辺境警備(漫画)

 前回の「グランローヴァ物語」と同じく紫堂恭子のファンタジー、全6巻です。

 

 実は紫堂恭子作品を読んだ一番最初がこの物語で、紫堂恭子のデビュー作です。

 デビュー作とのことですが、もう絵もお話も完全に完成されていて、とてもそうは思えない完成度の作品です。


 主人公は、うーんと、「隊長さん」こと「サウル・カダフ」でいいのかな? 多分いいでしょう。「神官さん」こと「ジェニアス・ローサイ」とダブル主人公かも知れないけど、まあ隊長さん主人公でいいでしょう、うん。


 物語は「隊長さん」が都から辺境へすっ飛ばされてきたことから始まります。

 「不良中年」の見本のような隊長、一つ悪事(主に女性関係だと思われる)がばれたことから、あれもこれも、どんどん昔のことまで暴露され、これ以上の辺境はないと思われるど田舎に左遷されてこの土地へやってきます。


 ここは大昔、蛮族との争いの最前線だったものの、今は平和そのもの。見渡す限り広がる平原の向こうには人っ子一人いない。隊長の部下となる「兵隊さん」たち(見た目そっくりで見分けがつかない・豆のような若者たち)も半分は農業や職人、武器なんてとても持たせられない穏やかさ。主な仕事は逃げた牛を捕まえること。


「都に帰りたーい!」


 思わずそれが口癖になるのもさもありなん、と思うほどのど田舎勤務、その中で隊長は色々な事件に巻き込まれていき、そしてそこから、その背景にあるなんとも大変な事件へとつながって……


 実は隊長さん、不良中年を気取ってはいるけど、本当はすごくできる人、酸いも甘いも噛み分けたかなりの人物なんです。左遷された本当に理由の半分も、そんな関係だったりもしますが、そんな顔はほとんど見せない。


「役立たずでいることを喜んでいるような」


 見抜いた人にそう言われることもありますが、まあ普段の隊長は、


「この次左遷されたら行かされるのは人がいない岩砂漠しかないべよ(by兵隊さん)」


 と真剣に心配されるほどの有様です。


 そしてもう一人、こんなど田舎に似つかわしくないのが「神官さん」です。

 隊長が赴任してきた兵舎から少し離れたところにある神殿に一人住まい、生真面目一本(唯一の弱点はお酒大好きだが)な若い男性の神官様ですが、その見た目が、


「まっすぐな銀の髪、すみれ色の瞳」


 と、どこからどう見ても精霊か美女にしか見えない麗人です。


 子どもの頃には「積み木遊びで方程式を発見」するほどの神童だった神官さんも、色々な事情があってこんなど田舎に赴任してきています。

 そして、実はその過去にはこんな出来事が……


 隊長と、ふとしたことからこの2人と関わることになった「黒呪術師(ドラティア)」のカイルは神官さんを助けるために動くことになったりもします。


 壮大な物語のベースの世界観は前回紹介した「グラン・ローヴァ物語」と共通のもので、どちらの物語にも登場する人物などもいます。

 そして全6巻で完了した物語の「その後」を描いた外伝も。


「え、これってたった6巻しかなかったっけ?」

 

 そう思うほどの密度の本格的ファンタジー、ぜひぜひ手に取っていただきたい一作です。 

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