Side:黒崎玲奈

 きっかけはいつだったでしょうか……。

 あっ、そうです。

 あれは中学二年生の冬、それもすごく寒い日のことでした。


「げほっ、殺すぞ……てめぇ、これ以上は死ぬ」


 体育館裏から声がしたのです。

 とても太くハスキーな。


 いじめか何かだと思いました。

 だから私は見て見ぬふりをしようと最初は思っていました。

 ですが……。


「んなのしるかよ……お前は……」

「おん!」


 ふと聞いたことがある声がしたのです。

 誰だったか?

 そうです、春山士郎というクラスメイトでした。

 彼はこれといって何もない普通の男の子であり、それがとても印象に残っている人でした。

 そんな彼が喧嘩……?


 私は慌てて体育館裏を覗くとそこには──。


「死んでもいいよな……」

「ぐほほ!」

「ことをしたんだよ!! 知ってるか、お前のこの痛みはいつか治るけどよ……絵梨花についた心の傷は一緒なくなることはねえんだよおおお!」


 先輩を──同学年で知らない人などいない、不良である斎藤豪太が裸で倒れていたのです。

 すぐ横には下着姿で上からブラザーそれも男物に包まれた絵梨花さんが内股で座っていました。

 すぐに今の状況がわかりました。

 士郎さんが絵梨花さんを豪太先輩から救っているのだと。


 笑いながら何度も豪太先輩の下半身を蹴る士郎さん。

 取れてしまはないのか。

 そんな心配と同時に胸がドキリとしてしまいました。

 

 ……かっこいいぃ。


「はあ……こんなもんか?」


 泡を吐きながら無様に倒れている豪太先輩。


「……大丈夫か?」

「う、うん……」

「こいつが神崎さんを襲ってるの写真撮っておいたから。後は先生に言うとしよう、多分俺も謹慎を喰らいそうだけど」


 ニコリと優しく士郎さんは微笑み。


「ならよかったよ、服……」


 下着姿の絵梨花さん。

 このままじゃ彼女は帰れません。

 そんな中、士郎さんはなんと自身のワイシャツとズボンを脱ぎ下着姿になったのです。


 え、エロい……。

 ああ、やばい。

 これが恋というものなのでしょうか?


「使用済みで悪い! でもこれでも着てくれ。例ならそれを洗濯して返すのでいいから!」

「え……っ?」


 戸惑う絵梨花さん。

 当たり前でしょう。

 突然服を脱ぎ、自身は裸になりその服を渡してきたのだから。


 なんなのこの人……。


「じゃ、俺はこれで!」


 こうして士郎さんは去っていきました。

 しばらくして先生が怒鳴る声が響き渡りました。


 自分より他人を……。

 なんて優しい人なの?

 かっこいい。

 そんな言葉じゃ表せられません!


 しゅ、しゅき……///


 人間ってこうも簡単に恋に落ちてしまうものなのでしょうか。

 これが彼の魅力なのでしょうか?

 私にはわかりません。


 さらに追い討ちをかけるように豪太先輩は退学となり絵梨花さんのことが噂になる……ことはありませんでした。

 なんと士郎さんと豪太先輩が喧嘩したということでみんなの中には広がっていき、士郎さんの印象はガタ落ち、周りからはヤンキーと距離を取られるようになってしまいました。

 多分ですがこの出来事の真実を知っているのは一部の先生と私と絵梨花さんと士郎さんと豪太先輩だけなのでしょう。


 かかかかか、かっこいい。

 ダメ、死にそう。

 死にそうなくらいにしゅき。


 だがしかし彼には彼女さんがいるということを知り私はショックに落ちました。



『ずっと前から好きでした! 俺と付き合ってください! オッケーなら明日、放課後、屋上に来てください』



 それから三年後、ふと彼からメッセージが来ていました。

 これをはじめ見た時、なぜかキュッと下半身が締まり熱くなってしまいました。

 謎です。


「……しゅき///」


───────────────────────


<<<士郎かっこよすぎだろ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る