キスフレンド
七都あきら
第1話
ただ、その祝福すべき喜ばしい事実は、友達にも、家族にも現在進行形で秘密だった。
少なくても無事に高校を卒業するまでは、絶対に誰にも言うことが出来ない。
――俺もお前も、色々大変なことになるから、言っちゃ駄目です。分かった?
教室でいるときと同じ、ホームルームと変わらないテンションで、恋人からそう言い含められていた。
けれど、理解はしていても、千秋は、折に触れ『そこの教壇にいる、涼しい顔した家庭科教師、
先生と生徒という関係だから恋人同士だと周囲に言えないのは仕方ないが、ないないづくしの関係に、健全な男子高校生の欲求はいい加減限界を迎えていた。
花妻との初めてのキスを擦り切れるほどに脳内でリピートしすぎた結果、最近では、後半のエピソードが勝手に脳内で創作されていた。
このままでは、卒業するまでに、花妻が絶対に言わない言葉百選が完成しそうだ。
(キスがしたいキスがしたいキスがしたい、あわよくばそれ以上のこともしたい!)
そんな訴えを視線に込め、味噌汁の鍋をかき混ぜながら花妻の顔を見ていた。
自分は、花妻からみて、とてもいい生徒だと思う。
悪いことはしないし、クラスの友達とは仲良くしているし、勉強は真ん中の成績。勉強よりスポーツが得意。
(……いや、小学生の通知表かよ)
髪も染めてないし、ピアスだってしてない。制服だってちゃんと正しく着てる。シャツだって出してない。生徒指導で呼び出されたことなんてない。
でも、もし悪いことをしたら、もっと花妻は構ってくれるんだろうか。けれど、そんな方法でクラスメイトより構ってもらおうなんて、ますます自分が小学生みたいに思えた。
今より構ってもらうなら、どんな形でも嬉しいけど、どうせなら恋人として関わりたい。
授業中の調理室は、楽しそうな生徒たちの声で溢れ、誰も千秋の邪な熱視線に気づくことはない。
――視線を送られた当の本人以外は。
花妻は、その綺麗な顔を歪めて面倒臭そうな顔をすると、渋々千秋がいるグループの調理台まで歩いてきた。決して恋人からの熱い視線に応えたわけでなく、あくまで家庭科教師としての義務を遂行するためだった。
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