝わるかは、分からないが西に顔を向ける。



「君はどうしたの?」



(・・・どうしたいか・・・おれぁどうしてえんだろうな・・・いままで、争ってばっかだったな・・・。

ああ・・・なんもねえな、おれぁには・・・どうしたいかなんて聞かれたのはいつぶりだっけな。

・・・おれぁなんで生きてきたんだっけな・・・今は、死がただ見たかった)



おれぁそんな事を考えていると。



「君はここの主なの?」



(ここの主じゃねえな)



おれぁ首を横へ振る。



「君には名前はあるの?」



(そんなものねえな・・・坊?・・・懐かしいなあ・・・でもちげえな・・・熊?それもちげえか・・・人族になんていわれてたっけなあ?ヌシか、あれはおれぁの名前か?ちげえな・・・)



またそんな事を考えこんでいると。



「名前がほしい?」



(くれんのか?おれぁ殺されねえのか?断ったら殺されんのか?でも、まあくれんならほしいな)



おれぁ頷く、すると。



「君の名は、『ヴィアス〗」



すると体に変化が訪れる、自分の意志とは関係なく目が見開き藻掻くことさえ許されない激痛が全身をめぐり目の前が徐々に闇に覆われていく。



ヘヘ・・・結局殺されんのかよ



でもヴィアスか・・・



いいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る