第十三話 【強襲】

 慎重に、もう一度体の状態を確かめるが、どこにも異常は見当たらないし、痛みも綺麗に無くなっている。

 あれだけダメージを受けたはずなのに・・・・・・。


 目の前の小動物は、興味津々といった様子で、こちらをジッと見ていた。

 見た目だけで言えば、愛玩動物ペットに近い気がする。

 とても人を襲うような魔物には見えなかった。


「お前が怪我を治してくれたのか?」

「キュイ?」


 小動物は首を傾げる。

 流石に言葉は通じないか・・・・・・。

 でも、気持ちはきっと伝わるはずだ。


「本当にありがとう。おかげで助かったよ」


 精一杯の気持ちを込めて感謝を伝える。

 すると、気持ちが通じたのか、キュイ、キュイと喉を鳴らし、嬉しそうにしている。

 僕もつい嬉しくなって、小動物の頭を撫でる。

 少し軽はずみだったとも思ったが、こいつも気持ちよさそうにしているので良かったかな。


 さて――――


 これからどうしよう。

 とりあえず、ここから離れないと。

 さっきの怪物がまた現れてもおかしくはない。

 もうさっきのような奇跡は起きないだろう。

 次に会ったら、一瞬で殺される。


「ここから脱出する方法を考えないと・・・・・・」


 ここまで、どのくらい走ってきたのかも全くわからない。

 周りを見渡しても、暗々とした木々に囲まれており、どこから来たのか、方向すら見当がつかなかった。

 アイテムも全部置いてきてしまったし、水や食料も無い。

 このままだと、あの怪物に殺されなくても、いずれ餓死してしまうだろう。

 正に絶望的な状況である。


 しかし、不思議と恐怖心や絶望感は湧いてこなかった。

 もしかして、これもさっきの光の効果なのだろうか・・・・・・。


 そうこう考えていると、小動物が足下にすり寄ってきた。


「もしかして、僕のこと心配してくれてるの?」


 キュッとひと鳴きし、こちらを見上げている。

 僕はもう一度、小動物の頭を撫でた。


「ありがとう。僕にも君のような仲間がいれば心強いんだけどなぁ」


 そんな願いが、口から零れてしまう。

 従魔を使役していないテイマーなんて、何もできないのと一緒。

 そんなことは、とっくにわかっているんだけど。

 でも、いつか父さんや母さん・・・・・・あの物語の中の勇者のようなテイマーになれると信じてるから。

 母さんとの約束を思い出す。


「自分の力を信じて、強く生きる・・・・・・そう母さんと約束したんだ。絶対に生き延びてやる!」


 そう覚悟を決めた。

 その時――――



「――――っ!!」


 ふいに、周囲から草木を踏みしめる音が聞こえてくる。

 それも、1つ2つじゃない。

 多くの足音がこちらへ向かってくるみたいだ。


 魔物だ――――。

 セレスが気づいたときには、既に周りを囲まれているようだった。

 草木の陰から現れたのは、20体ほどの鬼人オーガ

 緑色の皮膚を持つ人型の魔物であった。

 同じ皮膚の色のゴブリンとは違い、一体の大きさは約2メートル程あり、頭には一本の角が生えているのが特徴である。

 鬼人オーガは単体でもCランク相当で、複数相手だとBランクまで戦闘難度は跳ね上がる。

 しかも、よく見ると、杖を持った鬼人オーガや鎧を装備している鬼人オーガも確認できた。

 鬼人オーガ達は群れを形成しているのだ。

 更に、最悪なことに。


「な、なんで鬼人王オーガキングが・・・・・・」


 その中に一際大きい鬼人オーガがいた。

 それは、特Aランクの魔物と呼ばれる鬼人王オーガキング

 鬼人王オーガキング単体であれば、Aランク相当の魔物である。

 しかし、鬼人王オーガキングが現れる時は、必ず他の鬼人との群れを形成していることが多く、Sランクパーティでの討伐が求められている。

 こいつがダンジョンに出現した時点で、緊急クエストが発出されるほど危険な魔物だ。


 しかも、セレスの本能が警鐘を鳴らしていたのは、鬼人王オーガキングだけではなかった。

 鬼人王オーガキングの後ろにいる、全身が真っ黒な鬼人オーガ

 黒の鬼人オーガなんて聞いたことがない。

 それに、鬼人王オーガキングよりも体躯は小さいものの、禍々しいほどの殺気を感じる。


「うぅ・・・・・・一体どうすれば・・・・・・」


 セレスはまだ、驚きと鬼人オーガ達の殺気に当てられて動けずにいた。

 その瞬間、まるで地鳴りのような鬼人オーガ達の雄叫びが上がる。


「「「グオオォォォォ!!」」」


 同時に、空気が揺れるほどの衝撃と、とてつもない殺気がセレスを襲った。


「――――くっ!!」


 無意識だった。

 セレスは咄嗟に小動物の前に飛び出し、庇うように両手を広げる。

 当然、こいつを守れる力なんてない。

 でも、そうしないとダメだと思った。


 鬼人達はこちらが動いてこないとを見るや、攻撃の体勢をとった。

 群れの中で、杖を持った4体の鬼人オーガが何かを呟く。

 すると、空中に大きめの砲弾ほどの火の玉が数十個現れた。


「そ、そんな・・・・・・」


 あんなの避けられる数じゃない。

 ここからでも火の玉の温度で、肌がチリチリと焼けるのが分かる。

 当たれば一瞬で消し炭になってしまうだろう。

 再度訪れる、明確な死の影。


 そんな、セレスが苦悶している様子を、楽しんで見ている鬼人オーガ達。

 やがて、鬼人王オーガキングが「やれ」とでも言うように、杖持ちの鬼人オーガ達に合図を送った。

 鬼人オーガ達が杖を振り下ろすと同時、火の玉がセレスに迫る。


 万事休す。

 セレスは思わず目を瞑った。


「キュ!!」


 その刹那、セレスの後ろから小動物が飛び出した。


「あ、危ない!!」


 セレスは反射的に手を伸ばそうとする。

 次の瞬間、小動物の額の石が真っ赤に輝いた。


「うわっ――――!!」


 あまりの閃光に、視界が奪われる。


 10秒程たっただろうか、徐々に視界が回復してきた。

 セレスはその光景に思わず目を疑う。


「一体何が起こったんだ・・・・・・?」


 20体ほどいた鬼人オーガのほとんどが倒れ、立っているのは鬼人王オーガキングと真っ黒な鬼人オーガだけ。

 倒れた鬼人オーガ達は、全て黒焦げになっていた。

 皮膚が焼けた匂いが辺りに充満しており、鼻がもげそうである。


 そして、僕の目の前には黄緑色の小動物が、鬼人王オーガキングと黒の鬼人オーガと対峙していた。

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